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新説こころあつめる~心烏への旅路~  作者: 心乃助(未熟者)
第壱章「こころよろこぶ」
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第四話『開眼』

「奥義『喜神風来』!! これで終わりでござる!!」


 地上から一町(約109.09m)の高さまで謎の風の力で舞い上げられて、身動きが取れない烏乃助に影隠 鎌鼬が必殺の一撃を発動しようとしていた。


 それは飛び蹴りであった。自分の真下にいる烏乃助目掛けて重力落下に加え、風の力で更に加速。


 加速に加速を加え続け、鎌鼬の蹴りは音速の域にまで達していた。


 このまま蹴られて仮に防御できても、そのまま地面に叩き付けられたら内臓が破裂して死に至る可能性がある一撃だ。


 本来なら考えてる余裕など無い筈なのに、烏乃助はその刹那の時間の中であるものを思い出していた。


『空蹴・絶閃!!』


 空蹴。それは出雲で遭遇したあの男が使用した技。何もない空中を蹴って軌道を変えられる歩法。


 普通に考えてもそんなバカな技が使える筈もないが、あの男は言った。


 『オレとお前は互角』だと。なら、自分にもあの技が使えるはず!


「う、おおお!!」


 一度見たんだ。探せ、自分の体でどうやってあの技が使えるのかを、限られた僅かな時間で探すんだ!!


「が!?」


 間に合わなかった。刀で防御したとは言え、鎌鼬の必殺の蹴りが自分に命中してしまった。


 そのまま鎌鼬は烏乃助と共に地面へと落下していく。


 このままだと、下にいる烏乃助が地面へと激突し、更に鎌鼬の上からの力で体が挟み撃ちとなって内臓が爆発して死んでしまう。


 ――まだだ、まだ時間はある!!


 まだ地面との距離があるが、後一秒もしない内に地面に接触してしまう。


 その限られた時間の中で、烏乃助の意識と体はあの技が使えるようになるにはどうすべきかを試行錯誤し、そしてようやく希望の光を掴み取ったのだ。


 ――間にあ……。


 ったと思われたが駄目であった。そのまま烏乃助は地面に激突した。


 更に上から鎌鼬の蹴りの威力と全体重も合わさって、烏乃助の体だけでなく、下の地面がその威力に耐えきれず、大きく地割れしてしまう程の凄まじい威力であった。


 この攻撃を喰らって、烏乃助は穴と言う穴から血を吹き出してしまった。


「……」


「……即死でござるか。声も上げる間もなく散るとは、良かったでござるな。苦痛もなく死ねて」


 烏乃助が全身から血を流しながら倒れているのを見て、鎌鼬はその場から去ろうとしたが。


「待……で……」


「!?」


 どう考えても死んだと思われていた烏乃助が血を流しながら立ち上がり、その切っ先を鎌鼬へと向けた。


「無理でござるな。生きている事には驚いたでござるが、もう立つのもやっとでござろう」


「ご……ぼ……げほ、げほ! ぺっ!」


 烏乃助は大きく咳き込んだ後に大量の血反吐を吐きながら声が出るかを確認した。


「あーあー、よし、声が出るな」


 何故烏乃助はあの攻撃を喰らって生きているのか、鎌鼬は冷静に分析した。


 ――ふむ、蹴りを受けた刀を斜めにずらす事で蹴りの打点をずらし、更には地面にぶつかる瞬間に合わせて受け身を取ったか、あの刹那の瞬間でそこまでの行動ができるとは、だが。


「上手く致命傷を避ける事はできたようでござるが、明らかに内臓と骨が幾つか損傷しているでござろう? もうお主に戦う力はない。その出血量から見て、放っておいても勝手に死ぬでござる」


「勝手に決めるなよ。俺はまだ生きてるぞ。ほら、止めをさせよ。……そうだな、どうせ殺すならもう一回あの技を使ってくれないか?」


「……は?」


 何を言ってるのか分からず首を傾げる鎌鼬。


「バカでござるか? 一度殺し損ねた技をもう一度使うわけないでござろう?」


「いーや使うね。だってお前本気であの技使ってないだろ?」


「……」


「俺がこうして生きてるのが良い証拠だ。お前、最初っから本気を出してないな? どういう意図があるか知らんが、どうせ死ぬならお前の本気の攻撃で死にたいなー」


 勿論、根拠の無い挑発だ。だが思い当たる節がある。


 この忍者の実力から考えて、疲労と空腹で弱りきっていて、しかも防御できていたとは言え、記憶を失って戦い方を忘れていた自分を殺そうと思えば瞬殺できたはず。


 まるで、記憶を取り戻すまで時間をかけていたような気がする。


 ただの憶測にしかすぎないが、烏乃助はそう思った。


「ふ、ふふふふ」


 それを聞いた鎌鼬は小さく笑い、そして大きな笑い声を上げた。


「フハハハハハハハ!! 何を言い出すかと思えば、拙者が本気を出していない? 何の根拠があって言ってるでござるか?」


 鎌鼬が腹を抱えながら笑い続けた後、鎌鼬は再び強烈な殺気を発しながら顔を上げた。


「だが、そうでござるな。本気あるなしに関わらず、あの技には絶対の自信があったでござる。それで仕止められなかったのならば」


 また、烏乃助の周囲に謎の竜巻が発生した。


「お望み通り本気の本気の一撃で葬ってやるでござる!!」


 再び烏乃助の体は遥か上空まで舞い上がられた。


 今度はさっきの一町ではない。それ以上の高さだ。


「喰らうでござる。『喜神風来・羅刹(らせつ)』!!」


 鎌鼬は烏乃助よりも高い位置から先程の蹴りの数十倍もの威力と速度を持った蹴りを放ってきた。


 今度はどう足掻いても当たっただけで死ぬ。


 ――使える、あの男の技が、俺にも!!


「死ねぃ!!」


 明らかに音速の域を越えた速度で鎌鼬の蹴りが迫り、そしてその蹴りは烏乃助の鳩尾(みぞおち)を捉えていた。


()った!」


 しかし。


「ぬぅ!?」


 なんと烏乃助がその場から消えたのだ。


 鎌鼬は止まることが出来ず、そのまま地面に落下すると、先程できた地割れが更に大きくなり、半径二町(218.2m)の範囲の地面が大きく凹み、砕けて、地震のような地割れが発生し、その地割れの間に大量の木が落ちてゆく。


「馬鹿な! あの状態からどうやって回避した!?」


 と、鎌鼬が空を見上げると、そこにはこちらに向かって落下してくる烏乃助がいた。


「おおおおおおおお!!」


 開眼した。烏乃助も『空蹴』と同じように何もない空中を蹴って軌道を変えることができた。


 ――基本歩法が一つ『長元坊(ちょうげんぼう)』。


 改め!


 ――特殊空中歩法『超幻望(ちょうげんぼう)』。


 開眼!!


「これでようやくお前と対等だッ!!」


「ぬかすな小僧ッ!!」


 冷静さを失った鎌鼬が風の力で跳躍しながら、空中で烏乃助の刀と鎌鼬の鎌が衝突して火花を散らした。

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