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18 ラブコメ展開

 朝川ちゃんの大きな叫び声が聞こえた。月待さんが見つかってしまったのだろうか。


 部屋へと慌てて駆け込んだ。


「こ、これは……何ですか。先輩」


 良かった。


 最悪、朝川ちゃんと月待さんが鉢合わせてる構図を想像していた。だが、目の前にあったのは、プルプルと震えながら月待さんの使用しているベッドを見ている朝川ちゃんだけであった。


 月待さんが見つかったのではないと分かりホッと一息ついた。


「何ってベッドだけど?」


 平然と、さも朝川ちゃんの質問が見当違いのように首を傾げて言って見せた。


「ベッドだけど? ……じゃないです!

 どうして岡崎先輩の家に、女性のっぽいベッドがあるんですか!?」


 朝川ちゃんは指を立てて前のめりに言う。


「どうしてって……」


 月待さんと同居しているからだ。とは言えないし。


 それに、朝川ちゃんは何で怒っているのだろう。俺が誰かと住んでいると朝川ちゃんが困ることでもあるのだろうか?


 それに、女性の物らしいベッドと言うなら、俺には姉がいて、姉と同棲しているとも考えられるではないか。


「それで、ホントのところはどうなんですか?」


 ムッとした表情で追求してくる。黙りで誤魔化すのは無理がありそうだ。


「……実はさ、隠す気はなかったんけど、今従姉妹が長期的に居候してきてるんだ。なにぶん長い間いるっていうから、お客さん用のベッドもなかったし、買ってあげたんだ。だからそれは、俺の従姉妹が使ってるって訳」


 あ、しまった。言ってから自分の発言の矛盾に気づいた。


 だって俺は以前朝川ちゃんに、一人暮らしで親も身寄りもないと話したことがあるのだ。身寄りがないのに従姉妹がいるのは可笑しな話だから。


 朝川ちゃんがそのことを忘れてくれているか、鈍感であってくれると助かるんだけど。


「……へーそうなんですか。岡崎先輩に従姉妹さんがいたんですね」


 てっきり、「そんな嘘で私が騙されると思ったんですか!?」とか何とか言われると思っていたが渋々納得してくれたようだ。


 安心した。朝川ちゃんは鈍感だったみたいである。


「お姉さんですか? 妹さんですか?」


「……あ、姉だよ」


 ふむふむと、頷いている。


「お姉さんは今どちらに?」


「今はちょうど大学で講義を受けてるんじゃないかな」


「……お姉さんでしたか。なるほど、ふんふん、今度ご挨拶をしなければ」


 おかしいな。


 どうしてバイト先の女の子が、俺の姉にご挨拶をする必要があるのだろう?


 ……と思ったが、今はそれは置いておこう。


 というか、そういえば月待さんは?


 朝川ちゃんに見つかってないということは、あの数瞬で上手く隠れてくれたということだ。


 一体どこに隠れたのだろう?


「嫁姑と言うし、今のうちに仲良くなっておかなきゃ……」  


「うん、そうだね。そうしてくれると助かる」


 独り言を呟く朝川ちゃんに、適当に相槌を打ちながらさり気なく部屋を見回した。




 __と。


「……………………!」


 あるものを見てしまい、咄嗟に自分の口に手を当てて、声が出るのを抑えた。


 ビックリした。


 だって、俺のベッドの下に月待さんがうつ伏せのものすごい体制で隠れていたから。


 俺と目が合うと、月待さんは「大丈夫ですよ?」というような顔を見せてくれる。だが、とても大丈夫そうには見えない。


 あの体制でずっといるのはキツいだろう。早々に助けてあげなければならない。 


 というか驚いた。あのベッドの下に隠れると、うまい具合に屈んだりして、わざわざベッドの下を覗き込まない限り月待さんは見えないようだ。


 しかし逆に言えば、うちのベッドの下の隙間はそれくらいに狭かった。そしてその小さな隙間に月待さんは身体を押しこめている。


 独り言を言っていた朝川ちゃんは、眉間に眉を寄せて見せる。


「岡崎先輩、色々言い訳とか付けて、実は従姉妹の話とかは嘘で、この家に私以外の女の子を住まわせていたりして」


 悪戯の笑みでクスクス笑いながら言う朝川ちゃんは、なかなか鋭い。一つ疑問なのが、なぜ自分を前提として私以外と言うのかと言うことだ。


「そんなわけないよ。朝川ちゃんがいつも言うように、そういうのは俺とは縁遠い話だよ」


「……そうでしょうか。見えているのに、見ようとしてないだけで、密かに先輩のことが気になってる女の子もいるかもしれませんよ?」


「あったらいいんだけどね」


「……すぐ側にあります」


 朝川ちゃんは意味深に呟いた。


 とにかく何はともあれ、月待さんをそのままにしておけないので、俺は一刻も早くこの子にこの場から退出してもらわないといけない。


 そうは言っても、いきなり帰れと言えば、絶対に怪しがられるだろう。


 無難にさり気なく、帰るように促せないだろうか。


「朝川ちゃんはこの後の予定は?」


「ないですよ。丸一日先輩に付き合ってあげられます」


 嬉しいでしょ? ……と言うように、目の下を赤くさせながら笑う。


 一瞬、その純粋な笑顔に見惚れてしまう。


 ……じゃなくて。余計な思考を振り払う。今この時も月待さんは無理をしているのだから。


「用事があるならさ、無理せず……」


「無理なんかしてません。私まだ帰りませんよ」


 語尾に音符がつきそうな弾んだ声音で朝川ちゃんは言って見せた。現実とは上手くいかないものである。


「ん? あれ。何でそんなことを聞くんですか……?」  


 さらに朝川ちゃんはハッと我に返って聞かれたくないことを聞いてくる。


 普段なら、平然と何となく聞いただけだよと返事できるのに、今は少し後ろめたさがあるせいか直ぐに返事ができなかった。


「何でって、ほら……朝川ちゃんも忙しかったら早く帰らないと次の予定に遅刻しちゃうかなって思ってさ」


「まるで私に早く帰って欲しいような物言いですね」


 朝川ちゃんは不機嫌そうに目を細めて見せてから、いつもの笑顔になった。


 一瞬不機嫌そうな顔をしたのに、満面の笑みでいるのが恐ろしい。


「ええー? なんかおかしいですね。岡崎先輩がそんな素直に私の心配をしてくれるなんて。もしかして隠し事とかしてたりして」


 本当はこちらの胸の内を分かっているような顔で、口元を手で抑えてニタニタ笑いながら言った。


 もしかして色々と分かっているのか? いや、そんなことはないはずだ。


「まあ? 暗くなったら危ないから早く帰ってということならあれですけど……? 家まで誰かさんが送ってくれるから私も満更でもありませんが?」


 よし、よく分からないがいい感じになってきた。このままうまい具合に話を合わせて帰宅してもらう流れに持って行こう。


「そうそう、だからさ、今日は早めに……」


「話を逸らして誤魔化そうとしないでください!」


 朝川ちゃんはムッとした表情で否定した。


「で、何を隠してるんですか?」


 どっちなんだよ。


 距離を詰め寄り問いただしてくる。その圧に、俺はじりじりとベッドに追いやられていく。


「何も隠してなんかない。そうだほら、お茶でも淹れてあげるから……」


 そう言いながら、話題を変えようとキッチンの方へ方向転換しようとしたのが悪かった。


「待ってください……! 行かせませんよ。先輩は直ぐそうやって逃げようとするんですから」


 行かせまいとグッと腕を引かれる。


「朝川ちゃん……! そんなに引っ張られると……」


「ひゃっ……! 来ないでください、先輩!」


 身体を持っていかれそうになり慌てて後ろに下がろうとする。しかし忘れていた。後ろにあるのはベッドなのだ。


 下がろうとしたせいで、膝カックンされたようにベッドに足を取られ、背中から倒れ込んでいく。


「…………………うわあ!」


「先輩……! 危ない!」


 ベッドに背中から落ちていく俺を見て、朝川ちゃんは咄嗟に助けなければと思ったのか、俺を抱き留めようとしてくれた。


 しかし朝川ちゃんは俺よりずっと軽いから……。


「きぃやあぁーーーーーーー!」

「うわあぁーーーーーーーー!」


 巻き込まれるように朝川ちゃんは覆い被さるようにして倒れ込んできた。


「……いたた……って、そんなに痛くない?」


 背中から落ちたからそれなりの痛みは覚悟したが全然そんなことはなかった。落ちた先が布団であるから当然であった。


「…………ん……」


 なに……!?


 身体は痛くはない。痛くはなかったのだが、別のもっと大変な問題が発生していた。


「…………大丈夫でしたか…………先輩?」


 そう、大変な問題というのは俺の上に覆い被さっている少女のことだ。


 そういえば朝川ちゃんは巻き込まれるように倒れてきたのだから、こうなってもおかしくはないのだ。


 とはいえ朝川ちゃんも歴とした年頃の女の子である。身体も年相応に成長しているわけで、身体が密着していると色々その、あれだから大変よろしくないのだ。


 具体的に説明すると、朝川ちゃんは俺の上に綺麗に倒れてきたから、俺の胸の辺りには柔らかい朝川ちゃんのあれの感触があり、俺の足の間に朝川ちゃんの右足が入り込んでいる。当たり前のことだがそれ以外にも沢山密着してしまっている。


 自分のものではない柔らかい人肌の感覚と、そこから伝わってくる温かい温度。そして終いには耳元から甘やかな吐息が聞こえてくる。左の耳元に朝川ちゃんの口許があるからだろう。


 とにかく非常に危険な状況だ。


「お怪我とか……ありませんでしたか?」


 朝川ちゃんが喋るたびに、耳に緩い女の子の吐息がかかる。ただの朝川ちゃんの喋った時の息なのだけど、女の子だと言うことが少し脳裏を過ぎるとそれが頭に吸い付いてくる。


 それに触れたことのない、胸元に感じるとても柔和なものはヤバすぎて頭がクラクラしてくる。自分でも身体が火照ってくるのが分かった。


 危険だ。この状態は余りにも危険すぎる。速やかに脱出しなければ大変なことになってしまう。


「大丈夫。朝川ちゃんは怪我とかなかった?」


 あくまで平然を装い声をかけた。


「ふわぁ…………」


 だというのに、朝川ちゃんは追い討ちをかけるように喘ぎ声をもらした。言ってから気づいたが、俺の口許も朝川ちゃんの耳元にあるから同じことをしてしまったようである。


「あ、いや、今のは違うんです……決してついそういう声を出してしまったわけではなくてですね……」


 物凄く声を震わせながら弁明してくる。


 いい、そんなことはいいからとにかく上から退いてほしい。じゃないと俺が正常な判断ができなくなってしまう。


 首のあたりを不快に感じて加えて気づいたが、俺の首元には朝川ちゃんの髪が這うようにしていてくすぐったい。鼻孔にはシャンプーか分からないが甘い香りがする。


「……これは不可抗力なんです……先輩を助けようとしたら……ああ、もう。恥ずかしいよ……」


 朝川ちゃんも女の子なのだ、耳まで真っ赤にして混乱している。


「と、とりあえず、退いてくれるかな?」


「ふぇ? ……は、はい。そ、そうですね」


 俺がそう言うと、朝川ちゃんは少し残念そうに頷いた。


「…………んっ」


 朝川ちゃんはごくりと嚥下した。


 頷いてくれたのだけど……退いてくれない。俺の頭の横に手をついた状態で、ジッとこちらを上から見つめたままの格好から動こうとしていない。


「岡崎、先輩…………」


「朝川ちゃん………?」


 声をかけても朝川ちゃんの瞳は吸い込まれるように俺の瞳を見つめてくる。朝川ちゃんは普段は元気で気付かないが、その実とんでもない美少女である。それがこういう状況になると如実に理解できた。


「わ、わたし……」


 未だ退いてくれていない。故に朝川ちゃんの脚は俺の脚に絡まったままである。


 終わった。先程から強くあれを押し付けられ、耳に息を吹きかけられたりしているのだ。思春期の男子が正常でいられる訳がない。


 顔を朝川ちゃんから背けた。


「あ、あれ……」


 朝川ちゃんは顔を真っ赤にして、視線を下に落としていく……。


 ☆☆☆


 あの後朝川ちゃんとは気まずい雰囲気になったが、軽く挨拶をして別れることになった。まあ無事に帰宅してもらえたと言う訳だ。


 明日顔を合わせるのが億劫である。とはいえ、やっと一息つけると思っていた。


 ……なのだが、どうしてか次の問題が発生していた。


 それは月待さんの機嫌である。


「……………………」


 月待さんはせっかくベッドの下から出たというのに、何も言わずに正座をしている。


 表情は変わらず一言も口にしてない。


 そっと飲み物を渡してあげれば、こくりと小さく頷いて受け取るだけであった。


 間違いない。理由はわからないが、月待さんはどうしてか凄く怒っていると見える。もしかしたら長くベッドの下から出れない状況の時に、俺と朝川ちゃんがあんなことになっていたから不愉快に感じたのかもしれない。

見ていただけている方に感謝です。ありがとうございます。

今回はラブコメ展開によくあるあれを書いてみました。本来こういうことは非現実的で私の書かない領分なのですが、かけるか書いてみました。少しでも楽しんでいただけてたらと思います。


次回から月待さん多めとなります。

続きは今週中です。

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