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15 後輩ちゃん4

 一年生で朝川恋花という女生徒を知らない生徒はいない。

 そう断言してもいいくらいに、恋花は一年生の間では有名だった。

 その人気は留まる事を知らずに、二年生が恋花をわざわざ見る為に足を運んだりしていた。


「あの子可愛くね?」


「同じクラスとかやべーよ、仲良くなりてーな」


 初めてのクラスでよく言われるのは、「めちゃくちゃ可愛い子がいる」という言葉。

 それはこの学校に入学してからも、男女問わずに散々言われ続けてきたことだ。


「俺と……付き合って下さい!」


「……ごめんなさい。私、付き合うとかそういうの……今は考えてないんです」


 今に始まったことじゃなかった。

 恋花がモテるのは当然のことであったし、恋花自身も人が自分を好きになるのは当然だと思っていた。

 そういう努力をしてきたから当然だ。


 鏡を見ながらニコッと笑う。


「私って可愛いな……」


 我ながら凄く恥ずかしいことをしているのに、本気で自惚れてしまう。

 しかしそれほどに、恋花は自分の容姿に自信があったし性格にも自信があった。


「なんでそんなに顔小さいのー?」


「ダイエットしてるとか?」


「ううん。野菜を多めに食べてるからかな……?」


「うっそー!絶対こっそりダイエットしてるでしょー!」


「してない、してないって……へへ」


 たまにクラスにいると思う。

 まあまあ可愛いのに。まあまあカッコいいのに。全然笑ったり話に参加したりしないから、影が薄くなって注目される事のない子たち。

 小学校の時の同じクラスにそういう子がいた。

 というか、そのうちの一人が私だった。


「私は変わるんだ。最大限にこの容姿を生かして笑顔で可愛く振る舞おう。自分から頑張って勇気を出して話しかける。そして、ずっと可愛くいる為に野菜も沢山食べて、運動も頑張って、勉強とかも頑張ろう。私は変わるんだ」


 小学校低学年の頃に、鏡の前でそう決心した。


「ねえ、昨日のテレビ面白かったね?」


「え……う、うん。面白かったね」


 はじめは隣の席の子に話しかけた。

 幸運にもその子がクラスの中心的な存在だったから。


 最初は「なんだろう?」という顔をされたりもした。

 でも、私は出来る限りの努力を沢山した。


 つまらないクラスメイトの話を楽しそうに聞いてあげたし。

 興味のない話にも積極的に参加した。

 とにかく笑顔を振りまいた。


 すると気づけば、恋花はクラスの輪の中にいた。


 簡単なことだった。

 彼女は元から容姿が優れていたから、笑って話していれば誰だって好きになったのだ。

 それだけのことだった。


 後は子供社会の中で優位に立つために、寝る間も惜しんで勉強したりランニングをしたりした。

 成長期と言うのは面白いもので、行動がすぐに結果に結びつく。

 努力したおかげで運動会で主役になれたし、テストの度に皆に羨ましがられた。


 気づけば。

 僅か三ヶ月で、恋花はなりたかった理想の自分になれていた。


 それからも色々な努力を続け。

 恋花は中学校、高校と、努力を含めて人気者の私を手に入れていた。


 そういう努力をしたから恋花は必然的に人気者になったのだ。


 幸運だったのは、優れた容姿に生まれてきたことだろう。

 だけどそんなことは、本当に様々な努力をしてきた恋花にとってはおまけみたいなものだったけど。


 高校生になって……。


 しかしそれでも、恋花は人生で再び壁に直面することになった。

 それは、はじめて本気で好きになった人には好きな人がいたということだ。


 自分にできることは努力することだけ。

 子供の頃からの自分への教訓だ。


 大丈夫。絶対に上手くいく。

 だって子供の頃からそうだったんだから。

 恋だって、努力していれば上手くいくはずだ。


 あなたを見ると、言葉が見つからなくなる。あなたを見ると、心臓が騒ぎだす。あなたを見ると、顔が熱くなる。

 あなたのことを考えると、苦しくて、切なくて、でも嬉しくて。

 あなたを見ると、声をかけたいのにかけたくなくてずっと遠くで見ていたいような気持になる。

 だけど、もっと近づきたい。

 もっとあなたのことを知りたい。


 だから恋花は考え。

 恋には色々あると思うけど、少しずつやって行こうと決めた。


 まずは、ふとした時に話すような仲になる。

 次は、気軽に話せるような関係になる。

 次は、親密な仲になる。

 次は、もっと親密な仲になって。

 そして、そして……自分を好きにさせようと。


 けれどもそれは、上手くいかなかった。

 どうしたって手に入れたくても手に入らないものを、簡単に持っていってしまう人がこの世にはいるからだ。

 突然に現れた敵。


 月待美桜は、朝川恋花にとっての恋のライバルなのだ。

 きっかけは少し前。

 ふと立ち入ろうとしたラーメン屋さんで、二人で仲良くしているのを見た時だ。

  それからも観察していたのだが、月待美桜は岡崎先輩に好意を向けてもいないのに、二人でいる時があった。

 導き出せる結論は一つ、岡崎先輩から月待美桜にアプローチをしているのだ。

 その時から、私は焦った。

 そして、決意したのだ。

 もっと岡崎先輩に積極的に行こうと。


 恋花はこの恋が上手く行くと思っている。

 だって、子供の頃から努力して全てを手に入れてきたのだ。

 この世界には、目に見えない努力パラメータがあって、それがある一定の値を超えた時に結果がついてくると知っている。

 だから、恋もそうなると信じている。

 いや、絶対にそうなるし、そうして見せる。


 大丈夫。私は大丈夫……。


 恋敵がいることだって、弱気になるようなことじゃない。

 寧ろ敵がいる方が燃えるし。

 それに、困難の先に手に入れた方が物事は嬉しいものだ。


 努力は私を裏切らない……。


 そう自分に言い聞かせて、布団の中で瞼を閉じた。




 強いて一言言うならば……。

 朝川恋花は、努力で今の朝川恋花を手に入れた。これに対して、月待美桜は天然で今の月待美桜だということだ。


 ☆☆☆


 朝川恋花は上機嫌でクラスに戻った。

 彼女は常に笑顔でいるが、今日ほどニヤニヤしているのは珍しい。

 クラスメイトの友達に見抜かれるのは容易だった。


「あれ、恋花ちゃん何か良いことでもあったの!」


 クラスに戻ってきて直ぐ。

 仲の良い友達がそう話しかけてきた。


 自分でもニヤニヤしてしまっているのは分かっていたし、つい頬が緩んでしまってもいた。

 だけど、恋花は八方美人な面があるので常に笑っているのだ。

 落ち込んでいるのを見破るのは簡単でも、機嫌がいいのを見破るのは難しい。

 それを容易く見破ってくれた友達がいることも、より恋花の幸せパラメーターを上昇させた。


「そうなの!やっぱりわかっちゃうのかな? ……えへへ」


 恥も外聞も気にしないで恋花はそう言った。

 傍から訊いたらウザい言い方だと我ながら恋花は思ったが、彼女はそういう性格だと周知されているのを自分で知っていた。

 だから嬉しさを隠す必要もない。

 それに隠すことなどできないほどに嬉しいのは事実なのだ。


「なになに!恋花ちゃんがどうしたの?」


「あ、えーとね。なんか恋花ちゃんがニヤニヤしてるの!」


「え、それってもしかして彼氏ができたとか!」


「あ、そうかも! ……ねえねえ、恋花ちゃんそうなの?」


「あ、えーと……」


 仲の良い友達に詰め寄られる。

 これは不味いことになってしまったと思った。

 思春期の女子というのは、無理やりにでも恋バナに持っていきたがる面倒くさい生き物なのだ。

 そんな生き物の前で浮かれてしまうのは無防備すぎる。

 だからここは、全力で否定しないといけないところだ。


「……そんなんじゃ……ないよ」


 恋花は指で髪を弄りながら、ぼそりと俯いた。

 あたかもそれを匂わせるように。


「きゃー!なにその反応!」


「これもう絶対彼氏ができたパターンだね!」


「うんうん!確定だねこれは!」


 言及してくる友達に、恋花は続けて呟いた。


「や、やめてよ……別にあの人は彼氏とかじゃないから……」


「あの人だって!きゃー!」


「もしかして彼氏とか通り越して、もうそういう関係だったりして!」


「かもかも!」


 加熱し暴走していく彼女たち。

 月待美桜なら完全に否定していただろう。

 しかし、恋花はその、まだありもしない話を繰り広げている女子たちの話を聞いているのも、心地が良かった。

 寧ろ、もっともっと言って!

 そう内心で思っていた。


「そんなことないよー!」


 恋花は目立つ。

 彼女自身も目立つし、彼女を取り巻く女子たちもかなり顔立ちが整った部類だ。

 故にクラスメイトたちに注目される存在であった。


 特に男子たちは恋花に熱を上げている者も多く、恋花が髪を切るだけで男子たちの話題になるくらいだ。

 だから、発言には注意しなければならない。


 だが、恋花は全く気にしないでペラペラと話を続けていた。そんなことをしていると、ついポロっと口が滑ってしまった。


「岡崎先輩とはそういう関係じゃないから……」


「聞いた聞いた?!岡崎先輩だって!」


「先輩ってことは年上だね!凄いなー先輩なんて。恋花ちゃん大人っぽいもんね」


「ありがとう。でもほんとうに先輩とは付き合ってるとかじゃないから……ほんとうに違うんだよ?」


 恋花は目の下を赤くして、プイッと顔を背けた。

 その動作がより一層彼女たちを刺激するのは当然だ。

 そしてその所作も、恋花がわざとやっているのは言うまでもなかった。


「とにかく……ね? ……岡崎先輩とはバイトが一緒なだけで……お仕事を教えてもらってるだけで……それだけなんだよ……」


「手取り足取り教えてもらってるんだね!」


「わー!見てみたいな見てみたいな!恋花ちゃんの彼氏の先輩さん!」


 そうこうして、恋花はお昼休みが終わるまで空想の彼氏についての質問攻めにあった。

 それだけなら恋花と取り巻きの話で終わっていただろう。

 だが、恋花と彼女たちは目立つ存在である。

 周りの声など気にせずに普通に話していた。

 さらに、会話の節々に彼氏と言われている人物の具体的な名前も挙がっていた。


 一年の美少女。

 朝川恋花は恋をしている。

 そしてその恋い焦がれる相手は、二年生の岡崎先輩……。

 その噂が学校内に広がるのはあっという間であった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

今回は本当はこの後のことを主として書こうと思ってたのですが、思った以上に四千文字くらい行ってしまったので今回はここで区切らせていただきました。


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