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12 カーテンは開けておきましょう

 帰宅した俺たちはせっせと部屋の仕切り作りに励み、時計の針が八の値を指す頃には作業が完了していた。


「ふぅ……やっとできましたね」


 傍らに立っている月待さんは、達成感のある表情で額の汗を拭った。


 完成した仕切りは、かなり簡易的なものとなったが、見た目はそれなりのものとなった。百円均一で買ってきた物を駆使し、天井にレールのようなものを走らせ、そのレールのようなものにS字フックの頭を引っ掛け、反対の下のフックにカーテンの輪っかを引っ掛け、結果、スライドすることで、開けたり閉めたりすることができる、本物のカーテンを、部屋の真ん中を横断する形で作ることができた。たださすがに部屋を仕切るだけの大きな布は百円均一にはなかったので、近くの別のホームセンターで本物のカーテンを買うことになった。カーテンの柄は、月待さんが選んだ可愛らしいキャラクターが数多にプリントされているものである。


「ほとんどお金かけてないのに、それらしくいい感じになったね」


 開けたり閉めたりする。天井から床下辺りまで足を伸ばしたカーテンは、ギリギリ床に触れない高さで、ちょうどいい長さだ。


「はい。とても可愛らし…………ちゃんとしたものができて良かったです」


 嬉しそうに両手を合わせて笑う。相当プリントされているキャラクターが気に入っているのか、俺の視線を気にしながらも、まじまじとその可愛らしいキャラクターを見ている。


「月待さん、こういうの好きなんだね」


 俺がそんな感想を洩らすと、月待さんはシャンとした表情をする。


「……好きとかではなくてですね、たまたま最初に目に付いた物がこれだったので……」


 若干声を強張らせて、そんなことを言った。


 あくまで可愛らしいデザインに見惚れていたとは思われたくないらしい。その割にはお店で、十分ほど、そのカーテンを手に取って悩んでいた。最終的には、「こ、こっちのカーテンの方が、二百円も安いですよ!」と、必死にこのカーテンを推してくるものだから、なんだか可愛いのとそれ以上じらす必要もないので、これを買うことにしたのだ。


「そっか」


 月待さんが触れて欲しくないというなら、触れないでおくべきだろう。ただなんかその……シャンとしている月待さんが、こういう普通の女の子が好きそうなものに、うっとりしているのが可愛く見えて、それをもっと見ていたいと思っただけなのだ。


「本当に、たまたまこれを選んだだけなんです……」


 子供っぽく思われたくないのだろうか。女の子は繊細だと聞いたことはあるし、こういうことなのかもしれない。


 …………あ。

 そういえば……


 ふと、気になったことが頭に浮かぶ。


「カーテンはいつも閉めておく?」


「……あ、そうでした。どうしましょうか……」


 なんとなく気恥ずかしいので、俺と月待さんは視線を交わしてから、別の場所に視線を落ち着かせた。


 カーテンを開けておくか、閉めておくかは大事なことである。


 もしいつも開けておくならば……プライベートな時間は減るし、仕切りをどちらかが閉めた時に、『あー今から着替えるんだなー』とか思われたりして、お互いに気まずい状況が多々訪れることになるだろう。


 しかし逆にいつも閉めておくならば、一緒に暮らしているのにも関わらずにずっと閉めておくという事は、変な距離感みたいな壁ができそうだし、月待さんとも話す機会が減って、ここ二日ほどで築き上げた仲は薄れていくに違いない。


 ……て、俺は何を求めているんだか。

 ……何を勘違いしそうになっているんだか。

 ……何一人で期待しているんだか。


 もしかしたら月待さんは、俺と一緒に暮らすことになったことが嫌かもしれないのに……。仕方なく、俺にも笑ってくれていて、愛想を見せてくれているだけかもしれないのだ。


 俺と月待さんは非常事態で同居しているだけであって、仲が良くないといけないというルールなんか存在しないのだ。


 そうだ、そうだとするなら。


 実際月待さんが俺と暮らすことを否定的に感じているなら、優しくて人想いな、月待さんの口から「……いつも閉めておきましょうか」と言いだすのは言い辛いだろう。


 そうとなれば、男の俺から「カーテンは閉めておこう」と気を遣って言うべきだろう。


 いや、本音を言うと、月待さんからそう言われたら、俺も少なからず落ち込むだろうと分かっているので、せめて自分から言った方が楽だと思ったのだ。


「あのさ……」


「あのですね……」


 俺と月待さんがしゃべりだしたタイミングは同時だった。


 お互いに目を合わせる。


 月待さんは俺を包み込むような瞳で、穏やかにくすりと笑う。俺はどうして笑われたのか分からなくて気恥ずかしく感じた。


「……岡崎くん。間違ってたら申し訳ないですけど、いま……私に気を遣ってカーテンは閉めておこうって言おうとしてましたか?」


「…………」


 ずばりその通りなので、否定する言葉が浮かんでこない。


「……ふふ、やっぱりそうなんですね」


 再度、おかしそうに笑った。


「岡崎くん……私はですね……」


 月待さんは一度何かを言いだそうと口を開いたが、けれどゆっくりとその口を紡いでから言った。


「……岡崎くん。着替えをする時とか以外、カーテンは開けておきましょうか。 …………ね?」


 真っ直ぐ見つめてきて、さぞ当たり前のことのようにそう言われたから、俺は頷くことしかできなかった。


 この時、もしかしたら月待さんは俺を……なんて、変な勘違いはしなかったけど。少なくとも、「仲良くやっていきましょう」的なことを言ってくれているのは分かったので、俺もそれに応えたいと思ったのだ。


「月待さんがそう言ってくれるなら……そうしようか」


 照れ臭いから、月待さんを直視しては言えなかった。


「……はい」


 月待さんは、嬉しそうに小さく声を弾ませた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。僕の小説はこのように、ほのぼのしたような展開が滑らかな感じで昇っていく形になりますので、ゆっくり楽しんで頂けたらと思います。次回も見て頂けたら嬉しいです。

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