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11 後輩ちゃん2

「……岡崎くん?」


 その時、月待さんの俺を呼ぶ声が聞こえた。




「あれ? 今誰かが先輩を呼んでませんでしたか」


 朝川ちゃんが、俺の後ろを覗き込むようにする。後ろには月待さんがいるから、絶対に後ろが見えないように、俺は背伸びして阻止した。


「気のせいじゃない? 似たような名前の人でもいたのかも」


 朝川ちゃんは「うーん……」、と思案してから。


「……それもそうですよね。女の子の声っぽかったし……岡崎先輩に女の子の友だちがいるはずないですよね……うんうん……」


 酷い言われようだ。

 それが実は昨日できたんだ。 ……と真実を言いたいが、グッとその気持ちを飲み込んだ。


「明後日からは普通に来るんですよね?」


 朝川ちゃんは、気のせいだと思ってくれたらしく話題を逸らした。

 多分、バイトのことを言っているんだろう。


「もちろん。 ……休んだ分しっかり働いて返すよ」


「びしばしコキ使わせていただきますね!」


「はは……」


 笑顔で言う朝川ちゃんに苦笑いで頷いた。


「でも、良かったです……」


 不意に、安堵したように朝川ちゃんは口許を緩めた。


「……良かった?」


「……はい」


 朝川ちゃんは真珠のような、薄いエメラルドの瞳を上げて言う。


「先輩がいると、バイト楽しいですから」


 口許を緩めて、ニッコリと首を横に傾げ、朝川ちゃんは微笑んだ。一瞬、ドキリとしてしまった。朝川ちゃんは口が軽くてキツイ時もあるけど、元が可愛い顔をしてるから、この子の笑顔は偶に反則的なんだ。


「あ、勘違いしないでくださいよ。先輩がいないとからかえる相手がいなくて、物寂しいってことですからね?」


 朝川ちゃんは、指を立てて言った。


 そんなことは知っている。朝川ちゃんはほとんどの人に愛想よく振る舞っているから、そのせいで、気軽に話せる相手が、バイト先では人見知りな俺くらいしかいないのだ。そういう意味でってことだろう。


「分かってるよ。勘違いしようものなら、他のバイト仲間にどんな嫌がらせをされるか分かったものじゃない」


 ただでさえ店長に任命されて、朝川ちゃんをマンツーマン指導することが決まった時に、他のバイト仲間に陰口を叩かれたのだから。


「え、それって、誰のことですか?」


「誰って、他の男性従業員の人だよ。朝川ちゃんは可愛いからさ。俺が朝川ちゃんに教えるのが気に食わなかったんじゃないかな」


 それでも話しかけた時に、無視された時はさすがに傷ついたが。でも、バイト先には心から信頼できるやつがいるからそこまでメンタルはやられなかった。


 口に出してから、あ……と、これは言うべきではなかったと思った。他の人の愚痴を言うなんて俺らしくない。今度から気をつけよう。朝川ちゃんといると、つい、思ったことを口に出しがちだ。


「……あり得ない、岡崎先輩にそんなことするなんて……」


 冷たい視線で床を見つめている。


「朝川ちゃん……?」


「はい? ……なんですか」


 と、思ったら満面の笑みに戻った。いつもの朝川ちゃんである。


「いや、なんか怖い顔してたからさ」


「あ……気にしないでください。ちょっと虫を見つけただけですから」


「……そう?」


 朝川ちゃんは、こくりと頷いた。


「明後日はバイトに来れるみたいですし、元気そうなので良かったです。色々お話ありがとうございます。お手数をおかけしました」


 月待さん同様に、律儀にお辞儀をしてくれた。可愛い子というのは皆、こうしっかりしているものなのかな。


 朝川ちゃんは、ふわりと艶々した透き通った金髪を掻いた。


「それでは、私はこれで失礼しますね」


「うん」


 なんだかやっぱり忙しい子だ。


 またね、と言う言い方が、馴れ馴れしいような言い方に思えたので、無難に「じゃあ」とだけ言って手を挙げた。


「はい。また明日ですね」


「……明日?」


「おやおや、忘れたんですか先輩? ……明日一緒にお昼を食べましょうねって、さっき言ったじゃないですか」


 タッと、一歩踏み出して。これまたキスしそうな勢いで顔を寄せてきたのでスンでのところで躱した。この子、いつもこんな無防備に男に近寄っているのだろうか……少し不安になってしまう。いや、これが可愛い子が、可愛い可愛いと可愛がられるための手法なのかもしれない。こっちをその気にさせて、味方に付けるということだ。だが、俺はそんな嘘には騙されないぞ。というか、お昼?


「冗談じゃなかったの?」


「冗談じゃないですよ? ……ちょっと悩み相談を聞いて欲しいんです」


 朝川ちゃんは凛然と言った。


 悩み相談か……また面白がってるだけだと思ったらそうじゃないらしい。バイト先で不満でもあるのかもしれない。そういう愚痴を聞くのも先輩の役目だろう。


「うん、分かった」


「……約束ですよ?」


 ……と、上目遣いで(おそらく)フラグを立てようとする朝川ちゃんの攻撃を最後まで見事に耐えて、「さようならー!」と、ブンブンと手を振る朝川ちゃんを見送った。




「……岡崎くん」


「月待さん」


 朝川ちゃんの後姿を見えなくなるまで見送っていると、いつの間にか横に月待さんが立っていた。


 そして、どこかそこはかとなく、寂しそうな顔をしていた。しばらく放っておかれたから怒っているのかもしれない。


「待たせてごめん……」


「……気にしないでください。あの状況で私が出て行ったら大変なことになりそうでしたし……」


 聞いた所によると、月待さんは棚から顔をチョコンと出して、コッソリ俺と朝川ちゃんを窺っていたらしい。


「……先ほどの女の子は、お友達の方ですか?」


 遠慮がちに聞いてくる。


「バイト先の子だよ。朝川ちゃんっていうんだ……しばらく休んでいたから怒られちゃった」


「朝川ちゃん…………」


 月待さんは、小さくそう呟いた。


「まあ、都合よく暇つぶしに付き合わされてる感じだけどね」


 笑いながら月待さんを流し見ると、艶やかな桜色の唇を紡いでいた。


「……朝川ちゃんがどうかしたの?」


「き、気にしないでください……買い物の続きをしましょうか」


 月待さんはそう言うと、俺の持っている買い物かごを無理やり手に取って、別の棚に駆けて行く。


「み、見てください。この布なんか、可愛くて良いと思いませんか?」


 慌てて何かを誤魔化すように手に持っている商品を俺に見せた。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

有難いことに、ブックマーク数が千を超えまして、夢でも見ているようで、もうこれだけで満足感を感じてしまっているのですが、しっかりですね、頑張って書いていきたいと思います。個人的にはもっと書きたいのですが、色々やりたいことが多すぎるので、全部、やりたいので、その全部をできるようにやっていきたいと思います。そのせいで週一くらいの投稿間隔になりそうです。すみませんm(__)m


ですが、個人的にもこの作品の子たちは私的にも好きなので、楽しくやっていこうと思います。

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