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鳥になりたかった少女4  作者: 葉里ノイ
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第六章『避』

  【第六章 『避』】


 抉れた地面を踏みしめ瓦礫を縫い、警戒しつつ移動する。両脚を失った椎をルナが背負い、声を押し殺して未だ泣くモモの手を隻腕のラディが引く。そのラディの額には汗が滲んでいる。痛覚を遮断すれば痛みを感じないはずだが、あの汗の様子だと上手く遮断が機能していないようだ。

「あの、ラディさん……」

「そこの建物に入ろう」

 モモの手を引く役を代わろうかと言い出すつもりだったルナは、ラディの示した方向を見る。あまり遠くまで歩き続けられないことは本人が一番よくわかっていた。

 入口が半分ほど瓦礫で塞がっている建物に隙間から潜り込む。ラディの息が荒い。

 建物の中には人の気配はなく、暫く誰も立ち入った様子はなかった。

 ラディは壁に背を預け、どっかと座り込む。

「……あの、ラディさん。ヘッドセットの調子が悪いんですか?」

「ラディでいい。そんな丁寧に言わなくても。――さっきの爆撃でぶつけちまった時に何処か壊れたのかも……」

「えっと、じゃあ……これって頭につけたままでも修理ってできる?」

「修理? できるのか? 違界人でもないのに?」

 尤もな言葉にルナは、違界人ではないけど……と母のことを思い出す。違界の環境の中で誤魔化していた苦い感情が再び込み上げてきた。

「ルナなら修理できるよ! 私の脚も直せたもん」

 脚。

 ラディは椎の脚――正確には今はそこには何もないが、先程の爆撃で彼女の両脚が義足だったことを知った。あの義足を作ったのか? いや義足の修理だけか? どちらにせよ違界の物の修理経験はあるようだ。

「まあいいか……このままじゃどうせ痛いままだしな……外さないと修理はしにくいだろ。我慢しておくから修理してくれ」

 予想よりすんなりとヘッドセットを外しルナに差し出した。そのまま歯を食い縛り横になる。両腕は健在な椎が、ラディの腕の切断面に僅かだか痛みを緩和させる処置を施す。モモはまだ少し泣きながら、その様子を見守った。

 ……さて。

 修理を請け負ってしまったが、椎の義足を修理した時はルナ一人ではなかった。あの時は宰緒や黒葉がいたから修理できたのだ。たった一人で何処までできるかわからないが、ヘッドセットは違界で生きるための生命線だ。少しでも可能性があるなら直してやりたい。幸い少しの工具ならいつも持ち歩いている。

 ヘッドセットを手に取り観察すると、ぶつけたと言っていた箇所だろう、少し罅の入っている部分があった。完全に壊れているわけではないようだ。

(これはどうやって分解……)

 そう思った瞬間だった。頭の中に直接図面のようなものが入り込んできた。想像していると言うにはあまりに鮮明にそこにある。

(これ、ヘッドセットの解体図……?)

 何でこんなものが。と思うが、今自分が装着しているヘッドセットからの情報なのではと思い至る。その図はラディのヘッドセットのものではなく、ルナが装着しているものに形が近い。文字も書かれているが、聞いたことのない専門用語だろうか? それも理解ができる。知らない言葉なのに。

 一気に多量の情報が流れ込み、頭がパンクしそうにクラクラする。


「ルナ! 血! 血が出てるよ!」


 意識が朦朧とし始めた頃、異変に気づいた椎が慌てて叫んだ。

「へ……?」

 ぽたりと地面に赤い滴が落ち、漸く自分が鼻血を流しているのだと気づく。

「大丈夫……?」

 恐る恐るといった感じで椎が尋ねる。

「だ……大丈、夫……」

 焦点がフラフラしつつもルナは頷く。

「中、の……伝達する、部分が……」

 震える指先でラディのヘッドセットに触れ、ゆっくりと修理が必要な部分の分解を始める。丁寧と言うより、思考に脳の大部分を預けているような危うい作業だった。

 修理を任せたラディも、まさかこんな風になるとは予想できなかった。止めた方がいいだろうかと思うが、こちらも野放しの痛覚でそれどころではない。

「これ、で……」

 息を呑んで見守っていたが、やっぱりこれは不味いのではないかとラディは椎を見上げ、だが椎も両脚を失っているため身動きが取れない。それに気づいたモモは、私しかいないと涙を拭き、ルナに駆け寄った。ルナはモモに目もくれない。こんなに近寄っているのに、気づいていないのだ。

 モモはルナのヘッドセットを無造作に掴み、放り捨てた。無理矢理引き剥がされ、脳との繋がりが強制的に断ち切られる。

 ルナは糸が切れた人形のように、そのままその場に倒れ込んだ。顔が蒼白だ。

 何が起こっていたのかわからず、モモはその場で立ち尽くす。

 放り捨てられたルナのヘッドセットはラディのもとへ転がり、一体何が起こっていたのかと無事な手でそれを自分の頭に装着してみた。

「うわ……これは酷い」

 あまりの情報量にルナの頭がパンクしたのだとすぐに察した。自身もパンクしそうだとすぐにヘッドセットを毟り取る。

「オレは技師じゃないから、機械のことはわからない。技師ならともかく、何もわからない奴がこれを一気に脳に放り込まれたら誰でもこうなる……いやルナの場合はもっと酷いか。違界のことすらも碌に知らない状態でこれだからな……。この情報の激流と同時に違界言語の翻訳もされてるはず。違界と向こうの世界の言葉を同時に受信してる状態だろ」

 経験はないが、何だかとても凄そうだと椎は思った。

 モモはラディのヘッドセットを拾い、彼の頭に装着してみる。

「修理、できた?」

 本題に、ラディは一度目を閉じる。先程のルナのヘッドセットのような酔う情報の奔流はない。すっきりとした絶え間ないノイズに安心感を覚える日が来るとは。

「……痛覚が遮断できる」

「直った!」

 モモが両手を上げて喜んだ。

「本当に修理できるとは……こいつ何者だ? ただの向こうの人間か?」

「ルナは凄いよ! 凄い技師だよ!」

「技師かどうかは知らんが……あいつのヘッドセットを付けた時に思う所があった」

「思う所?」

 ラディはモモを手招きし「あいつのヘッドセット、あのままじゃ使い物にならないから、再起動してルナにつけてやってくれ」と指示を出し、モモはこくこくと頷いてルナに駆け寄った。

「たぶんだけど、ルナとオレのヘッドセットは同じ技師による兄弟機だな」

「へぇ、偶然だね」

 違界に技師はそれなりに存在するが、一から制作を行える技師はそれなりに絞られる。同じ技師が作ったものを身につけて出会うケースは特に珍しいというわけでもない。それ事態は間々起こり得ることだ。同じものを製作しても技師によって微妙に癖が違ったりする。装着すると何となくだがわかるのだ。

「でも問題はそこじゃなくて、あいつ、馬鹿でかい鎌持ってたよな」

「うん。ルナのお母さんの」

「母……親?」

「形見って言うのかな」

「形見? 死んでるのか!?」

「どうしたの? そんなに驚いて……」

 突如声を荒げたラディに椎はきょとんとする。違界での生活が長い者にとって人の死とは、そんなに珍しいものではない。そんなに驚くことはないのだ。特に赤の他人の死には。

「いや、それが……ちょっと思い出したんだが、何かあの鎌に見覚えがあるなぁと。まあ見てくれ」

「?」

 ラディは無事な方の手の甲を翳す。そこに一人の少女の姿が映し出された。手に大きな鎌を持っている。そしてルナと同じ色の瞳をしていた。

「この人……」

 持っている鎌が、ルナの持ってきた鎌と似ている。

「これはこの人が違界から向こうの世界に転送された日に撮影された画像だ。当時十三歳。技師の真似事もしていたらしい……生きていたら今は三十五歳、か。名前はリリア。オレの、姉だ」

「!?」


「…………母さんの、名前……」


 搾り出すような声に、椎とラディは同時にそちらを向く。地面に横たわりながら、ルナがこちらを見ていた。まだ具合は良くないだろう、息が乱れている。

「じゃあ……ラディは、叔父、さん……?」

「まだ思考が朦朧としてるみたいだな。お兄さんだ。叔父さんじゃない」

「でも、母の弟だと……叔父……」

「オレはリリアに会ったことがないんだ。この画像も親が入れただけだ。リリアが転送された後にオレは生まれたからな。まだ十九歳だ。お兄ちゃんと呼んでいいぞ。リリアよりお前の方がオレと歳近いだろ絶対」

 確かにルナの方が歳は近いだろうが。

「あ……気持ち悪……」

 無理をして話していたのか、ルナは体を丸めて口元を押さえた。

「この流れだとオレの発言を気持ち悪がってるみたいじゃねーか」

「ラディお兄ちゃん」

「モモは優しいな」

 ラディはモモの頭を撫でてやる。

「装置が兄弟機っていう偶然はともかく、こっちの偶然は出来過ぎてるよな。リリアが死んでるっていうのも驚いたが、一体どんな偶然なんだ」

「母さんは……オレを庇って殺されたんだ」

 ぽつりと、体を丸めたまま虚ろな目でルナは漏らす。まだ鮮明に焼き付いている。あの嫌な光景が。

「向こうの世界は平和で安全だと聞いたが」

「違界の……畸形って奴に殺された。俺が、殺されると思った時に母さんが突然現れて……たぶん、転送で……。相打ちで母さんが死んで、その後近くにいた皆も違界に転送されて……それで」


「なるほど。それで青羽君は違界に転送されてしまったのね」


 ぽつりぽつりと漏らすルナを遮るように、梛原結理は瓦礫から下り立った。

 姿が見えないと思っていたが、何処へ行っていたのか。

「纏めるとこうかしら。青羽君のピンチにお母様が転送で駆けつけ、敵と相打った時に転送装置を壊したもしくは元々出来損ないの装置で、それが暴発。偶々と言うべきか近くにあった兄弟機に共鳴しその近くに青羽君が転送されてしまった――というところかしら?」

「確かに筋は通る」

 少々不満そうだがラディは頷く。

「何か言いたいことでも?」

 敏感に察し、煽るように結理は尋ねる。

「お前、近くにいたんじゃないのか」

「近くではないわ。手の届かない所にいた。近くにいたなら、青羽君を危険な目には遭わせないわ」

「でも向こうの世界にいたんだろ。違界よりずっと近い」

「何が言いたいの?」

「何のための治安維持コミュニティだ。人一人守れないこの様か」

「あなた……向こうの世界が小さな街一つだけだとでも思っているの?」

 すらりと短刀を抜き、結理はラディの首筋に構える。

「……っ!」

 刺激してはいけない。ルナと椎とモモは息を呑んだ。緊張が走る。

 ラディは意に介していないようだが、真っ直ぐ結理を見上げる瞳孔は逸らさない。

「結理、って言ったか。腕は立つと聞いたが、守れる範囲は大きくないんだな」

 諦めにも似た声色が、結理に刀を引かせる。

「そうね。飽くまで組織だもの。一人にばかり構えないわ」

 短刀を仕舞い、ラディの失った腕を一瞥、そして椎の失った両脚、ルナの様子に順に目を遣る。

「コミュニティ、抜けようかしら?」

 溜息混じりに吐き出した言葉は、ラディを唖然とさせた。

「は……?」

「元々は違ったけれど、今は守りたいのは青羽君よ。コミュニティが枷になるのなら、抜けた方が自由に動けるでしょう? 情報は入ってこなくなるし、困った時に助けは乞えないし、後ろ盾もなくなるけれど」

「いやそんなことしろとは……」

「ああ、それと抜けると敵と見なされ始末されるかもしれないわね。返り討ちにするけれど」

「変人と聞いてはいたが……」

「そういえば、随分と詳しいのね。コミュニティのことは違界でもそんなに知られていないと思っていたのだけれど、もしかしてそれなりに有名なのかしら?」

「オレも治安維持コミュニティに所属してるからな」

「あら! 知らなかったわ。新人なのかしら」

 想定外の言葉に、結理は大袈裟に驚いて見せる。

「まあ……最近だけど」

「あらあら、後輩だったのね。下っ端の底辺だから向こうの世界に派遣されることもなく違界で待機という名目で放置されている使い所のない置き人形」

 よくそこまですらすらと罵倒できるものだ。感心すら覚える。

「お前の言葉を全て否定する言葉を思いついた。研修中、これは研修だ」

「何も教わっていないのに」

「ぐっ……」

 言葉では敵わない。そう悟った。

「オレのことは一先ず置いとこう……。お前はコミュニティを抜けるな。情報と後ろ盾は大事だ」

「何故?」

「それで……その上で、オレのレジスタンスチームに入れ」

 再びの想定外の言葉に、結理は今度は目を細める。随分と会話が脱線してきた。

「あら、掛け持ちをしろと言うことかしら……? 残念だけれどあなたの目には興味はないわ」

「オレもお前に興味はない。……って、目?」

「血の繋がりは多少あるようだけれど、あなたの目の色はいらないわ」

 ラディの双眸の色はルナやリリアよりは暗い緑色だが、結理は然も興味がなさそうにフイと目を逸らした。眼球好きな結理のお眼鏡には敵わなかったようだ。

「青羽君の目はとても良いわ。ああ早くいただけないかしら」

 うっとりとルナの方に目を遣る結理に、ルナは丸まって目を閉じた。

「ところで……興味はないのだけれど、あなたのレジスタンスは何をする組織なの? メンバーはいるのかしら?」

 真っ当な質問に、ラディは再び真剣な表情になった。結理が目に異様な執着を示していることはわかった。あまり触れないでおこう。

「レジスタンスの目的は、違界がこんな風になった元凶である城の破壊だ。メンバーは募集中だが、現在はオレと……モモだけだ」

 モモがびしりと手を上げた。少し歯切れが悪かったのはきっとカイもメンバーに入っていたからだろう。

「レジスタンスごっこ楽しそうね。暇そうで何よりだわ」

 結理は労うように罵倒した。

 子供相手のごっこ遊び。結理はそう思った。

 だが椎は遊びだとは解釈しなかった。本気で、そういうレジスタンスチームを結成したのだと信じた。

「どうやって城を壊すの? 大きいし、人がたくさんいるし、近付けないし。どうして城を壊すの? 壊したらどうなるの?」

 純粋な質問。真っ直ぐな澄んだ瞳でラディを見据える。時折見せる、あまり感情の籠らない目。

 一瞬、背筋が凍るような感覚が走る。ただの少女ではないような、不気味さを感じる。

「壊し方はまだだ、これから考える。壊すのは――もう、殺されないためだ。城を壊せば爆撃機も飛ばないだろう。脅えることもない。城が解体されれば、城の中にいる優秀な技術者とも情報が共有できるはずだ。そうすれば違界をもう少し、安全にできるかもしれない」

 夢物語ね、と結理はぼやく。理想を掲げるのは簡単だ。だがその理想を叶えるには大きな力が必要だ。そのためには少なくとも、圧倒的に数が足りない。子供を抱えた青年が一人で、一体何ができるというのか。城はそこらの一軒家ではないのだ。一つの国だ。国に反旗を翻すのに、あまりに数が少ない。それにどう見ても、この男の戦闘力が高いとは思えない。少なくとも結理より弱い。

「安全になるのは賛成」

 まあ馬鹿の心は動くようだが、と結理は思った。この椎という少女の戦闘力もよくわからない。だが元々両脚が義足だったところを見るに、その程度だということだろう。ルナの傍にいたはずなのに守りきれていないのだから。

 無駄死にレジスタンスに付き合ってはいられない。

「よし、椎とルナはレジスタンスようこそだな」

「ちょっと、青羽君は何も言っていないでしょう」

 聞き捨てならない言葉が飛び出したので再び短刀を抜き、結理はラディの首筋に刃を当てた。反応が早い。

「何なんだよ、お前はルナの親か? 親だとしても子の進路を無理に決める義理はないぞ」

「青羽君は、何も、言っていない、でしょう?」

 ガンッ、と刀をラディの前に突き立てた。地面に深く突き刺さった。

「違界がもっと安全で、正常に機能していれば、畸形が向こうの世界に行くこともなかった。リリアが死ぬこともなかった」

「過ぎた仮定だわ。正解が出ることはない空想は全て妄想よ。そんな陳腐な言葉で青羽君を誑かすと言うの?」

「このままだと違界人はどんどん向こうの世界に行く。違界は危険だからな。だが安全な世界に行っても、元から染みついた恐怖と衝動は消えない。向こうの世界でもやらかすだけだ。狂った違界人を許容できるのは違界だけだ」

「それを切々と説いて、コミュニティの人間をあなたのレジスタンスに引き入れようという魂胆かしら。違界と向こうの世界を自由に往来し、それなりに実績も収め、それなりに規模もあるコミュニティの腕の立つ人間を引き入れたいのかしら。そのためにコミュニティに入った。そうでしょう?」

「大方……その通りだ」

 返す言葉もない。全く結理の言う通りだった。だがコミュニティに所属してみた現実は、転送装置も与えられず違界で放置されているだけだ。

「その上隻腕になってしまって、それでどうやって戦うと言うの? そんな無鉄砲な弱小組織に私の青羽君を巻き込まないで。そして私も巻き込まないでちょうだい」

 言葉の猛襲が突き刺さる。正論だ。

 ぐうの音も出ないラディにもう完全に興味を失った結理は地面から刃を抜き、丸まっているルナの傍らに膝をつく。

「青羽君、食べなさい」

 とん、とルナの前に小さな箱が置かれる」

「チョコレート……?」

「脳の消耗と弱った体に高カカオよ。食べさせてあげましょうか」

「自分で食べる……」

 力が入らないので箱は開けてもらったが。

「それは何?」

 ルナが「苦……」と口に何かを入れるので、モモは物珍しそうに指を差す。違界で口に何かを入れる機会はない。食糧は全て首に刺す液体食糧のみだからだ。城の中では口から食べ物を摂取するが、城の外の人間には城の中の様子は知り得ない。

「これは向こうの世界の食べ物よ。違界では液体食糧を首に刺すけれど、向こうの世界では首ではなく口に固形の食糧を放り込むのよ」

「私も食べられる?」

「違界人は普段口から食べないものだから、突然固形物は難しいかもしれないわね。溶かせば食べられると思うけれど」

「溶けるの?」

「このチョコレートというものは溶けるわ。これは青羽君のものだからあなたにはあげないけれど」

「ええー」

 不満そうに口を尖らせる。

「卑しい豚ね」

 子供にも容赦ない。



 チョコレートを食べ少し眠ると、大分気分が良くなった。眠っている場合ではないと思ったが、目紛しく起こった出来事が頭の中をぐるぐると駆け回って突き刺していたことが、少しは整理できたかもしれない。眩暈のような感覚が軽減された気がした。

 壁際に椎がころんと横たわり、その近くでモモも仮眠を取っている。違界では基本的に睡眠は取らないが、安心があればこうして眠ることもある。

「体の具合はどうかしら」

 頭上から声が降ってきた。長い黒髪の間から結理が見下ろしている。

「青羽君のヘッドセット、どうやら機器修理のサポートが付属しているようだったわ。また不意に発動しても困るでしょうから、青羽君が眠っている間に機能を切っておいたわ。きっと前の持ち主の覚書ね」

「…………」

 ルナはゆっくりと身を起こす。もうふらつくことはなかった。

「梛原さんは休まなくても……?」

「あら嬉しい。青羽君が私を心配してくれるなんて。でも心配には及ばないわ。怪我人に子供にと抱えて全員で休むなんて平和ボケにも程がある。きちんと見張りをしないと。ああ、あの男なら向こうで拗ねているから、思い切り罵倒してやってもいいわよ」

 さあまた見張りをしないと、と結理は立ち去る。この建物に入る前に結理の姿が見えなかったが、一人で見張ってくれていたのだろう。皆に危険が及ばないようにと。

 ルナは、拗ねているというラディのもとへ向かった。皆から少し離れ、瓦礫を背に座っている。

「……焦ってたのかもな」

 ルナの気配に気づいたのか、ラディは振り向かずにぽつりと漏らした。

「向こうの世界は平和で安全で、そこに行ったリリアはきっと幸せに暮らしていて、長生きするんだろうと思ってた。子供がいるってことは相手もいるだろうし、向こうで家族を作って、きっと幸せだったんだろうと思う。でも違界の奴は想像よりぽんぽん向こうの世界に行って暴れてるんだな。ルナはリリアが違界人だって知ってたのか?」

 ラディの少し後ろに腰を下ろし、後頭部を一瞥しルナも口を開く。

「知らなかった。俺を庇って現れた時に、疑った。でも違界のことはその前から知ってた。椎と出会ってたから」

「……そうか。お前の父親は? 健在か? 違界のこと、何か知ってるのか?」

「健在だけど。知ってるかはわからない……母さんが何か話してるなら知ってるかもしれないけど」

「そうか……。兄弟はいるのか?」

「いない。一人っ子だから」

「オレも姉がいなくなったから一人だ。お兄ちゃんって呼んでいいぞ」

「それはちょっと……」

「遠慮せず甘えていいぞ」

「いや、それはちょっと……」

「レジスタンスに入っていいぞ。技師は歓迎だ。ルナがサブリーダーでいいぞ」

「技師じゃないし……いきなりそんな世界を変えるような提案されても……」

 ぼそぼそと呟き合う。正確には叔父だが、いきなり兄だと言われても何の実感もない。ルナは今まで兄弟などいなかったのだ。兄というのがどういう存在なのか、よくわからない。雪哉みたいな感じだろうか。漠然としすぎていてやっぱりよくわからない。

「お前さ、あの鎌使えるのか?」

「全然だけど」

「だよな。あそこまで大きいと狭い場所じゃ振れなさそうだし、多人数相手向けの武器だよな」

「母さんは狭い廊下で振り回してたけど」

「マジか。技師としてはあんまりだったけど戦闘スキルは高かったんだな。お前もやればできるかも」

「俺には無理だと思うけど……違うやり方ならもしかしたら……」

「お。練習するか? お兄ちゃんが見てやるぞ」

「しない」

 ラディは姉がいたとは言え生まれて一度も会ったことがない。会える兄弟というものに憧れのようなものがあるのかもしれない。

 確かにラディの言う通り、リリアよりルナの方が彼と年齢が近いだろう。兄弟と言っても差し支えのない年齢差。だがルナはまだ違界を受け入れられないでいる。母が違界人だったというだけでも未だ嚥下できないでいるというのに、新たに違界人の兄弟まで作りたくない。

「ところでだけど、ルナは随分と結理に気に入られてるよな? 何かしたのか?」

 レジスタンスについても鎌についても、あまりぐいぐいと話していると閉口されると悟ったのか話題を変えてきた。その話題もあまり良い話題とは言えないが。

「気に入られてるのは俺じゃなくて、俺の目だよ。目が好きなんだってさ」

「……まあ、変な奴は何処にでもいるからな」

「違界でまともな人間なんて、いるはずないじゃない」

「!」

 突如降ってきた声にラディとルナは同時に振り向いた。そこには見回りを終えた結理が立っていた。

「近くにはもう誰もいないようだけれど、今後の予定はあるかしら青羽君?」

「予定……」

「見回りありがとな。まともに動けるのがお前しかいないからなぁ」

「私は青羽君を守っているだけであって、あなたを守っている覚えはないわ。何を自惚れているのでしょうね」

 相変わらずルナ以外には態度が冷たい。

「予定……というか、一緒に転送された皆と合流はしたい……けど、椎はこんな脚じゃ歩けないし、前に義足を直した時は斬られただけだったけど、今のこれは……損壊が酷くて俺には直せない」

 結理が好む目が健在の内は彼女はルナに味方してくれる。戦力だけ見ても、味方としてなら心強い。頼っても良いのなら、相談を持ち掛けたい。

「私の一番の目的は青羽君を元の世界に送ることだけれど、青羽君のやりたいことを考慮してもやはりこの場の第一は、技師を探すことかしら」

「技師って、何処にでもいるのか?」

「何処にでもいるし、何処にもいないとも言えるわ」

「?」

「見返りを求めてくるだけの使えない技師はごろごろいるはずよ。自ら近付いてくる親切ぶった自称技師はこれである可能性が高い。転送装置を作れるほどの技師となると、待っていても仕事が来るのよ」

「じゃあどうやって見つければ……」

「私の所属するコミュニティにも技師は属しているけれど、これはコミュニティの問題ではないから、私用で動いてもらえるかどうか、よね。違界で待機している技師もいると言えばいるから一応訊いてはみるけれど、今の私は持ち場を勝手に離れて無断で違界に来ている問題児でしょう? 話を聞いてもらえないかもしれないわ」

 何よりもルナを優先し、平然とコミュニティに背く。ルナにとってはありがたいような、気持ちが重いような。

「連絡取れるのか? 違界では通信ができないはずじゃ」

 確かそのはずだ。様々な電波が飛び交っている違界の中では雑音が酷すぎて連絡が取れないと。

「ええ。音声での通信はできないわ。けれど、文字で、短文なら発信できるのよ。私のコミュニティではそういうことを可能としてくれる腕の良い技師がいるの。コミュニティの格は技師の格で決まると言っても過言ではないわ」

 そんなに凄い技師なら、椎の義足も、ラディの腕だって治してもらえるはずだ。

 同じコミュニティに属しているはずのラディは、そんな奴の連絡先なんて聞いてないぞという顔をしているが、新人ゆえなのか能力の差ゆえなのか。

 連絡を待っている間、またラディがルナに話し掛けようとしたが、モモが構えとばかりにラディを捕まえた。その隙にルナは椎のもとへ行き様子を窺う。見た目だけでは両脚を失った椎は痛ましいのだが、彼女は苦しい顔一つせずいつも通りルナに笑いかける。

「ごめんね。私の所為で足止めされちゃって……」

「椎の所為じゃないよ。俺が、一人でも脚を直せればいいのに」

 苦い思いをするのはルナの方だった。一度ならず二度も、椎をこんな目に遭わせた。せめて何かサポートできたらいいのに。違界の血が混じっているのに、何も特別なことはない。違界人は魔法使いではないため、魔力だとか魔導具だとかそういうものがないので、どちらの世界出身でも何ら違いはない。ただ世界に散らばる物質や技術が異なる。それだけだ。だったらせめて違界の知識があれば。それがあれば違界の技術の真似事もできたかもしれないのに。先程ラディのヘッドセットを修理したように。少しの修理だけであの消耗だ、たとえ義足についてもサポートシステムが起動したとしても、ルナの脳は耐えられないだろう。少しずつ情報を咀嚼していくしかないのだ。

 辺りを不快なノイズだけが飛び交う。静かなのに、頭がおかしくなりそうなほど煩い。違界人には慣れた現象だが、ルナにはまだ慣れず頭が痛む。

 たっぷり時間を掛けて、コミュニティの技師から返答があった。微かな期待と、焦燥。

 結理は短文に目を通し、憐れみを籠めた目をして言った。

「やる気がないから無理、だそうよ」

 予想以上に冷たく遇われた。

 コミュニティだとか私用だとか、全く関係なかった。完全な私情で依頼を拒否した。

「仕方がないわね。他を当たりましょう」

 こちらも予想以上にあっさりと引く。

「もっとしつこくお願いしたら、気が変わったりしないか?」

「嫌だというものをねちねちとしつこく『お願い』してきたら、あなたは良い気分なの?」

「それは……あんまり良くないけど」

 尤もな言い分にラディもすぐに折れた。

 ルナは自分の双眸を結理に渡すのを嫌がっているが、その件に関しては結理はどう思っているのだろうか。

「この技師は一度怠けると梃子でも動かないわ。親しくもない人間の心を動かそうと躍起になって無駄な労力は割きたくないの。この技師は諦めましょう。時間の無駄だわ」

「じゃあ他に当ては?」

 ラディに視線を向けられ、結理はルナ達へ目を遣った。すぐに連絡を取れる技師、と言われると結理はもうお手上げのようだった。

 目を向けられるが、ルナには心当たりはない。

 だが椎は健在な腕を高く伸ばした。

「はい! 紫蕗はどうかな?」

 違界に住んでいると知らない者などいないのではないかと思うほどあまりに有名な技師の名だった。

「以前も名前を言っていたけれど、連絡先を知っているの?」

 以前――椎は結理の持つ赤い目を紫蕗と言った。事実ならあまり関わりたくはないが……。

 直ぐ様首を横に振った椎を見て結理は溜息をついた。

「紫蕗なら誰でも知っているし、誰でも提案できるわ。問題は遭遇できるかどうかなのよ。せめてこの辺りにいるだろうなど、見当がついてでもいないと話にならないわ」

「それはわからないけど……」

 本当に良い案だと思ったのだろう。椎はしゅんと肩を落として落ち込む。

「見当……」

 そんな椎は放っておき、結理は考えるように腕を組む。

「見当がつくと言うなら、城の近くへ行くのが一番確実かもしれないわね」

「は!? 城!?」

 無事な方の手で地面を突いて跳ね立ち上がり、ラディは異議を唱える。

「危険すぎるだろ! いやレジスタンスとしては城は目標なわけだから恐れてるわけではないんだが、何の作戦もなく城に攻め入るのは早計って言うか……」

「攻め入るだなんて言っていないわ。城周囲のゴミを漁るものよ技師は。技師の間では常識よ。強力な技師を擁するコミュニティとしても、この辺りのことは情報共有がされているのよ。――あらごめんなさい、あなたは知らないのね」

「くっ……」

 あからさまな悪意にラディは膝をついた。

「城周囲のゴミ? そこに行けば技師がいるのか?」

「ええそうよ青羽君。目立つようにゴロゴロ徘徊しているわけではないけれど、城の警備の目を抜けてきっと虫のように寄ってくるわ」

 ルナの言葉には丁寧に返してくれる。

「城周囲はゴミ捨て場となっているの。城から出たゴミはそこに捨てられるのよ。技師はそのゴミを利用するの」

「城は危ない……んだよな?」

 先程のラディの慌てようを見ても、どれほど危険なのか察せられる。

「勿論、そんな危険な場所まで青羽君を連れては行かないわ! 私達の目的は城でもゴミでもなく、虫だもの」

 虫ではなく技師だが、誰も何も言わなかった。

「ここで青羽君には待っていてもらって私だけ城に行ってもいいのだけれど、こんな死に損ないの中に青羽君を置いて行くのも心配だから、不本意ではあるけれど危険な所に連れて行くことを許してちょうだい。青羽君の目だけはきっと守ってみせるわ。もし死んでしまったら私が大事に双眸を抉り取って大切にしてあげる」

 後半はうっとりと陶酔するように言い放つ結理からルナは目を逸らした。

「ついて来ると言うのなら、死に損ないは死に損ない同士で組んでちょうだい。腕が一本なくても人一人くらい背負えるでしょう?」

 ラディに椎を背負わせるのか。できなくはないと思うが、敵の襲撃に遭った場合、逃げることも困難だ。

「椎なら俺が背負うよ」

「いや、結理の言う通り怪我人は固まっていよう。無傷で自由に動ける奴の動きをわざわざ制限する必要はない。動ける奴が敵を引き受けてくれれば」

 ラディの意見に、確かにそうかもしれないけどとルナは渋々頷くが、それは戦い慣れていないルナに戦ってくれと言うことか。――いや、ルナが戦うとなると結理が黙ってはいない。結果的に結理に敵を任せコントロールすることができる。ルナが動けば結理も動く。必然的に結理は全員を守ることになる。結理の負担が大きくなってしまうが、それだけの戦力が彼女にはある。そこまで見据え、ラディは結理の一見乱暴な提案を呑んだ。

 両脚を失った椎の扱いはすっかり荷物だが、申し訳なさそうにしつつも「両手は動くから、銃は撃てるよ!」と気丈だ。

 ラディも「オレも両脚は動くから、蹴りは入れられるぞ」と脚を振る。

 モモは戦力とするには戦闘経験も幼い。怪我人組と同じ括りだ。

 ルナはまだ大鎌を上手く扱えないが、いざと言う時は一振りするだけでも役に立てるだろうかと考える。あれだけ大きな鎌だ、振るだけで何か変わるだろう。いざなんてなければいいのにと祈るように拳を握る。

 結理の戦闘力に頼りきりの作戦だが、他に良い案も浮かばない。城の恐ろしさもまだわからない。

 この世界で最も恐れられる場所、それがこの世界の中心である『城』。

 その地に導かれるように、皆の足はそこへ向く。


     * * *


 正直なところ司にとって城とは、自由を奪われる籠でしかなかった。

 生まれた時から城の中にいて、城の中のことしか知らなかった。

 城の中には学校というものもあるが、学校でも城の外のことは教えてもらえない。ただ、城の外にも世界があるのだと、それだけは知ることができた。

 それからの司は城の外に強い興味を示し、外がどんな所なのか、行ってみたいと、城の外に出てみたいとそう思うようになった。城外へ出るには城外の警備などの職に就くしかない。あとは、研究のためと銘打てば外に出られるかもしれない。そう思った。

 だが司には職を選ぶ権利は与えられなかった。

 城の中のコア内部、そこで暮らす以外の選択肢が与えられなかった。

 ずっと城の手の内に生かさず殺さず囚われて虚しく無意味に一生を終えるのだろう。興味のあることはたくさんあるのに、何もできなかった。一人ぼっちのまま誰にも助けなど求められず朽ちていくだけ。

 それに耐えられなかったと言うか、どちらかと言うと好奇心の方が勝ってしまったと言うべきか。何もかも自由がないのなら、何もかも自由に振る舞ってやろうじゃないか。そう思うようになった。この時から何かが壊れ始めたのだろう。

 そうして起こしてしまった『悲劇』は城の中で密やかに仕舞い込まれた。

 司は過去に、城を掻き回した。最初は小さな抵抗だったが、大きなものを失った。城の連中からは更に腫れ物を扱うように厄介に見られ、城の端の方へ追い遣られた。

 とんだ問題児だが、それでも城から追放されたりはしない。



 雪哉達と別れ、水藻を連れてコア内に戻った司は、とある人物に出会した。


「センパァイ、捜したんですよォ」


 ぴょんぴょんと軽快に跳ねるように、それは司の前に現れた。

「あ。水藻クンのお散歩タイムだったんですねェ」

「こいつ嫌い」

「わァ、そんなあからさまに嫌な顔されちゃうと、さすがに傷つくよォ?」

 全く傷ついていない顔をして言う。

「水藻、仲良くしろとは言わないが、喧嘩は吹っ掛けるなよ。何かあったら私の責任問題になる。イドは私の部下という立場だからね」

 戯けるように、だが真っ直ぐにイドを見据える。目は笑っていない。

「ヤダなァ、センパイ! センパイが責任を負うことなんてないじゃないですかァ。コアの王の親族なんですからァ」

 コアの王。王というのは通称だが、つまりはこの城の中で最高の権力者のことである。

「私はその肩書は好きじゃないんだよ、イド」

 空気が張り詰める。殺気すら感じる。

「そぉいえばァ、クロ君の姿が見えないんだけどォ、センパイの目付なのにィ?」

「あいつはトイレだ」

 適当な嘘を吐いた。この道化のようなイドには、まともに取り合わない。部下ではあるが、何を考えているのかわからず、楽しそうなことには首を突っ込むが、自由奔放すぎる面があり、読み取れない。自由は良いことではあるが、とは思うが。

「用がないなら私は早く水藻を部屋に戻してやりたいんだが」

「あァ~じゃあ私もお供しますよォ」

「じゃあ水藻を連れて行ってやってくれ。私は部屋に戻る」

「は? こいつと二人は絶対に嫌だ」

 水藻は刺すようにイドを睨みつける。随分とイドのことを嫌っているが、それもそうだろう、魚型畸形である水藻の魚部分の同定をして増やして食そうなどと言い出し、大雑把な細胞採取で彼の体を傷つけているのはイドだ。嫌われるのも当然だ。

 私もイドが少しばかり苦手だ、などとは司は言い出さない。そんなことを言えば、イドは面白がって何かと干渉してくることだろう。何も感情を明かさない、それが最善だ。

「……仕方ない。じゃあイドは黙って歩け」

「ハァイ」

 時折、聞き分けは良い。

 水藻はイドから距離を取って歩き、その間に挟まれる形となった司はうんざりした。


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