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第八話 棗を継ぐ者-2

 ユーシスが右手の剣と左手の炎で縦横無尽の攻撃を仕掛ければ、ハルクもまたそれらを最小限の動作でかわし、隙あらば鋭く剣を急所へ運ぶ。


 目まぐるしく攻勢の入れ替わる激戦に、人々は皆、呼吸も忘れて見入った。互いに満身創痍。にもかかわらず、両者の動きは一秒ごとに冴えを増していく。このまま永遠に決着がつかないのではないか、とさえ思われるほどに。


 何度目かの剣同士の正面衝突が、重い衝撃を空気中に走らせる。互いに弾き飛ばされ、間合いができた。ユーシスが再び肩に担いだ剣に、刹那、紅蓮の炎が纏わりつく。


「【焔剣ブ・レイド】!」


 煉術は、使えば使うほど体力と精神力を磨耗する。ユーシスは既に、気絶寸前に消耗していた。だからこそ、決着を急がなければならない。


 炎を纏い、刃が炉に浸したような緋色に焼けた剣を、ユーシスは突進に合わせ振り下ろした。空気を焼きながら迫る炎の剣に、ハルクの青い目が反応する。


「【剣流ツルギナガシ】!」


 斜めに倒したハルクの剣に、ユーシスの焔剣が激突すると、二人の目を潰すほどの閃光が炸裂した。ハルクが目を見開く。どんな剣でも受け流す棗の秘術【剣流】で、受け流せない。それどころか、鋼の剣が、火花を散らし今にも焼き切られようとしている。


「ぐっ!」


 受け流すのを中断し、後退。ハルクの剣は、刀身に身幅みはばの三分の一ほども、高熱で溶かしたような断面の斬り込みを走らせていた。あの剣に触れてはならない。ハルクはそう直感する。


 ユーシスの追撃も早かった。もはや全身に纏う煉氣が炎のようになって、燃える爪先で大地をえぐり、目を見張る速度で肉薄する。脳天に迫る灼熱の刃を、ハルクの青い目が凝視する。


 触れられないなら、触れる前に斬ればいい。


棗一刀流ナツメイットウリュウ――【弧月コゲツ】!」


 ユーシスの突進に対してむしろ踏み込み、空いた腹部を水平に切り裂く。の先をとる【弧月】は、目のいいハルクの最も得意とする技だった。


 それが、くうを斬った。


「なっ……!?」


 ユーシスが、消えた。ハルクが斬ったのは、目の前で爆発的に噴射した炎だけ。――上か!?


 ユーシスの靴裏から、ロケット噴射のように爆炎が炸裂し、彼をハルクの頭上にノーモーションで運んだのだ。ハッとハルクが上を見上げれば、爆炎に包まれ倍ほどの長さになった灼熱の剣を振り上げて、ユーシスが落ちてくる。


「俺の勝ちだ、アルフォードォッ!」


 負ける――その直感を、ハルクは絶叫によって吹き飛ばした。水平に振り抜いた剣の勢いをそのままに一回転し、無理矢理次の技へ繋げる。


 【剣流】でも受け流せない。単純に防いでは剣ごとぶった斬られる。今からどんな技を繰り出しても、炎を纏ってリーチの延びたユーシスの剣が先に届く。


 嫌だ。負けたくない。意地でも、死んでも、勝ちたい! 生まれて初めて、心から勝利を渇望したハルクがとった行動は――


「……な」


 静止。


 ユーシスが驚愕に呻く。前のめりに攻撃に転じようとしていた全身を、ぐっと制動してハルクは停止した。刹那、爆炎を帯びた長剣はハルクの体を真一文字に切り裂いた。


 痛みより先んじて、襲った脳神経が焼き切れるほどの熱に意識が飛ぶ。肩口から腰まで、斜めに受けたあまりに深い刀傷は疑いようのない致命傷。


 ――しかし、即死には至らない。


 どう足掻いても直撃は免れないと悟ったハルクが、今際いまわの動体視力でもって、損傷すれば即刻体を動かせなくなるレベルの急所"のみ"を庇ったから。


 ハルクの体は、あと一秒と待たず死ぬ。その一瞬を得るためだけに命を質に入れた。激痛と、遠退く意識で否応なしに硬直する体を、涙混じりの咆哮ほうこうで鼓舞し、ハルクは右腕を最後の技の初動に移らせる。


 シンプルかつ、最短、最速で急所を貫ける技――霞む視界を押し広げ、血反吐を吐きながら唸り、ハルクは剣を振り下ろした体勢のユーシスに向かって渾身の一撃を突き込んだ。


「――【狼牙ローガ】ッ!!!」


 特別な技ではない。そもそも棗一刀流に派手な技はほとんどないのだ。狼が一瞬にして人の喉元に食いつくように、低い位置から最短距離で急所を貫く突き技。


 人を効率よく殺すためだけに考えられた、殺人剣の極意。シオンに教わった技は、最初どれも恐ろしくて、人に向けて使う気になんてとてもなれなかった。


 咆哮し、突き上げたハルクの剣が、あやまたずユーシスのくびを貫いた。シャボンの割れる音と共に、爆炎がかき消え、余波の風圧が闘技場全域を駆け抜け客席の悲鳴を呼んだ。


 荒れ果てた戦場に、剣を突き上げた格好で硬直した金髪の騎士は、ハッ、ハッ、と今さら激しく喘ぎながら、茜色の空を呆然と見上げていた。

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