第七話 炎帝-1
『最後は激しい戦闘により舞い上がった砂で、よく見えませんでしたが……手に汗握る素晴らしい戦いでした! お二方、総括をお願い致します!』
『オレンジ頭の兄ちゃんが序盤優勢だったな。【煉金術】、攻守一体の超優秀な煉術だ。俺には想像もできん世界だが、身につけるには相当苦労したろうな。シオンは相性的にも分が悪かったと思うぜ』
『勝敗を分けたのは、戦いの中でいかに頭を使うかという点だね。バルサ君は術こそ強力だけど、戦い方はかなり大雑把。対してシオン君は、あの防御を打ち破るための策を戦闘中に捻り出した。最後の一撃は僕もよく見えなかったけど、この戦いを経て彼が更にレベルアップしたのは確かだよ』
『なるほどです! 今後に向けて、両者にアドバイスはございますか?』
『シオンは攻撃の幅を増やすことだな。戦法が刀一つじゃ、相性の悪い相手に対して今後かなり厳しくなる。さっきの最後の技……あれがいつでも出せるってんなら話は別だけどよ。出せるなら最初からやってるはずだからな。煉器やサブウェポンを研究して装備を見直すか、他にも手は無くもねえが……なにかもう一つでも強力な武器がありゃもっと上が見えてくる』
『バルサ君は、逆に【煉金術】をもっともっと磨くことだね。超高硬度の金属を錬成する【煉金術】は、かなり応用の効く術だと思う。身に纏う、槍を創る、この二つ以外の用途をたくさん考えてみてほしい。アイディア次第では短期間で化けると思うよ』
『お二方、ありがとうございました! 結果を繰り返させていただきます! 勝者、シオン選手! 国民の皆様、最後まで熱い声援を誠にありがとうございましたー!』
熱狂冷めやらぬスタジアムで、俺はようやく鎮火した刀をそっと鞘に納めた。
奥義【火之迦具土】は成功した……でいいのだろうか。少なくとも技の理論は完璧に踏襲した。
だが斬撃とともに顕現した、あの"斬れる炎"はなんだ。確かに【火之迦具土】の刃の動きには炎を連想するところがある。技の名が日本神話に伝わる火の神なのもそのためだ。俺も繰り出す瞬間は、きっと"炎の刀"をイメージした。
俺のイメージが、棗流の奥義に乗って、具現化した――そんな感覚だった。今からもう一度やれと言われてもできる気がしない、奇跡の技。
一つだけ言える確かなことは、俺は先ほどの【火之迦具土】を、完璧に自分のものにしなければならない、ということ。
「だああああああああああ、負けたああああああああああ!」
バルサは地面に大の字になって、上裸体をじたばたさせていた。さっき胴体を真っ二つにしたのに、彼の体には傷一つついていない。恐るべし、白皇の術。
「ありがとう、バルサ。いい勝負だった」
片膝をついて敬意を示すと、バルサは唸りながら俺に手を伸ばしてきた。その手を取り、引き起こすと、バルサは邪気のない顔でニカッと笑った。
「完敗だ! まさかオレの【最強鎧】がぶった斬られるなんてなぁ!」
客席から、口々に俺の名を叫ぶ声が飛んでくる。それに混じって、バルサの名を呼ぶ声も同じくらいたくさんあった。次の戦いの場所を開けるために退場口へ向かう俺たち二人に、最後まで惜しみない拍手が送られる。
第二試合の組み合わせが発表されたが、ハル、ユーシス、マリアのいずれの名前も呼ばれなかった。これは準決勝で再抽選のないトーナメント戦だから、俺が彼らの誰かと戦えるのは決勝ということになる。
バルサと並んで退場し、客席へ上がる。俺たち出場選手用の席があり、そこにハルとユーシスが並んで座っていた。俺が片手を上げると、ユーシスは鼻を鳴らして目をそらしたが、ハルは満面の笑みで迎えてくれた。
「お疲れ、シオン! ずいぶん危なかったんじゃないの?」
「いやぁマジで負けるとこだ。バルサが強かったからな」
隣のバルサは「それほどでもある!」と胸を張った。
「初めまして、ハルク・アルフォードです。こっちはユーシス」
「おい、勝手に紹介するな。ユーシス・レッドバーンだ」
尊大な態度で片目を開いたユーシスに、バルサが「おおお!」と歓声を上げる。
「すっげえ、レッドバーンっていやぁエリート様じゃねえか! 実物は初めてみたけど、やっぱカックイイぜ!」
「……む」
露骨に真顔になるユーシス。満更でもなさそうだ。
「やっぱ、でけえ家住んでんのか!?」
「大したことはない。たったの1000坪くらいだ」
「すっげえええええ!」
おお、ユーシスの鼻が伸びていく。
「家の大きさなどどうでもいい。大事なのはウォーカーとしての格だ。バークレーと言ったな。貴様、【錬金煉術】とやら、一体どうやって身につけた」
「死ぬほど練習した!」
ズルン、とユーシスがずっこける。
「いや、そうではなく……見たことのない類いの術だからな。【造形煉術】とも似て非なる。無から生み出すのではなく、有るものを構造ごと創り変えている。皮膚を鎧に、砂を槍に変えていたな。師は、術式は、命令体系は? いや、教えを請うているのではない、もちろん予測はついているぞ。一応教えろ」
「ムズカシイことはわかんねーよ。師匠ならいるけど、もう死んじまったし」
「なんだと……貴様あれほど複雑な術式を感覚で行っているというのか……? おい、ちょっと表に出ろ。実演して見せてもらうぞ」
うええ、オレ疲れてるのに、なんて悲鳴は馬耳東風で、ユーシスはバルサの襟首を掴んで闘技場の外へ行こうとする。
「試合を見なくていいのか?」
「第二試合は凡百同士のチャンバラだ、興味がない。どうせ決勝の相手は貴様だ」
振り向きもしない後ろ姿に、俺は「余裕だな」と声をかけた。
「決勝までに足元すくわれんなよ? そっちのブロックにはマリアもハルもいるんだぜ」
「いやいや僕は……」
恐れ多いとばかりに首を振るハル。ユーシスはぴたり、と足を止めると、初めてこちらを振り返った。
ハルと、一段上の席の遠くで一人ぽつんと座っているマリアに、一度ずつ鋭い視線を投げる。そこに、以前のような侮る色はない。
「有り得んな」
断固としてユーシスは言い切った。
「決勝で貴様を倒すのは俺だ。あのランク戦以来、俺はそれだけを目標に鍛練を積んできた。誰が相手だろうと焼き散らすだけだ」
最後に俺を一睨みして、ユーシスはバルサを連れて行ってしまった。残された俺たちは、始まった第二試合を眺めながらユーシスのことを話題にした。
「勉強熱心なやつだな。あいつが煉術の天才って言われてる理由が分かった気がする」
「教えを請う態度ではなかったけどね……」
ユーシスの言った通り、というと言い過ぎだが、第二試合のカードはパッとしなかった。二人とももちろん現役のウォーカーだから弱いわけではないのだが、バルサと戦った後だとどうしても動きが見劣りする。
「ハル、分かってんのか? 先にマリアと戦える権利は、お前にあるんだぜ」
「う、うん」
「なんだ、緊張してんのか」
「そりゃするよ! いよいよ次呼ばれるかもしれないって考えるとそれだけで胃が痛いよ……」
強くなってもこういうところは変わらないんだな。青ざめた顔で戦場に目を落とすハルの横顔を一瞥し、思わず苦笑する。
「今はいいが、試合が始まってもその調子ならぶん殴るからな。出場はお前が自分で決めたんだろ。マリアを倒して、アイツが抱えてるもんを一緒に背負うために」
「……うん。そうだね」
一つ頷いたハルの顔つきが変わった。
「一回戦で当たれるといいな。白皇の術で怪我はリセットされるが、疲労感はなんとなく残ってる」
「うん、でももし一回戦で当たれなくても、必ず勝ち上がるよ。そしてマリアに勝つ。ランク戦のリベンジをしなくちゃ」
「ようやくスイッチが入ったな」
その時、おおっと客席がどよめいた。バブルの弾ける音がして、試合をしていた一人が白皇の術から帰還する。二回戦の決着がついたのだ。解説陣の講評も終わり、いよいよ三回戦の組み合わせが発表される。
『さぁさぁ皆様、第一試合も折り返し地点! 次のカードは――』
ごくり、とハルが生唾を飲み込む。
『――ハルク・アルフォード選手、VS、ユーシス・レッドバーン選手! 両選手は、フィールドに降りてきてくださーい!』
ハルの目が点になった。
「……や、焼き散らされる」




