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第六話 バルサ・バークレー-2

「えええええ、刀いらねーの!?」


「いらねえ」


「刀使いなのに!? え、じゃあオレあんたのことなんて呼べばいい!? 今なに使い!?」


 よくわからないが動揺している。客席も、解説席の困惑もピークだ。


『シオン選手、相棒の刀を地面に刺してしまいました! これはまさか、降参ということでしょうか!?』


『そんな風には見えないけどね。どう思いますロイドさん?』


『わからん』


 内心をひた隠し堂々と一歩を踏み出すと、気圧されたようにバルサが半歩後ずさる。


「遠慮せず来いよ」


 バルサはようやくかかってくる気になったようである。ムッと顔を歪めると槍をブンブン回して後ろ手に構え、腰を落とす。


「なめてんのか諦めてんのか知らねーけど、オレ、勝負でそういうことするやつは嫌いだ! せっかく応援してくれてる人たちに対してシツレーだぞ!」


「気を悪くしたなら謝る。俺は大真面目だ」


「そうか、なら嫌いじゃない、嫌いって言ってごめん!」


 バルサに合わせ、俺も腰を落とす。お喋りは終わりだ。一瞬のなぎの後、バルサは猛然と地を蹴った。


 俺が刀を捨てた理由は、三つある。


 一つは、丸腰の相手に対して斬りかかるのは、達人でも多少のやりにくさがある点だ。事実俺自身が丸腰のバルサに斬りかかるとき、無意識に緊張感を欠いていた。


「ふっ!」


 これまでよりほんの僅かに単調な突きを、最小限の動きでかわす。ハルほど紙一重とはいかないが、無駄のない回避。ピクリと片眉を持ち上げて、バルサが追撃に出る。


 二つ目の理由は、刀を捨てることで、「棗流を使わない」という縛りから来る動きの重さを解消できる点だ。


 刀を握っていたから、単なる受け、いなし、足運びに至るまで、「棗流の癖が出ないように」といちいち気を遣ってしまっていた。もう体に染み着ききってしまったソレを完全に使わないのは無理な話で、思った以上に動きが制限されていた。


 刀を捨ててしまえば、たとえ棗流の足運びが出てしまってもコトハに気づかれる可能性はごく低い。武術の足運びなんて突き詰めれば似通った動きになるのだから。


 突き、斬り上げ、薙ぎ払い。ひらめくような乱打を、軽快なステップで潜り抜ける。突然俺の動きが変わったことに、バルサも仰天の表情だ。こちらも言うほどの余裕はないが、いける、勝負になっている。


「くそ、速え! ……ハッ! まさかあの刀、本気を出すときだけ外す"重り"的なやつだったのかぁぁ!」


 名推理とばかりにくわっと目をかっ開いたバルサだが、全然違う。だが確かに強化を重ねた【黒鉄】はかなり重く、手離して身軽にはなったかもしれない。じゃあ理由は四つになるな。


「くそが、いい加減当たれぇ!」


 槍を一度引き戻したバルサは、大きく踏み込んで槍を水平に振りかぶった。これまでで一番の大振り――狙うならここしかない。


 それを千載一遇、一度きりの好機と見るや、周りの音が、途端にプレスしたように薄く延ばされた。まるで深い水のなかにいるようだ。心が凪いで、穏やかになる。


 恐れはなかった。音速で飛来する必殺の槍に、自ら手を伸ばす。要領は無刀流【柳凪やなぎ】と同じ。


 襲い来る槍と手をシンクロさせ、針の穴ほどしかないタイミングで――掠めとる。何物にも逆らわない水の流れが、知らぬ間に川底の汚れをさらっていくように。


 技名は……そうだな。



 新・棗無刀流――【漱流そうりゅう



「ィッ!?」


 バルサが短い悲鳴を上げた。俺が"掴んだ"槍を振り上げたことで、彼の漆黒の体が高々と宙へ舞い上がったからだ。


 薙ぎ払いの勢いをそのまま借りて、俺は槍をしっかり掴んだバルサの体を、思い切り大地に叩きつけた。


「ガハッ!」


 大地が縦に揺れるほどの衝撃。戦場に亀裂が走る。バルサの手から一瞬力が抜ける隙を逃さず、俺は素早く槍をむしりとった。


 俺が刀を捨てたのは、俺の目的が最初から、バルサを攻撃することではなく、バルサからこの槍を奪うことのみだったからだ。


 バルサは言った。自分の鎧はどんな武器でも貫けないと。同時にこうも言っていた。自分の槍に、貫けないものはないと。


「じゃあ、コイツでお前を突き刺したら、どうなるんだろうな」


 ぽかんとするバルサの土手っ腹に、俺は振りかぶった槍を思い切り叩きつけた。

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