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第19話-0

 底抜けに優しいやつだった。


 いつも笑顔で、人を傷つけるような言葉は、死んだって口に出さない。争いごとが嫌いで、たとえ木剣であっても人を斬ることさえできなくて、暴力の痛み、命の重さを、誰よりも分かっていた。


 そんなあいつは、戦いのさなか、なんと言った?


 悔しい、と言ったのだ。毒剣を敵の目に突き刺し、あとは時間を稼ぐだけという段にきて、そう言った。ハルはあの瞬間、悟っていたに違いない。毒の効果が現れるより早く、自分は致命傷を負うことを。


 なぜ、ハルは深手を負わなければならなかったのか。ハルの装備が、貸し出し用の粗悪品だったからだ。


 ハルはグレントロールの動きを完璧に見切っていた。しかし剣と盾の方が、ヤツの攻撃に耐えられなかった。ハルはそれを、自分の手の中で悲鳴を上げる武具の限界を、克明に感じていたはずだ。もしハルがウォーカーで、任務として万全の装備を整えてこの場に臨んでいたら、ハルは間違いなくグレントロールに勝っていた。


 だから、悔しいと言ったのだ!


 戦いをあれほど嫌っていたあいつが、最後の最後で、単騎で怪物と打ち合い、渡り合い、戦いの中で急速に成長していたあの瞬間、ハルは間違いなく……自分の成長が、花開いた才能が、そして、仲間を守り戦えていることが、嬉しくて嬉しくて、仕方がなかったはずだ。俺には分かる。俺だから分かる。あいつはずっと、寝ているときだってうわ言のように言っていたのだ。



 シオンを、守れるぐらい、強くなりたい--



 悔しいに、決まっている。血涙を流すほどやり切れない思いだったことだろう。ようやく、これから、仲間と背中を預け合って戦える。ハルの今生こんじょうの願いだったのに。


 それなのに、あいつは、平気そうな顔で、僕を置いて逃げろって、そう言ったのだ。最後に、迎えにきた死神から一言だけ許されたハルは、悔しいでも、死にたくないでもなく、それら全部を飲み込んで、飲み干して、喉を震わせて俺の名を呼んで、……まっさらな感謝の言葉をくれた!


 そんな男が、俺なんて一生かかっても追いつけない、強い人間が、どうして死ななければならない。どうして殺されなければならない!


 神に祈った俺が愚かだった。この世界(アカネ)の神は、あんなに優しく、強かったハルより、空っぽの猿を生かすのだ。



 あぁ……もう、いい。

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