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第9話-3

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁん久しぶりじゃない! ちょっと、何ヶ月ぶり!?」


 出会って早々、赤毛の美女は俺に抱きつき、逃げた飼い犬でも戻ってきたみたいに俺の顔をその豊満な胸にうずめ、めちゃくちゃに撫でくりまわした。


「ぶっ! ちょっ、マーズさん! 離してって!」


「ちょっと背伸びたんじゃない!? もぉ、かっこよくなっちゃって! なんでずっと顔出してくれなかったのよぉ!」


 マーズは異国人のノリでキスまでしかねない勢いで、俺をもみくちゃに歓迎してくれた。俺はハルとマリアを連れて、実に9ヶ月ぶりに王城の酒場を訪れたのだった。


「ご、ごめんなさい! ずっと学校が忙しくて……明日が卒業試験なんです。だから景気づけがてら、友達連れてちょっと挨拶に……」


「卒業!? もう卒業なの!? シオン……あなた頑張ったのねぇ……」


 ハルたちや大勢の客の前でひしと俺を抱きしめるマーズに、どれだけやめてくれと言っても無駄であった。くらくらする甘い香りと柔らかい肌に彼女の気の済むまで圧迫された俺は、やがてぐったりバーのカウンターに突っ伏した。


「それにしても、シオンの連れてきた友達がハルク君とマリアちゃんかぁ。面白いわね、二人とも全然タイプが違うのに」


 マーズは今にも小躍りしそうなほどご機嫌に俺たち三人分のドリンクを作りながら、歌うようにそう言った。


「二人のこと知ってるんですか?」


「違う意味で目立ってたからねぇ、二人とも。ハルク君はウォーカーに救助されて酒場に運びこまれてきたけど、ずーっと泣き続けてしまいには塞ぎこんじゃって、会話できる状態になるまで大変だったわぁ」


「そ、その節はすみませんでした……」


「ううん、見違えたわ。逞しくなったわねぇ」


 マーズに微笑まれて、ハルは照れたようにうつむいた。


「マリアは?」


「マリアちゃんは逆。五年前の年末だったかしら。《歓迎祭》のシーズンもとっくに終わった時期に酒場にたった一人で来て「仕事をください」って。よくよく聞けば、ウォーカーになりたいなんて言うじゃない? 止めても無駄って感じだったから取り敢えず学園を紹介したのよ。当時あたし、カンナと一緒に暮らしてたから、マリアちゃんもまとめて面倒見ようと思って誘ったんだけど断られちゃった」


「その節は、お世話になりました。ずっと顔も見せずにご心配おかけしました」


 マリアは学園での傍若無人ぶりが嘘のように、品のある所作で頭を下げた。マーズは苦笑して、「元気ならいいのよ」と言った。


「歳も近いし、カンナの友達になってくれたらと思ったんだけどね。まぁ、明日の試験に合格すれば晴れて君たちもウォーカーになるわけだし、カンナも歳の近い仲間ができて喜ぶわ」


 マーズはカンナの保護者代わりのようなものだ。彼女に守られて育ったカンナは、幸せ者である。


「と、いうわけでっ! 今日はお姉さんのおごり! しっかり景気づけて、明日は三人まとめて合格しなさい!」


 三つ分のグラスをごとんとカウンターに置いて、マーズは歯を見せて笑った。俺たちはわあぁっと歓声を上げて、マーズも合わせて四人で乾杯した。


 この世界では16歳で成人の扱いになる。酒が飲めるようになるのは来年だ。この中で一番酒が強そうなのは誰か、なんて馬鹿馬鹿しい話で盛り上がり、マーズも忙しく働く合間を縫って話しに来てくれ、忙しない学園生活を全力で走り抜けてきた俺たちにとって、久しく覚えのない穏やかな時間が流れた。


「で? マリアちゃんはこの二人ならどっちがタイプ?」


「ぶっ!」


 突然のキラーパスにマリアがオレンジジュースを吹きこぼした。


「はぁ!? な、なんですかその質問!」


「穏やかで優しい王子様ハルク君! ちょっと危なっかしいけどほっとけない感じのシオン! どっちも捨てがたいわよねぇ!」


「めちゃめちゃ捨てやすいです!」


 マリアはオレンジジュースをがぶ飲みして、答えを誤魔化した。俺とハルはお互い少し赤くなった顔を見合わせて苦笑した。


 空いた時間はずっと鍛錬か勉強に費やす日々だったから、三人とマーズで過ごすこの夜は、俺にとってアカネに来て一番のひとときだった。


 ようやく、明日だ。帰ってからも俺とハルは何度となくそんな言葉を交わし、武器の手入れや携帯品の確認をしつこいほどに繰り返してから、やっと浅い眠りについた。

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