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第6話-2

 夜。


 俺とハルは並んで帰路についていた。初めて誰かと一緒に帰るニュービータウン。深い夜の闇にいつもはどうしても感じてしまう不気味さを、今日はほとんど感じずに済んだ。


 ユーシスとのランク戦対決が来週の水曜日に決まってしまい、ハルはしばらく怒っていたが、それでもどうにか俺を応援してくれる気になってくれたらしい。残された時間で、ユーシスに勝つために何をするべきか、二人で真剣に話し合いながら帰り道を歩いた。


 間もなく見えてきた下宿先の長屋の前で、俺とハルは同時に足を止め、同時にそれを指差した。


「ここが俺(僕)んち」


 見事にシンクロした。え、と驚いたのも同時、間もなく吹き出したのすら同時だった。なんと俺たちは、同じ長屋の住人だったのである。


「ハルはアカネ二年目だろ? 引っ越さねーの?」


「そのつもりでお金貯めてるんだけど、学生の間は部屋を破格で借り続けられるからね。もうしばらくはいるつもり」


「ふーん、けどやっぱ無料じゃなくなるのな。……あ、そうだ」


 玄関の前で、俺はふと妙案を思いついた。


「布団持って、俺の部屋集合な」


 俺の笑みに、ハルはきょとんと首を傾げた。


***


「お邪魔しまー……うわぁっ!?」


 五分後。藁布団と毛布を抱えて俺の部屋にやってきたハルは、入室早々片足を床に突っ込んで悲鳴をあげた。


「あ、気をつけろ。そこ腐ってるから」


「先に言ってよ……」


 涙目で足を引っこ抜くハルに、俺は提案した。


「今日からここに住めよ、ハル。そうすりゃ部屋代も浮くだろ?」


 ハルは目をまん丸に見開いた。


「い、いいの? 狭くない?」


「帰っても寝るだけだからな、広すぎるぐらいだ。情けないことに、まだあんまり一人じゃ眠れなくてさ」


 弱った笑いを浮かべる俺に、ハルはおずおずと進み出て、俺の寝床の隣に自分の布団を敷き始めた。


「僕なんて、最初の一ヶ月はほとんど寝つけなかったよ。……引っ越す必要がなくなっちゃったな」


「ん、なに?」


「ううん、なんでもない!」


「お前、布団の位置微妙に遠いよ。……これさ、布団くっつけて横向きにしたらすげー広くなるんじゃね?」


「確かに! 僕、お裁縫セット取ってくる!」


「そんなの持ってんのか」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 脱兎のごとく駆け出したハルが入り口付近でズボッと床に埋まった。


「……だから、そこ腐ってるって」


***


 午後十時。


 自前の裁縫道具を自らの手足のように操り、ハルは見事に二つの藁布団を並列に縫い合わせた。それを横向きに敷くと、背の低い俺たちにとっては体感クイーンサイズの、広々とした敷布団が出来上がった。


 その後俺たちは仲良く市街地にでかけ、安い肉丼屋で腹を満たし、行きつけの大衆浴場で汗を流し、帰りがけにパン屋に寄って、明日の朝食用の黒パンを調達した。井戸の水と塩で歯を磨き、現在、二人で布団に潜り込んだところである。


「……今日は、アカネに来てから今までで、一番楽しい日だったよ」


 目を閉じ、仰向けになったハルが、もぞもぞとそんなことを言い出した。既に半分寝ぼけていやがる。


 俺も全く同じ思いだった。こんな不便な世界でも、ハルがいてくれるだけでこれほど心が充実するなんて、思っても見なかった。むしろ今夜は、この世界の不便さを楽しんでいた自分さえいたように思う。


 悪くないじゃないか、異世界生活。


 これほど愉快な気分になった夜は初めてだった。なんとなく寝るのがもったいない気分で、ハルに再三話しかけたが、ハルの返事はどんどん不鮮明になっていき、長く待たず安らかな寝息を立て始めた。


 俺は所在なくため息をついて、天井をぼんやり見つめた。この一週間、色んなことから目をそらすように荒々しく燃えていた闘志が、今は奇妙なほど凪いでいることを、自覚する。


 --そんなに急いでウォーカーにならなくても、いいかもな。


 いや、むしろ。今はハルと学校に行って、授業を受けて、一緒にご飯を食べて風呂に入って寝る毎日が、しばらく続けばいいと思う。


 一瞬、俺がウォーカーを目指すことを、心から喜んでくれた人の笑顔がちらついて、ちくりと胸が疼いた。だがそれも、左隣の温もりがゆっくり布団の中に広がって俺を包み込んでいくと、次第に気にならなくなっていった。

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