↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

156/182

第十話 捕食者-1

 世界が嘘のように静まり返っていた。俺の身の丈ほどもあるジフリートの頭部の前に、ほどなくパーティーメンバーが全員集合した。


「終わったなぁ」とテトがその場に座り込む。「すげーじゃん、シオン。尻尾《しっぽ》も首も一人で斬っちまうなんて」


「二人が両翼を潰してくれたおかげだよ。尻尾を斬れたのも不意打ちだ」


「でも、そのおかげでジフリートの攻撃手段をブレスと熱風に限定できたんだよ。今日のMVPは文句無しでシオン君だね」


 肩に担いでいた巨大な竜の尾をその場にドスンとおろし、カンナは満足そうに言った。穴から這い上がる際、ついでに回収してきてくれたようだ。


「でも、俺だけ守護石全部割られちまってるしなぁ。ギルドの規定じゃ、守護石全損したやつは任務失敗扱い。もし穴底でカンナに助けられてなかったら、首刎ねる前に俺が消し炭になってたわけだし」


「変なの。今日は随分謙虚なのね」


 マリアが珍しいものを見る顔で言った。謙虚とは少し違うかもしれない。この戦いは初めから全く対等ではなかった。もちろん、狩りとはそういうものなのだけれど、なんとなく手放しで勝利の余韻に浸れる心境ではなかった。俺はジフリートと、決闘でもしていたつもりなのだろうか。


「……とりあえず、土産は十分だろ。持てるだけ素材回収して下山しようぜ」


 急に押し寄せた疲労感に負けてそう提案した俺に、カンナは一つ頷くと、俺たち三人の顔を見回して言った。


「私はここに残るから、三人で帰還してギルドに報告して」


「は?」


「だって、こんな歴史に残る資源を置いて帰るわけにいかないもの。解体して全部持ち帰らなきゃ。十倍から二十倍の人手がいるから、帰ってきちんと報告してね」


 彼女が言っているのは、至極もっともな話だった。飛竜の全身がキレイに揃った死体なんて、ギルドの研究部がよだれ垂らして欲しがるに決まってる。《WWO(世界冒険者機構)》に引き渡して多額の謝礼金に変えても、飛竜素材で未知の製品の開発を進めても、どちらにせろ国にとって途方もない利益になる。


 俺たち四人と気球が一機だけでは、持ち帰れてこの巨体の二十分の一程度。かといってジフリートの亡骸をこのまま放置して帰れば、その間に他のモンスターに食い散らかされたり、風化が進む恐れがある。


「それなら、俺も残る。こんなとこに一人なんて危ないだろ」


「あはは、大丈夫だよ、ここら一帯はジフリートのナワバリだったんだから。しばらくは他のモンスターも寄り付かないし、たとえ出ても、ジフリートと同等レベルまでなら私一人で平気」


「いや、でも……」


「これは隊長命令だよ、シオン君。君たち三人にこれ以上の任務続行は難しいと判断しました。体力的に限界でしょ。ていうか、シオン君は守護石全損してるので、即刻帰還が義務のはずです」


「うぐ……」


「まー、おれは早く帰れるならありがたいかな。めっちゃ疲れたし。そもそもおれは戦闘以外役に立たないからなー」


「……ヴァジュラがないと下山も難航するだろうし、この二人だけで帰すのも不安だし。……やっぱり、カンナさんの判断が一番合理的ですね」


「と、いうわけです。お家に帰るまでが任務だからね。よろしく頼むよ、三人とも」


 返事をした二人に挟まれて、俺は何も言えず項垂《うなだ》れた。カンナはルミエールの増援を待っている間、死体の防腐処理を済ませて周辺の実地調査を続けるという。


「はい、はい、はいはい!」


 話が終わりかけたところで、テトが小学生のように手を挙げた。


「どうしたの?」


「ほんの、ちょーーーーーーっ、とだけでいいからさ」


 横たわるジフリートの亡骸を指差し、もう片方の手で「ちょっとだけ」のジェスチャーをして、テトは無邪気に溌剌《はつらつ》と言った。


「食わねえ? ジフリート」


 全く発想のなかった俺達は、一瞬硬直した。しかし――そうだ、ウォーカーは、殺したモンスターは必ず食べる。


「増援を待つ間も肉はどんどん傷《いた》んじまうし、国の偉い奴らはもったいないって食わせてくれないだろ、絶対。だったら新鮮なうちにこっそり食おうぜ。それに、強くなる一番の近道は、強いモンスターの肉を食うことだろ」


 強いモンスターを食うことで、血が、筋肉が、より強靭に生まれ変わるのはこの世界の常識である。ましてそれが竜の肉であれば――その一回の食事が一体どれだけの体験となるのか、想像もつかない。


 先ほどの激闘が頭を過《よ》ぎる。少しの間、ジフリートの首を見つめて逡巡した俺は、一つ頷いた。


「賛成だ。食おう」


 奪った命に対する最大の礼儀は、やはり食うことに違いない。マリアも、カンナもゆっくりと賛同した。


「ていっても、コイツの鱗めちゃくちゃ硬いからな。どこの部位切り出すにしてもシオンの技じゃなきゃ」


「【火之迦具土】じゃ繊細な解体はできないよ。しかも断面が焼けちまう。食うところ以外がぐちゃぐちゃになるだろうな。死んだ相手に対してまで使いたくない」


「じゃあどうやって竜の肉を食うんだよ!」


「一箇所だけあるよ」、とカンナが歩き出した。ジフリートの首の前でひざまずき、手を合わせてから、その上あごを持ち上げる。


 でろり、と、分厚く長い薄桃色の舌が牙の隙間からはみ出した。


「竜の舌《タン》。ここをみんなでいただきましょう」 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつも応援いただきありがとうございます。更新を待つ間、こちらの新作はいかがでしょうか? 無能力者の主人公が物理とメンタルチートで頑張る異能学園バトルものです。 新作は↓ 塔の上のアンダーテイカー こちらから読めます。執筆の励みにもなりますので、ぜひ高評価お願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。