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第5話-1

「よぉーし、じゃあこれから《剣術基礎》の授業を始める! 気をつけー、礼!」


 ロイド教官の威勢のいい号令で、四時間目の授業が始まった。場所は学園のグラウンド。


「この授業、ロイド教官が担当なんだな」


「うん。彼の専門は戦闘だから。二年前までバリバリ現役のウォーカーだったらしいし」


 そう言うハルのシャツは、コーヒーのシミがくっきりついてしまっていた。


「アイツらはいないのか。ほら、さっきのムカつく赤髪の。ユーシスって言ったっけ」


「……気持ちは嬉しかったけど、悪いこと言わないから歯向かわないほうがいいよ。フレイムは僕らのこと、宇宙人か何かだと思ってるんだ。対等な会話なんて無理だし、ユーシスはフレイムの首席だよ。相手が悪すぎる」


「まぁ、腕の立ちそうな雰囲気はあったけどな。首席と言えば、マリアもいないな」


「ユーシスもマリアも、《剣術基礎》はとっくに単位をもらってるよ。座学と違って、こういう技能系の授業は、合格ラインに実力が達して初めて単位が出るんだ」


「へぇ、じゃあ1日で単位もらえることもあるのか」


「さすがにないよ、基礎とは言えウォーカーに必要な能力が基準だから。マリアの一ヶ月がウィードの最短記録。小さい頃から剣を習ってるユーシスでも、一週間はかかってた」


「剣か。俺も習ってたっちゃ、習ってたんだけどな」


 ハルは肩をすくめた。


「平和な地球での習い事と、バケモノがうじゃうじゃいるこんな世界で育った人の剣術は、やっぱり質が違うんじゃないかな」


 それは、確かにハルの言う通りかもしれない。ナチュラルの連中は、言わば狩猟民族だ。発展した文明に囲まれてろくに外で遊ぶこともなく育った地球人とは、運動能力や身体の作りから別物だろう。


《剣術基礎》の授業は、個人訓練に近かった。準備運動の後は生徒が三々五々に散っていき、わらを巻いた木の人形に向かって木剣ぼっけんを振ったり、向かい合って剣術の"型"を実践したり、めいめいが違うことをし始めた。


「教官が良しと言うまで、次のメニューに進めないんだ。僕はかれこれ一ヶ月も素振りしてるよ」


 弱り切った表情で貸し出し品の木剣を構えたハルは、俺の前で素振りを実演してみせた。腕と上半身と下半身が、見事に連動していない。情けない剣の上下運動を目の当たりにして、これはもう数ヶ月はステップアップできないだろうなと思った。


「よぉ、新入り」


「あ、ロイド教官」


 背後からの声に振り返ると、ロイドから木剣を投げ渡された。


「その目、見えていないんですか?」


「ストレートな質問だな。見えてないが、どうした?」


「いえ、どうやって俺を見分けているのだろうと思って……」


 ロイドは眉を釣り上げてから、キョトンとした顔で言った。


「勘」


 この人は何を言っているんだ。


「うはは、冗談だよ冗談、半分はな。盲目生活も長いと、声や気配でなんとなくわかるもんだ。……それよか、ハルク、なんだそのへなちょこ斬りは」


「す、すみません。一生懸命振ってるんですが! 具体的に、どこを直せばいいでしょうか!?」


「んー、全部」


 ちょっと貸せ、と言って俺から木剣を奪い取ると、ロイドはそれを大上段に構えた。爪痕の迸る顔を精悍に引き締め、一閃。


「フンッ!」


 稲妻のごとく振り下ろされた木剣が、暴風を巻き起こした。砂塵が吹き上げ、木の葉が舞い、遠くの木々までざわめき、野鳥が一斉に飛び立つ。グラウンドにいた生徒全員が訓練の手を止めて、何事かとこちらを振り返った。


「こんな感じだ」


「全く分かりません!」


「はぁ? だからこう、ぐぁぁぁぁっと構えて」


「ぐ、ぐぁぁぁぁ……」


「違う違う、もっと、ぬらぁぁぁぁぁぁっ、だ!」


「ぬ、ぬらぁぁぁぁぁぁ……?」


「全然違う、もっともっと、ぴぎょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ、だ!」


「ぴ--ぴぎょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」


「まったくダメ、才能ないわお前」


 むごすぎる。


 燃え尽き、木剣を取り落としそうなハルを見かねて、俺は彼の背に手を添え背筋を伸ばさせた。


「まずは中段に構えろ。……力入れすぎだ、もっと包み込むように、柔らかく握れ」


 ハルは困惑した顔になりながらも、言われた通りにしてみせた。ロイドが表情を変えて、俺たちの行方を見守る。


「うん、悪くない。ゆっくり振りかぶれ。違う、動かすのは左手、右手は舵を切る役割だと思えばいい。肩の力をもっと抜け。だから脇が甘くなる。ほら、また腕に力が入ってるぞ」


 きちんと言語化してやれば、ハルの飲み込みはむしろ早かった。一つ一つ問題を修正し、そこそこ構えがサマになってくる。


「力を創り出すのは下半身。腕だけで振るな、無駄に疲れるだけだ。よし、いいぞ。体重を乗せて、あとは、雑巾を絞るようなイメージで、内側に柄を引き絞るように--打て」


 フォン、と小気味良い音を立て、木剣が空を切って静止した。ハル自身が一番驚いた顔で、俺と剣を交互に見つめる。


 なかなか筋のいいやつだ。これは化けるかもしれないぞ。満足して小鼻を膨らませていると、ロイドが俺に木剣を放り投げてきた。


「シオン、だったよな。振ってみろ」


「え?」


「いいから」


 やや戸惑いながらも、俺は言われた通り木剣を青眼に構えた。目を閉じて、精神を集中させる。音、匂い、人の気配、全てが遠ざかる。


 この世界に来てから一週間。時間を持て余していたからというのもあるが、毎日、朝から晩まで木の棒を振り続けてきた。前の世界で積み上げてきたものに、アカネでの一週間が乗っかった、今の俺の剣。


 不思議と。数日前から、剣が羽根のように軽い。


「--ふっ!」


 渾身の一太刀が目前の虚空を打ち抜き、快音が炸裂した。巻き起こった強風にハルとロイドの髪がなびき、砂煙が舞う。グラウンド中の生徒が、またしてもこちらを振り返った。


「うん」


 ロイドは頷き、分厚い手を俺の肩に乗せた。


「お前、帰っていいよ。明日からもうこの授業来なくていいから」


「……は?」


 なんで? クビ?


「《剣術基礎》のレベルは元から超えてたみたいだな。合格おめでとー、単位あげる。これで《剣術狩猟演習》《剣術対人演習》が履修できるから。あ、あと」


 呆然とする俺に、ロイドは人懐っこい笑みを浮かべた。


「久しぶりに良い"音"を聞かせてくれた礼だ。ナツメ候補生にボーナス500ポイント」


 何も言えない俺に変わって、ハルがぱあっと表情を弾けさせ、俺に向かって飛びついてきた。

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いつも応援いただきありがとうございます。更新を待つ間、こちらの新作はいかがでしょうか? 無能力者の主人公が物理とメンタルチートで頑張る異能学園バトルものです。 新作は↓ 塔の上のアンダーテイカー こちらから読めます。執筆の励みにもなりますので、ぜひ高評価お願いします!
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