第三話 テト-3
「しばらくじゃねえか。カンナとはうまくいってんのか? え?」
タバコを灰皿に押し付けニヤリといたずらっぽく笑うサヤに、うっと口ごもる。彼女とカンナは同い年ということもあり、非常に仲がいい。なんでもカンナがこの世界に来たばかりからの友人だそうで、互いに冒険者と武具屋になってからも良きパートナーである。
「その顔じゃ進展はなさそーだな。ま、眼中にもねえ男にアタシの刀プレゼントするアイツの方も、なかなか罪深いけど」
ん、と俺の腰に視線をやり、「綺麗に使ってくれてんじゃん」と艶めかしく微笑むと、サヤはカウンターを飛び越えて蛇のように俺に接近した。あれよという間に俺のうなじに両手を回し、下腹部を密着させてくる。
「だから何度も言ってんだろ。アタシにしとけって。いい加減お前の子を産ませろよ」
この冗談なのか本気なのか全く分からない求愛を、かれこれ二ヶ月近く前から受け続けている俺は、そろそろ少し慣れたものでやんわり拘束を外した。
「白昼堂々言う台詞ですか」
「冗談だと思ってんだろ? 刀を折らずにモンスターと戦える剣士なんて、国に、いや世界にアンタだけだぜ。アタシは本気で惚れてんの、つべこべ言わず結婚しろや」
「いや、気持ちは嬉しいけど、ごめんなさい……」
ちぇっ、とサヤは大して悲しくもなさそうに、俺から離れてくれる。いつもこうだから、やっぱり冗談なのだと思う。テトが口笛を吹いて俺の肩を抱いた。
「モテモテだなシオン。それにしても、ルミエールにはイイ女が多いなぁ」
「おっ、見る目あるじゃねーか。シオンの友達か?」
「……そんなんじゃない。アイルーから派遣されてきたウォーカーですよ。これから火山地帯へ探索に行くから、耐熱装備を二人分見繕ってほしくて」
「火山地帯ィ? なんだよ未開拓エリアか? また王からメチャクチャなクエストでこき使われてんじゃねーだろうな」
「そんなんじゃないですよ。カンナも一緒だし」
ほほう、とサヤは目尻を下げる。「泊りがけか?」と下品な目で言いつつも、テキパキと工房に引っ込んでいって何やら売り物を物色し始めた。
十数分後。
「こんなもんだろ」
サヤの求めるがまま着せ替えられ、俺たちは新装備に身を包んでいた。
火猪の体毛を加工した特殊な耐熱繊維製のアンダーシャツとレギンスの上に、黒いポンチョのような薄い防火衣とワイドパンツという軽装。軽いが決して燃えず、モンスターの爪や牙でも裂くには苦労するほど強靭な素材だそうだ。全身を見た感じ、機動力特化の消防隊服と言った印象である。
テトも色違いの白で同じ装備を身に纏っていた。互いの戦闘スタイルから「なるべく軽装で」という二人の要望に応え、金属製の防具はゼロ。
「おぉ、いいね! 動きやすいし、安心感やばい。俺の雷撃でも破れなそうだし丁度いいや。これアンタが作ったのかよ? すげー腕だな」
テトは大満足したようである。
「オーダーメイドならもっと唸るようなモン造ってやれるがな。出来合いの中じゃこれが最適の品だ」
「よく俺たちのサイズがありましたね」
俺とテトの体格はほぼ同じ。マリアを除けば国内でも群を抜いて小柄なはずである。普通なら特注必須でもおかしくない。
「お前のこと考えながら造ってたら、そのサイズばっか大量生産しちまうんだよ。まだいくらでも在庫あるからな」
「そ……そうですか」
「靴と手袋も耐火コーティングしといてやった。お代は金貨五枚な、二人分」
一人分でももう少ししそうなものだが、この店は俺とカンナにだけ随分安い。その代わり他の客からは法外にぶんどるので、腕は確かなのにまるで客が寄り付かない。まぁ、そのおかげで贔屓にすることができている。
「帰ってきたら、すぐ刀のメンテナンスに来いよ」
代金を手渡す際、格安の条件とばかりに手を握られ、そう約束させられた。




