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クリスマス企画 第3弾

ある日のブラックサンタのクリスマスデイ

作者: 夢見るツクヨミユックー

「いや、間に合うわけないだろ」


12月24日、世間はクリスマスイブということもありどこもかしこもクリスマスのイベントやイルミネーションで盛り上がってる日の中、賛田は会社の上司サンタの前で嘆いた。


「いやほんとこの仕事して5年くらいしかたってないけどね?毎年毎年思うんだよ、なんで25日の夜中でプレゼントを配り切らないといけないんだよ!」賛田は嘆く。


「いやぁ、君みたいな事を言う人は沢山いたねぇ....けどこればっかしは僕にはなんともね?まぁ子供に夢を与える仕事と思って....ね?いいじゃないか、素晴らしい仕事だ」上司は諭すように返す。


「いやそらそうですけど貴女その時間何してるんですかネットサーフィンしてるんでしょ?」すかさず迎撃。


「なんて事をいうんだ!あれはネットサーフィンではない....!プレゼントの収集・発注だ。最近の子供達はやれスイoチだぁ、やれPO4だぁ欲しいものが多すぎる!昔はサッカーボールとか野球道具セットとか人形とかで済んだのに....」上司も負けじと反論。


「あくまで仕事と言い張るんですね....ならいいいでしょう。100歩譲ってプレゼントの収集・発注と言うのはわかりました。ただその発注したのをどうして自分が364日クリスマス以外の日を使って集め回らないといけないんです!? この日本に子供どんだけいるとおもってんですか!」


そうなのだ、この会社は自分がサンタだとバレてはいけない決まりのため秘密裏に行動しなければならない。 サンタは夢の存在でもあるためである。 サンタの格好をしてそれが現実に居る人とバレなければ問題はない。 自分と上司合わせてのの5人で経営している。サンタの本社はフィンランドにあったりするのだが流石に全世界の子供たちの元へプレゼントを贈ると考えると普通に無理なので各国に支部を建てプレゼントを配っているのだ。


「それはね………………適材適所さ!!!!」上司ドヤ顔。


そして今この会社では5人のため上司がプレゼントの情報収集、発注を行い、自分を含めた4人がそのプレゼントを集めたり、受け取りに行ったりしている。そしてクリスマス前日までに揃えて配りに行くのだ。


「なんでもうちょっと人を雇わないんですか....」上司のドヤ顔を無視して自分は嘆く。


「ううむ、こればかっしはしょうがないんだ。サンタの仕事なんて本来ならあるはずない仕事なんだから。 子供に夢を与える仕事って名目で働いてるけどこれ普通に不法侵入合法的にしちゃってるからバレたらほんとやばいからね。 あまり人を雇えないんだ」上司もため息混じりに言う。


「ぐぬ....部長が正論いうなんて明日雪が降りそうですね」


「いや賛田くんもう降ってるよ....」


「....はぁ、まぁとやかく言っても仕方ないのでとりあえず明日に備えてそろそろ帰りますね。」投げやりにそう呟き会社を出る。


「わかった。 今日の22時から始まるからそれまでゆっくり休んで仕事頑張ってね。あ、ソリのスリップ事故には気をつけるんだよぉ!!」


「そんな事故あってたまるかぁ!!!!」俺は振り向きながらクソ上司に向かってそう叫んだ。








「ああぁ!寒い....!」


会社からの帰り道、考えることがたくさんあった。5年前にたまたまハロワで見かけた会社で給料もそこそこ良かったのだが、仕事内容がアシスタントとしか書かれていなかった。何かに惹かれる思いで電話し、面接を受けて受かってしまい、今のクソ上司には


「あ、ここはサンタクロースになって子供にプレゼントを届ける仕事だから気をつけて頑張ってねぇ!!」


という事を急に言われて辞めるに辞めれなくなったわけでこの仕事が続いている。正直な話自分は不満で一杯だ。子供は嫌いではないが休みが不確実で上司の発注が決まればすぐ取りに行き集めて24日の夜から25日の朝にかけてソリで寒い中飛び回りプレゼントを配る。プレゼントを配るだけでみたら多分夢のような仕事なんだろうが自分はそうは思わない。


なぜって? 仮に不法侵入で捕まらなくても誰かに「職業は??」って聞かれて堂々と「サンタ、やってます!!」なんてドヤ顔で言える馬鹿は多分いないはずだ。 あ、でも仕事仲間の九老須さんが家族と親族にはドヤ顔で伝えたって言ってたっけ…すごい。


誇りのある仕事ではある。 普通にサラリーマンしているよりかは充実してると思う。ただ最近充実感がなく漠然と自分には合ってないんじゃないかって思うことが増えて来ていたのだった。


「やっぱり新たに仕事見つけた方がいいのかなぁ....ううむ、そろそろ考えた方がいいかもしれないな」 自分の中で辞める決心がつきかけそうだった。


「はぁ....とりあえず今日は頑張ろう今年最後の仕事になるかもしれないし..ん? あれは」


帰り道の途中の公園を見ると隅の方で1人で遊んでいる子供がいた。クリスマスイブだというのに友達とではなくただ1人でブランコを漕いでいた。


「はぁ....こんな日に1人でなんて寂しい奴もいたもんだな、あっ俺も人のこと言えない」


1人でそんな事言ってて泣きそうになった。


そんな事を言った辺りで子供がブランコからジャンプし、着地すると思いきやそのままズザァ!!っと転んで行った。つまりは着地に失敗して倒れていた。


「は!!? おい、大丈夫か!!」いつのまにか急いで子供のとこまで走って行っていた。


子供はかなりの勢いで転んでいたのに涙1つ流さず無表情のままだった。


「大丈夫か? また盛大に転んだな。 雪が積もってなければ膝擦りむくくらいでは済まなかったぞ。」


「うん、そうかもね、雪があって助かったのかな。 どうでもいいけど」


近くでみたら男の子かと思いきや10~12歳くらいの少女だった。彼女は傷の心配もせず服についた雪を落としていた。


「いやどうでもよくはないだろ、見てたけど勢いよくいったよなあれ、スキージャンプよろしく盛大に飛んだよな」


「え、見てたのですか?おじさんもしかしてそういう趣味があったりするんです?」少女は嫌そうな顔をしてこちらを睨む。


「人の話を聞け! こんな日に1人で公園で遊んでたら何だと見てしまうだろ。 あげくに見てる時に怪我しそうなことが起きたんだ。 そら心配して見に行くだろ。」


「........おじさん優しいんですね。 心配かけてすみません」少女は睨むのを止め、申し訳なさそうにそう答えた。


「まぁ、無事で良かった。 1人で遊ぶのはいいが怪我だけはすんなよ。 んじゃ俺は帰るわ」 俺は1人で遊んでるこの子が気になってはいたがあまり触れない方がいいと思い立ち去ろうとしたその時、


「もし良かったら一緒に遊んでくれませんか? 話だけでも」


と意外な返事が帰ってきた。


「え? 俺とか? こんなおじさんと何して遊ぶんだよ....虚しくなるぞ」困った顔でそう呟くと、


「おじさんとなら大丈夫かなと、今日限りの関係でいいです。」無表情でそう彼女が返す。


「その言い方やめろ、年端もいかない少女が言うと俺が捕まるから....まぁ、いいかどうせ夜まで暇だし」そう伝えると、


「ありがとうございます」と、少女は少し微笑みながら返した。








「んで、何するんだ? 雪合戦か? 雪だるまか? 鎌倉は流石にキツイし、うーん」と考える。


「おじさん遊ぶってなったらかなりやる気になりましたね。」少女は少し驚いた顔をしていた。


「まぁ、この歳になって外で遊ぶって事自体あまりしなくなるからなぁ。 俺は楽しむ時は楽しむタイプなんだ。 例えそれが周りから見てどんだけ下らないことでもな。」ドヤ顔まじりで言う。


「へぇ....じゃあ雪だるま作りたい。 おじさんと私の2人の証を」少女は無表情で言う。


「だからやめろその言い方!! 最近の子供はなぜそんな言葉を使えるんだ....? まぁいい、そう言えば君、名前は? 普通に聞くの忘れたわ」と伝えると、少女もハッとしたあとで


「そうでしたね。 私の名前は入江理絵って言います。 まぁ別に覚えなくてもいいですよ。」と淡々という。


「入江理絵ちゃんね、覚えなくていいってそんなきっぱり言わなくても....」おじさんショックがでかい。


「すみません、ちょっと私も言い過ぎました」少女は気まずそうに下を向いた。


「まぁいいか、とりあえずなんだっけ? 雪だるま作りたいのか? よし、ならば本格的に頑張ろうぜ」と、話を変える勢いで伝えると


「やりましょう。 私も頑張ります。」と彼女もやる気になった。


その後2人で雪を集めては丸め、集めては丸め公園内を転がし回った。小さい部位は彼女が見つけてきたり、足りないものは自分の持ち物でカバーしたりして、雪だるまを作った。その時の彼女は何かを忘れたかのように夢中に雪だるまを作って自分と一緒に笑っていた。


2時間くらいだろうか、ようやく雪だるまは完成した。 小さいのを作るのかと思えば160cmくらいの結構大きめの雪だるまが出来た。


「結構大きいのができたな」


「そうですね、やりきりました!」2人は満足そうに言った。


「さて....もう夕方だが俺もそろそろ帰ろうとしようかな。 理絵ちゃんはこの近所? 危ないだろうから一緒に帰ろうか?」と、心配そうに言うと、さっきまで満足気に笑顔だった彼女の顔が曇り、


「私はもう帰りたくない。」と一言だけ呟いた。


「帰りたくないって....親と喧嘩でもしているのか?」


というと、首を横に振り、


「ちがう」と呟く。


「んん....何かあったのかは俺が聞いていいいのかわからんが....」と困っていると彼女は、


「私と遊んでくれた人はおじさんが初めてだから教えようかな。 実は私病気なの。 名前まではわからないけどもう長くないんだって、余命?っていうのがクリスマスの日くらいまでなんだって。」と淡々と言う。


「私もお母さんもお父さんも最初は治ると奇跡を信じてたけどもう今月に入ってからは皆私に話しかけてる時の目が諦めに変わってた。毎日お見舞い来てはくれているけど病室に出た後にお母さんがよく泣いてるの私知ってるの。 」彼女は声を震わせながらまた呟く。


「看護師さんは忙しいみたいで誰も遊んでくれない。外に出てこれるようになったのは12月から。だけど誰も遊んでくれなかったの。」


今まで我慢してきたのだろうか、彼女は伝え始めると止まらなかった。病気のこと、家族のこと、孤独だったこと、まだやりたいことがあったこと、話始めると止まらなかった。


最後に話している時には目に涙を浮かべながら必死に伝えていた。


「ありがとうおじさん、今日あったばかりのおじさんに聞いてもらえるとは思わなかった。」


「いや、俺が聞いて良かったのかわからないが伝えることで気が楽になるなら良かった。」俺はどう何を伝えていいのかわからずそう言った。


「怖くないのか?」


「怖いよ、怖い。 だけどもう仕方ないかなって」


11歳の少女は淡々という。しかし、怖いのだろう。話している時も肩の震えは止まらなかった。


俺は余命が明日までとなっている子供に何も出来ないのか。11歳なんてまだその辺の公園ではしゃいで友達と遊びまわって楽しいように生きてる年頃だぞ。まだクリスマスにサンタが来ると信じてる。希望で一杯な年頃なのに....と俺は自分の無力さを感じながらそう思った。


静かな時間だった。もう夕日もおちかけ辺りは暗くなる。ブランコに座って話をしていたら雪もちらほらと降ってきた。


「理絵ちゃんはサンタを信じてるかい?」俺は彼女の方を見て言う。


「サンタなんているわけがない。そんな事わかってるよねおじさん。」少し怒り混じりに彼女は言う。言いすぎたのかハッとして、


「プレゼントを持ってきてくれるなら嬉しいけどこんな治らない病気なんかかかった後だともう何も信じれないよ」と取り繕うように彼女はまた言った。


これだ、今の俺に出来るのは。と俺は思った。


「理絵ちゃんはサンタがいるなら....何が欲しい?」 正直明日までの子にこんなことを聞くのはキツかったが俺は覚悟を決めてそう伝えると、


「欲しいものなんていっーーぱいあるよ。 けどそうだなぁ、どうせならサンタさんと話がしてみたいな。 よくサンタはいるとか公園の皆も言ってたけどプレゼントだけ置いて帰るなんて普通に考えたら嘘かもと思うもん。だから、私はサンタとお話ししたい。皆にできない事を私はしてやるんだ。」と強がって笑って彼女は言った。


「なるほどな、んじゃおじさんがお願いししてやる。だから最後まで諦めるんじゃないぞ!!」と強く言った。


「変なおじさん、でも今日はありがとう。 あんまり遅くなると看護師さんに怒られちゃうからもう帰るね。今日遊んでくれて本当にありがとう。」というとブランコを降りて走っていく。公園の入り口で「バイバイ」と手を振ってまた走っていく。


「お願いをいうだけ言ってパッと帰るなんて....おじさんが仮に嘘でもそう言ってくれたのを理解して早めに帰ったよなあれ。 彼女なりの気遣いってか? はは....11歳にしては空気読めすぎだろう....」苦笑いしながら呟く。


「だが嘘ではない事を証明するか。なんやかんやで今日出会えたのも何かの縁だ。どうすることもできないがせめて、出来る事をしてやろう!!」俺は強く心に決め公園を後にしようとすると、


「あのーすみません、ご近所から少女とずっと一緒にいる男性がいるという連絡を受けてきたのですが何してたんですか?」と警官が疑い深く睨んで挨拶しにきた。


「ん? そんな人いましたっけ? ここの公園で遊んでたの自分ともう1人の子供しかいませんでしたが」自分がそう答えると、


「いやあなたんですよ」警官が言う。


「えっ?」自分が言う。


「えっ?」警官がこいつ気づいてなかったのかみたいな顔して言う。


「........................................」


「........................................」


「とりあえず話しましょうか。」


「いやまて誤解だぁー!!」


俺の声は公園の中で虚しく響いた。






「いやぁ、危ねぇ....人生で初職質受けたわ....彼女に希望とかなんとか言いながら自分の人生終わりかけたわ....」


と、仕事中にそう呟く。あの後職質を受けたがなんとか警官には理解してもらい、何事もなく終わった。そしてそのままサンタの格好して今相棒のトナさんと一緒に子供達にプレゼントを配っている。


「トナさんだって嫌だよな? ロリコン認定されたかけたサンタとか背中に乗せるのは」


「ブルルゥ....」気にしない、と言った。


「トナさん....やっぱトナさんは優しいなぁ。 今日も寒いけど頑張ろうな」と癒されながら言った。


「さて俺もあそこまで言ったんだ。 サンタは夢を届ける仕事、やってやるさ!」俺は意気込んでプレゼントを配り回った。


「えぇっとこの子はっと、ほぅP◯4か。 好きそうな顔してるな。 え、靴下これ? ちっちゃいぞ....まぁ枕元に置いとくか。 よし次々。 」どんどん行く。


「この子はっと......ぬいぐるみか、ええっとこれか。 靴下なにこれデカっ、いやまぁ入るからいいんだけど….ん?これは手紙か?」めくると、


『サンタさんありがとうおつかれさまです』


「....................はぁ尊い」心があったかくなった。手紙に大事にねとサインをした後、次に行く。


「この子はええっとスイ◯チか、ふむ、やっぱ今年にでたから結構人気なのか....五件くらい続けてこれだしなぁ、まぁとりあえず靴下に入れとこ」どんどん行く。


「この家の子はっと….将棋? えらく渋いな....顔を見たらいかにも将棋好きそうな子だな。 頑張って名人になってくれよっとぉ残念ながら靴下小さい。仕方ない布団の横にセットしとくか 」と、将棋を並べておいた。 朝起きたらびっくりしてくれ。次に行く。


「次はと….魔法少女変身セットか。 いかにも子供が欲しがりそうだなぁ。 ん、これ、あれ、うん....よし靴下に入れたさっさと行こう俺はなにも見てない」ベットから見えた顔が男の子だったように見えたのは気にしないようにしよう。 さて次々。


「よし次の子はっと、ん、なにこれサンタって書いてあるけどどうするのこれ....机になんかあるな手紙? とお酒か?」手紙を見ると


『お酒です。サンタさんください。首輪あります』と、机の上を見ると酒と首輪が置いてあった。 どうやらこの子にはサンタを飼いならす能力があるみたいだ。 と俺は思った。


「首輪て….そんなプレイには興味ないがすまない、サンタは皆のサンタだからな。お酒も飲酒運転になるから飲まないでおこう。代わりと行ってはなんだが、サンタ人形をあげよう。お腹押したら喋る特別製だ。 大事な」


机の上にそれを置いてそれに首輪を付ける。今寝ている彼女も喜ぶだろう。さてもう後少し、頑張るか。


「ええと次はクッキー100年分か、どんだけ好きなんだこの子。 クッキーのモンスターだな。 とりあえずたしか100年は無理だけど3万円分のクッキーがっとあったった。靴下入るのかなこれ….」靴下にクッキーを詰めるだけ詰めて溢れた分は枕元に置いた。朝起きたらクッキーに包まれてるため、この子は充分幸せになるだろう。


その後、ありきたりなプレゼントを渡したり中々見たことや聞いたことがないもの、または渋いのや触れてはいけないものなどを配った。そして朝の3時ごろようやくプレゼントを配り終え、最後に届けないといけない彼女の元へソリを滑らせた。


◯◯病院へ、着き、看護師に事情説明すると最初は何だこいつと怪しんでいたが、彼女から話を聞いていたのか理解して病室を教えてくれた。そして彼女の病室に着いた。


「理絵ちゃん、メリークリスマス」


そう言って開けると理絵ちゃんは驚いた顔をして口を開けていた。


「君のプレゼントは『サンタと話す事』だったな。とある知り合いからお願いされてね。 仕事の最後に会いに来たんだ」俺はバレないように話し方を少し変えて伝えた。


「えっ…...ほ、ほんとにサンタさんなの? お父さんやお母さんじゃないんだよね? ほんとに?」彼女は唐突すぎてワタワタしていた。


「この病院でも見かけない顔だし、あのおじさんが言った事はほんとだったんだ….」と彼女は目を輝かせてそう言った。


「ははは....さて、プレゼントを渡したいんだ。 そろそろそっちに座っても大丈夫かな?」俺はずっと病室の入り口に立っていたのでそう伝えると彼女はハッとして、


「どうぞどうぞ....」と言った。


そして自分の人生で初のサンタの格好で人生最後に夢を叶えた彼女との最初で最後の会話が始まった。


「..................まさかほんとに居るなんておもわなかった、サンタさんはどこから来るの?」彼女はそう言うと、


「そうだなぁ、外国の北の寒い方にサンタさんの家があるからそこから全世界の子供たちにプレゼントを配っているんだ」と伝える。


「そうなんだ….すごいね! 本で読んだことある通りにトナカイに乗って?」彼女が言うと、


「そうだよ、自分の相棒となるトナカイに乗ってソリを滑らせ色んなところを回るんだ。」と伝える。


「わぁ....ほんとにしてたんだ。 サンタさんとお話出来ることがまずあり得ないと思ってたのに....最後に1つだけ夢が叶って良かった。」初めてあった時には見せてなかった笑顔を彼女は見せてくれた。


「理絵ちゃんの事は知り合いから聞いている。こんな私でさえ良ければまだ少し時間があるから話そうか」と伝えると、嬉しそうに


「うん、ありがとう!」と笑ってそう言った。


色々話をした。サンタになって良かった事やサンタでも嫌な事はある事、子供たちにとっては夢の存在だがサンタだって悩んだり苦しんだりもして生きている存在なのだと、少女のこれまでの夢や、叶えたかった事、生きたい希望やこれから先の事、11歳の少女と29歳の社畜が普通は話さない事を時間いっぱいまで話した。 たった2時間、その2時間が1日に感じるくらい長く感じた。それはまるでクリスマスの日に奇跡が起きたと錯覚してしまうような感覚だった。 不思議な力でこの病室を包み込み時間を遅くしている。 そんな感じだった。 しかし、楽しい時はいつかは終わりを告げる。彼女と話し込んでいたらもうすぐ5時になりかける所だった。


「さて、名残惜しいがそろそろ時間だ。本当に有意義な時間だったな。 ありがとう理絵ちゃん 」俺は感謝を伝えると、


「ううん、サンタさんもお仕事終わりにありがとう。 私もこんなに自分のことや色んなこと話したの初めて、あ、ううん2人目だね。本当にありがとう。」彼女は笑ってそう言った。


「....................理絵ちゃん」俺はまっすぐ目を見て言う。


「もう大丈夫かい?」と、


「........................................」理絵ちゃんはどう伝えたらいいか考えてた。


「サンタさん、どう伝えたらいいのかわからないけどね。 私大丈夫だよ。 怖いのは怖いけどなんだろ、どう伝えたらいいのかわからないんだけどね、私は大丈夫だよサンタさん。昨日まではモヤモヤしてたの、けどね。 今はそれはない。 怖いのは怖い。 だけどサンタさんと話してたらね、それは誰でもあるってことがわかったから。」と自分の目を見てしっかり言った。その時、11歳の少女の肩は震えていなかった。それを見た俺は達成感などではない。 この子なら大丈夫だろうという安心感を得ていた。


なぜなら、彼女は怖いを認めていた。 怖いものはいくらたっても怖い。 それを克服するのではなく怖いものを許容する。 認めるだけでも変わるのだ。


そんなことがわかった時、ふと入社仕立ての頃を思い出し、


『サンタは夢を届ける存在、全世界の子供達が唯一1つの存在にお願いし、希望や願いを届ける存在』


会社の言葉にこんな言葉があったのを今思い出した。俺は毎年毎年同じような事をしているため忘れていた。 まさかこんな所で思い出すとは思ってもいなかった。


「............そうか、なら、もう大丈夫だな」と言った後に、


「理絵ちゃん、こちらこそありがとう。 君とあったのは何かの縁だと思っていたが君は自分に忘れていた事を思い出させてくれたよ。そうだった、サンタは『夢と希望を与える』仕事だったって事をね」と伝えると、理絵ちゃんは満足そうに、


「サンタさんに感謝されるのってなんか変な感じだね」とそう言った。


「それじゃ、最後までいい夢を。 メリークリスマス理絵ちゃん。」俺は笑顔で彼女の頭を撫でて病室を出る。


病室を出ようとしたところで、


「ありがとう......おじさん......メリークリスマス」と涙交じりに聞こえた気がした。


病室を出た後、看護師さんにも「ありがとうございます」と言われた。


どうやら理絵ちゃんの事を心配してたのは家族だけではなかったようだ。 看護師にその後理絵ちゃんと最後の面会をしますかと聞かれたが断った。


もう一度合えば俺は理絵ちゃんの夢の存在ではなくなるから。


病院を出た後、静かに待っていてくれたトナさんが、


「ブルルルルルゥ」おかえりとそう言った。






今日は12月27日、クリスマスも過ぎて世間は年越しの準備に取り掛かっている。俺はいつものように仕事を終え公園でのんびりしていた。理絵ちゃんと遊んだ後帰り道にあった公園によくのんびりする事が多くなった。流石にこんな大人に遊ぼと言ってくる子供はいなくなったが周りで遊んでいる子供達を見ているといいリフレッシュになっていた。


「やっぱ子供はいいよな。 この仕事やめなくて良かった。」俺は呟く。


あの後、理絵ちゃんがどうなったのかは知る由もない。この公園に来てないのならそう言う事なのだろうが、俺はそれでも後悔なんてない。彼女を少しでも安心させれたのなら俺は俺なりに彼女の中に何か残ったのだと、そう信じてる。


そう考えていると、横から


「すみません、あなたが理絵ちゃんが言っていたおじさんですか?」と声が聞こえた。振り向くと40代前半の女性がいた。


「え、まぁはい私ですが」と言うと、女性は


「あなたでしたのね、私は理絵の母です。理絵と遊んでくれた人、あの時は本当にありがとうございます。 なんとお礼を言っていいのやら」と深々とお辞儀する。


「いえ、そんなお礼が欲しくてしたわけではなんというかほんとに最初は成り行きだったので」と返す。


「それでも理絵は最後まであなたと遊んでとても楽しかった事を私に話してくれていました。 しかも笑顔でです。 あの子があんなに笑って話したのは半年前に余命宣告を受けてその話を聞いてしまって以来見ていなかったので本当にありがとうございます。」と理絵の母は救われた顔をしてそう伝えた。


「そうだったんですね、自分もなにか理絵ちゃんの中に残っていたのならそれは良かったです」と自分は伝えた。


理絵ちゃんの母親とその後の話をしていると、


「あ、あと25の朝にサンタが来たなんて言うのでとてもびっくりしましたよ。病院の方がしてくれたのかと聞いたら誰もしていないのに理絵はサンタさんに会って話をしたと言ってたのです。 1人の看護師さんも出会ったと言っていたので嘘ではないのはわかりましたがあの子に最後に夢を見せてくれて本当にありがたいです。」と話してくれた。


俺はその話を聞いた時、理絵ちゃんは本当に嬉しかったことに気づけた。子供ほど、より単純な事が幸せだと、嬉しいことだと気づく、大人になればなるほど、そう言うことが薄れていき、だんだん気づけなるのだとわかった。俺は目頭が熱くなっていくのを感じたが我慢した。


母親の方も目がまだ赤いので立ち直ってはなさそうだが、話をして理絵ちゃんの笑顔や満足していたのをみてまだ救われたと思っていたそうだ。


「そう言えばこれを理絵から預かっています。 受け取ってください。 絶対におじさんに渡してねと」と理絵の母が言うと一枚の手紙を出してきた。


「では、私はこれで、本当にありがとうございました。」また深々とお辞儀をして理絵の母は去って行った。


「手紙か….ええと」手紙を開くと




『おじさん、メリークリスマス!! サンタさんの格好似合ってたよ。 これからも皆に夢と希望を振りまいてね。 おじさんほんとうにありがとう。 またね! 理絵より 』




と書かれていた。 たった3行もあるかないかの手紙での11歳少女の思いが俺を泣かすのに充分だった。


少し泣いたあと、俺は落ち着いてから上司に電話をかける。


「ん? 賛田さん? どしたの? 何か忘れ物?? 」と上司が出る。


「部長、俺やっぱりこの仕事続けます。 一度は辞めようかと考えたのですが俺なりに頑張ります。 頑張って子供に夢と希望を与えて行きたいです。」と伝える。


「ふふ....それは良かった。賛田さんが辞めたら皆寂しいし僕も寂しいからね。 何があったかはわからないけど、決心がついて良かった。 これからもよろしくね賛田さん。」と優しい口調で上司が言った。


「はい!! 頑張ります。 どうかまたこれからよろしくお願いしますね。」俺もそう伝えた。


サンタさんの仕事ってなんだと、24日から25日しか本気で働かないだと、大人の目線ではそうだ。実際は365日働いてはいるのだが。やはり世間の目は厳しいし、良いことづくめではない。どんな仕事でもそうだと思う。


しかし、子供は違う。 子供は年に1回しかないこの日を楽しみ待っている。クリスマスという奇跡の日を。


俺はこれからも続けていこうかと思う。とあるクリスマスに出会った1人の11歳の少女との出会いが自分を変えたのだから。あの子との出会いは縁だけで済ましていいものなのか。


それこそ、クリスマスがもたらした聖夜の奇跡ではないのかと、本気でそう思ってしまう。


そう考えたらと思うとこれからこの仕事をしていたらどんな出会いや物語があるのか楽しみだ。


俺はこれからもサンタになって夢や希望を振りまいていく。 40歳、60歳になっても。


365日働くブラックサンタはそう決め、雪の降るなか帰るのであった。




プルルルルと電話が鳴る。 上司からだ。


出てみると、


「賛田さん、今帰り? もしよかったらぬいぐるみ500体とゲームカセット600個と野球セット30セット発注したからまた回収しといてね!!!!」と言われた。


「そんなにいらんでしょうがぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」


俺は雪の降る帰り道のど真ん中で天にまで聞こえるほど大きい声で叫んだ。


どこかで彼女が笑って見ていると信じて





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