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真実の傍にいる獣

 日はもうほとんど沈んで薄い赤い光の中3人はいた。

オレンジの西の空を背に夕姫は立って梨奈を見つめている。

その不気味な笑みが勇気に鳥肌を立たせた。


「…どうやって…」


梨奈は床に跪いて俯いたまま呟いた。


「…そうね。教えてもいいけど、どうせ殺すんだし意味ないんじゃない?」


夕姫はまた壁に背を預けながら笑みを浮かべて言った。


「…夕姫…じゃない…今の夕姫は…夕姫じゃない…」


梨奈はぽろぽろと涙を流しながら顔を上げて夕姫を見つめた。


「フフ…そうね。あいつはいない。…必要ないのよ。」


「…あいつ…は…いない?」


梨奈は少しの間考えが及ばなくて呆然とした。


「梨奈。私があんなお人よしと同じモノだなんて勘違いしないで。私は私よ。…フフ…まぁ、そんなのどうでもいいかぁ…。フフフフフ…」


夕姫は笑いながら梨奈の方に向き直った。


「今ここで殺してあげる」


夕姫は梨奈に向かって腕を広げた。


―キーン…


―ザザザ!


耳鳴りと共に何かが梨奈と勇気の間をすり抜けて行った。


その音のなる方に二人は目線を映すとそこの花壇に咲いていたコスモスの一部がまるで鎌を振るったように切れていて、花がそこら中に散らばっていた。


梨奈と勇気はハッとして夕姫の方を見つめた。


「う…」


夕姫は左手で額を押さえて少しうめき声をもらしていた。


「何?」


梨奈は呆然とした。


「…く…邪魔だ!…」


夕姫はボソボソと何かを呟いていた。

まるですぐそばに誰かがいるように。


「あぁ!」


―バシ!


その声と共に夕姫の右側にあった壁に50センチほどの長さの穴のような亀裂のようなものが出来上がった。

まるで何か鋭いもので引っかいたような痕だった。


「チッ…」


夕姫は小さく舌打ちをした。

両腕で頭を抑え苦痛に歪んだ顔は恐ろしい形相で勇気はショックを受けた。

しかし、すぐに何かを悟って梨奈に向かって言った。

「逃げろ!」

その声で梨奈は勇気を始めて見たが、身動きが取れなくなっていた。

「今逃げないと!」

勇気はそう言うと梨奈に駆け寄り力ずくで立ち上がらせてその勢いで梨奈の来た階段の方へ駆け出した。

梨奈は呆然としたまま勇気に腕を掴まれて走り出した。

走りながら一度振り返ろうとしたら何かを感じた。


「あぁ!?」


その声をあげたのは勇気だった。

梨奈の腕を掴んでいる逆の左腕に何か衝撃を受けたらしい。

しかし、それでも勇気は走り続けた。

そして、階段を下りて、エレベータに乗るとやっと勇気の左腕がどうなっているかわかった。

「…いってぇ…」

勇気の左腕の袖は裂けてその中の皮膚も裂けていた。

血が流れ出て、指先から少しずつ床に滴っていた。

流れる量としては致死量でないにしても病院に行った方がいいか悩む怪我だ。

「この傷…あ…止血しないと。」

梨奈はその傷を見て、自分が昨日負った右腕の傷と似ていると思った。

梨奈は着ていたパーカーのポケットからハンドタオルを取り出すと勇気の傷口に巻いてきつく縛った。

「…い!?…痛いよ!」

勇気は涙目になりながら梨奈に怒鳴った。

「ご…ごめん。」

梨奈は勇気の顔をチラッと見ると苦い顔をしながら呟いた。


―チン…


その時エレベータのドアが開いて、二人は再び走りだした。

息を切らしても止まる気にはなかなかなれなくてしばらく走った。

勇気の方が少し前を走っていた。


 「ハァ…ハァ…」

勇気はやっと止まって地面にしゃがみこんで息を切らした。

梨奈の方もその道の脇の家の塀に手を付くと呼吸を整えようとしばらくジッとしていた。

 「ありがとう。」

梨奈は勇気の方を見ないままボソッと言った。

「いや…なんかヤバイ感じがしたし…。」

勇気は息が整ってきたところで身体を持ち上げて梨奈を見た。

「あの子、もしかして、北中学校が休講になっている原因?」

その問いに梨奈が勇気の方を見た。

梨奈は勇気の顔を見ると下を向きながら頷いた。

「…そうなんだ…よくわかんないし、とりあえず、落ち着こう。中に入って…。」

「え?」

梨奈は少し驚いて勇気を見た。

勇気の方はその目の前の家の門を開けて敷地内に入っていった。

「僕の家だよ。」

そう言うと勇気は梨奈を招き入れた。


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