闇の中で見る夢
― 赤い。
― 誰かの体。
― 肉片。
― 叫び。
― 嘲笑。
― 闇。
― 少女。
― 首の傷。
― 血。
― 涙。
― 瞳。
― 私?
― そう…これは私
― 夕姫と会った時の私。
― でも、なんで?
― 私が私を見てる。
― あぁ、そうか。
― これは夕姫の目。
― 風。
― 身体を取り巻く風。
― 風を受けた人
― 傷。
― 傷。
― 傷。
― 血がいっぱい。
― 炎。
― 誰?
― 笑っているのは。
― 誰なの?
― 私。
― また、私。
― 夕姫の目から見える私。
― 何?
― 泣いているの?
― 闇。
― 闇。
― 闇。
― 炎?
― 赤い炎。
― 何?
『アハハ…ラッキー。大当たり。』
― 誰?
― 炎の後ろに誰か居る。
『こんにちは梨奈。』
― 私?
『そして…』
『ありがとう』
― 何?
― 私?
― 怖い。
― そんな顔の私。
― 見たことなかった。
― 気持ちが悪い。
―バサ!!
梨奈はベットに横たわっていたのか、起きた途端に布団をはいだ勢いで座っていた。
息が荒いことに気が付いた。
夢を見ていた。
いやな夢を見ていた。
梨奈がいたのは白い部屋。
どこからともなく消毒液の匂いがして、そこが病院だと気が付いた。
窓からやわらかな日の光が降り注いでいた。
開け放った窓から風が吹き込んで白いカーテンを揺らしている。
「私…。」
梨奈は自分の右腕を見た。
鈍い痛みを感じていた。
そこには包帯が巻かれていて、その理由もわかった。
しかし、理解しきれなかった。
「夢かな?…夢だといいな。」
梨奈はそう呟くと膝に顔を埋めた。
―ガラガラ…
それは扉の方だった。
「梨奈ちゃん!気が付いたんだね。」
そう言ったのは勇気だった。
「水野君…。」
梨奈は勇気を見て不安そうな表情をした。
「昨日梨奈ちゃんのお母さんが来て今先生の話を聞いてるよ。傷はすぐによくなるって。」
勇気は梨奈に笑顔を見せながら話した。
それでもその笑顔に悲しげな雰囲気を感じ取った梨奈の心臓は激しく脈打った。
「夕姫は?」
それを聞いた勇気は一瞬固まった。
「アハハ、俺のこと名前で呼んでくれるの?」
勇気はふざけたふりをしていた。
「水野君…。」
梨奈は少し苦い顔をして勇気の顔をジッと見つめた。
「…ごめん。夕姫ちゃん、見つからないって…。」
勇気は真剣な顔にもどると俯いて言った。
「あのあと警察の人が探してくれたんだけど、遺体も上がらないって…。」
勇気はベッドの横にあった椅子に座った。
その言葉に梨奈は心臓が早まるのを感じた。
夕姫は死んでしまったのだろうか。
あの最後口にしていた言葉はなんだったのだろう。
「梨奈ちゃん怪我、痛む?」
勇気は少し微笑みながら梨奈を心配した。
本当は体の怪我よりも心の方を心配しているのだろうということは梨奈でもわかった。
「うん、大丈夫。」
梨奈は無理してでも笑わなければいけないと思った。
その笑顔は引きつっていた。
瞳は闇の中にあった。
「そう…。」
それを見た勇気はまた微笑んだ。
満面の笑みではない。
どこか淋しげだった。
気が付いたのだろうか。
二人の間に奇妙な間が空いた。
その間風が部屋に吹き込んでカーテンも梨奈の髪もヒラヒラと揺れていた。
「夕姫の夢…」
梨奈は突然口を開いた。
「覚えていてあげられるの私達だけなんだよね。皆が幸せで、笑顔で…そんな夢見るなんて…夕姫らしい。」
梨奈は少し微笑んだ。
それは遠い過去を懐かしむように。
「だったら、少しでもそれに近づけるようにしたいよね。」
勇気は笑顔で梨奈に言った。
梨奈は少し驚いたがすぐに同じように笑顔を向けた。
「そうだ。忘れてた。梨奈ちゃんのお母さんに連絡しなきゃ。」
勇気はハッとしてすぐに部屋を出た。
梨奈は一人になり、ベッドから降りて窓際まで行った。
風がサワサワと頬を撫でる。
窓の下には緑があり、人の声が聞こえてくる。
『やだー!そうなの?』
『ねー。あいつ、マジムカつくしぃ!』
『1回しめてやりたいよねぇ。』
看護婦の二人組みが誰も聞いていないと思っているのか、なにやら弁当を食べながら内緒話をしていた。
その言葉が異様に梨奈には刺さって聞こえた。
悪意のあるその言葉が耳に入ってくるたびに心臓がバクバクと脈打った。
「どうしたんだろ…。」
梨奈はふらふらと窓枠に左手を着いて右手で頭を押さえた。
『あのエロジジイ、ホント死んで欲しいよ。』
―プチン…
その言葉が聞こえた途端何かが頭の中で弾けた気がした。
そして視界は遠ざかり外から闇が迫ってくるような感覚になった。
「何…?…」
梨奈は力なくその窓際に膝をついた。
『ありがとう』
闇の中で誰かが言った。
― そう、そうだ。
― あいつだ。
― 夕姫の中にいた、あいつだ。
― あいつは生きている。
『梨奈のこの力貰うね。』
―ボウ!
その音と共に炎が闇の中に浮かんだ。
火の玉のように。
― 何?
その後ろに誰か立っていた。
― 誰?
炎が少しずつ大きくなりその人物の顔が見えた。
― 私?
― なんで?
その梨奈は笑みを浮かべた。
そんな顔、鏡でも写真でも見たことがなかった。
― やめて
さっきの悪夢の続きだった。
『これでまた人間を殺せる。』
お願い。
誰か殺して。
私を。




