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目的地

「ちょ!!動いてる!動いているよ!!!!」

勇気は走りながらモニターを見ていたが、そのモニターの数値が急激に上がりだした。

「始発が動き出したのかも!!」

梨奈はそう言うと、さっきよりもスピードを上げて走った。

それに続いて勇気や柴田もスピードを上げる。

駅の改札に着くとそれが確認できた。


―5:31


それが始発の時間だった。


―5:33


今だ。

2分の差で追いつけなかった。


「駅員に聞いてみるか…。」

柴田はそういうと改札のところにいた20代後半と思える男性の駅員に声をかけた。

その時初めて柴田は警察手帳を開いた。

駅員になにやら女の子を見なかったかと聞いていたが、夕姫の写真を持っていないことに今更気が着いた。

「写真なら携帯に…これです。この右の女の子、見ませんでした。ボブカットでどちらかというと美人で…。」

梨奈は夕姫と一緒にとったプリクラの画像を駅員に見せると首をかしげながらそれをまじまじと見つめた。

「あぁ!この子なら良く覚えてますよ!プリクラの画像じゃちょっと雰囲気が違いますね…。」

駅員は苦笑いで答えた。

「どこに行ったかわかりますか?!」

柴田はすぐに駅員に詰め寄り興奮した様子だった。

「え…えぇ…行き方がわからないとかで…」

「どこですか!?」

梨奈はイライラした様子で身を乗り出した。

「ぅ…あ…城谷崎海岸…ですよ。」

駅員はその二人の気迫にしり込みしながら答えてくれた。

「城谷崎…海岸…って…。」

梨奈はそれを聞いて血の気が引いた。

嫌な予感がする。




 パトカーで高速道路を走るのは非常に違和感があった。

4人はそのまま柴田の運転で高速に乗り、電車より先に目的地についてしまえばいいと考えていた。

しかし、予想外に柴田は方向音痴で高速に乗るまでに時間を要した。

高速を降りて先回りするために国道に移行して少ししたあたりでコンビニに寄った。


 「…お腹すいた…。」

勇気は思い出したように言った。

時刻はもう8時をすぎていた。

あと50キロほどもあるらしいが、夕姫に間にあうのだろうか。

4人は食料を買い込み車に乗った。

柴田はついに疲れたのか吉原より先に助手席に座ってぐったりとしていた。

怪我もしていたのに寝ないでずっと運転していたので柴田の疲労はピークに達していた。

吉原の方はぐっすり寝たので怪我人とは思えないほどはりきっていた。

「寝た分はちゃんと働きますよ!」

吉原は全員が乗り込んですぐに車を発進させた。

車は順調に国道を走り、どんどんと山を登りスカイラインに乗った。

空はあいにくの曇りだったが晴れていればいい景色が見られたかもしれない。

梨奈はずっと無言で蒼白の表情でいた。

おにぎりをボソボソと食べる姿はまるで幽霊のように覇気がない。

梨奈には夕姫の考えがよくわかっていた。

その場所はそれにふさわしい場所だった。




空はどんよりと曇り時々ぽつぽつと雨が降る。

非常に不安定な天気だった。

あと少しで城谷崎海岸駅に着くあたりでモニターにそれが映し出された。

残り3キロ。

海岸沿いを走り、駅のある道へ急いだ。

その数字や矢印はどうやら止まっているらしい。

近づくにつれそれが駅であることがわかった。

梨奈は険しい表情を見せるようになった。

勇気はジッとモニターを見ていた。

車はドンドンと小道に入っていき、最後の角を曲がると正面に駅らしき姿が見えてきた。

それはこじんまりとした駅だった。

しかし、田舎のおしゃれな駅といったところか、観光地らしい。


「夕姫はどこ?」


「構内っぽいけど…。」


勇気はモニターで確認すると梨奈と共に駆け足で駅の方へ向かった。

そこには切符がなくても入れるようなところに足湯があって、二人は内心少し驚いた。

しかし、余裕がないせいかそれを表情にだすこともなくそこから構内を見た。

夕姫らしき姿は見当たらなかった。

おばさんが足湯に浸かっていたり、向こうの方でおおきな荷物を持った若者がなにかしゃべってはいるが、夕姫の気配はない。


「なんで…。」


梨奈がそう言うと勇気が足湯の方に駆け出した。

おばさんがその勇気を見て疑問符を浮かべる中、何かを手に取った。

それは足湯のある場所の隅にちょこんと置かれたビニール袋だった。

そこには林檎が一つ、柿が二つ、そして財布と小さな黒い四角いプラスチック製の箱のようなものがその奥の方に入っていた。


「あぁ…」


勇気はその黒い箱を手にとって深いため息を着いた。

梨奈はその勇気に駆け寄った。


「自力で捜すしかないな…。」


勇気がそう言うと梨奈は眉をしかめて頷いた。

二人がそこから去ろうと向きを変えたときそれをじっと見ていたおばさんと目があった。

そのおばさんは優しそうに微笑んだ。


「それの持ち主かい?」


おばちゃんは思いがけず話しかけてきた。


「え…いや、友達で…。」


「あら、そうなの…。それって…こうボブカットの白いワンピースを着た女の子?」


その言葉を聞いた二人は少し驚いて固まった。


「え、ええ…。」


勇気は間をおいてそれに答えた。


「やっぱそうだったのね…。ぼうっとした感じでね。別れたあとにそこに置いてあったのに気が着いたのだけど…。」


おばさんは苦笑いをして言った。


「え?ってことは会ったんですか?」


「ええ、その向かい側に座っていてね。ほんの数分前よ。話しかけたら何か疲れたような感じで、気になっていたのよ…。」


勇気と梨奈は顔を見合わせた。


「何か行っていましたか?」


「うーん…天気の話を少ししたらすぐに行ってしまったから…」


おばさんは首を傾げて言った。

二人はおばさんに会釈をするとすぐに戻った。

改札で柴田は駅員に話を聞いていたが、そこはあまり駅員が外に立つことが少ないせいか何もわからなかったようだ。

二人と柴田はそれから急いで吉原の待つ車に乗った。


「海岸に行ってください。」


梨奈は乗り込むとすぐにそう吉原に言った。


「早く!!」


梨奈のその気迫に驚いた吉原は全員が乗ったところですぐに発信させた。




 「どうしたの?」

勇気は少しイライラしている梨奈の表情を不思議に思って聞いた。

梨奈は勇気をチラッと見ると俯いて黙り込んだ。

そしてしばらくすると口を開いた。

「…そこがどんな場所か知ってる?」

勇気はその問いに首を横に振った。

「ここの名前を聞いてすぐにそうだと思った。夕姫はそういう子だから…。他人の死を招いたのが自分だとわかったらきっとそう思う…。」

梨奈は淡々と呟くように言った。

「その海岸は断崖絶壁で大海を飛んでいるように望むことが出来る場所だな。」

それを言ったのは助手席に座っていた柴田だった。

「…それって…。」

勇気はぼんやりとその意味を考えた。

自分が夕姫と同じ立場でもそうしているかもしれない。


4人はその海岸へ急いだ。



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