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降下 2

「梨奈…また邪魔をしに来たの?」


その言葉を口走ったのは夕姫だった。

いつの間にか大通りの歩道のあたりに立っていた。

その顔は眉をしかめて少々怒りをあらわにしているように見える。

しかし、その手には林檎の入ったビニール袋がぶら下がっていて、違和感を感じた。

「夕姫!?」

梨奈は夕姫を見るや大声を上げたかと思うと、躊躇もせずに近づいていく。


「危ない!!!!」

「駄目!!」


その声の主は吉原と勇気だった。


―ヒュン!!


「う…」


その風を切る音がすると梨奈の右腹の服が破けて少し血が滲み出てきた。


梨奈はその部分を右手で押さえるとまたすぐに夕姫に向かって歩いた。

それはもう手を伸ばせば届く距離だった。

夕姫は梨奈が近づいてくるほどに顔を歪めて、怒りとも苦痛とも取れる表情をした。


そして梨奈は夕姫の右腕を掴んだ。

「夕姫!!戻ってきて!お願い!夕姫!!!!」


「うぅ…やめろ!!」


梨奈の声はそのあたりに響き渡り、夕姫の耳に強く届いた。

夕姫は梨奈の左腕を叩き払いふらふらと後退し、横を向いて梨奈を見ないようにした。

頭を抱えて、苦しそうにしていた。

それを見ていた勇気は梨奈を追いかけて近づきながら、バックからあるものを出した。

勇気はそのまま梨奈の横あたりから遠回りして夕姫が来たであろう向こう側に回りこんだ。

それを見た夕姫は勇気の方を見て鬼のような目をして睨み付けた。



「く…このゴミどもが!完全なら…うぅ、あぁああああ!!!!」



夕姫は叫び声を上げるとよろめいた。

それを見た勇気は思わず駆け寄ってそれを支えてしまった。


勇気の左腕は夕姫の背中を支え、右手は腰に掛けられた。


そのか細い感触に勇気は心を痛めた。


なぜ、こんな小さな体の少女があんな能力をもって人を殺したのか。

そして数日間あまり物を口にしていないであろうそのこけた表情。


勇気の腕は夕姫の体を支えるのに十分な力を持っていた。


「夕姫!!!」


梨奈はその様子を見てすぐに夕姫の傍に駆け寄った。

夕姫の目は見開かれ空を眺めていた。


夕姫の身体は少し硬直したようになっていて手は強く握り締められていた。


「夕姫!夕姫!!」

梨奈は夕姫の身体を激しくゆすった。


その動作に夕姫の頭が梨奈の方を向くと一気にその硬直が解けた。



「…あ…。」



その声と共に勇気の手を借りなくとも夕姫は立っていた。

ふらふらはしているが確実に地面を踏みしめていた。


「夕姫?夕姫だよね?」


梨奈は少し明るい表情を浮かべた。

その梨奈を見た夕姫は同じように少し明るい表情をしたが、それはすぐに失われた。


 夕姫は自分の口もとを手で押さえ、振るえ出した。

目にはいっぱいの涙をためて。

その夕姫の視線は梨奈の右腹の傷を向いていた。


「いや…私…私が…やった……私が!!」


夕姫はそういうとその場から2・3歩後退して大粒の涙をボロボロと零した。


「夕姫?…大丈夫よ。こんなのすぐに治るんだから!!」

梨奈は務めて明るく振舞い夕姫に笑顔を見せた。


その梨奈を見た夕姫は苦しそうに胸に手を置くと首を細かく横に振った。


そして、梨奈を避ける様に車の通らなくなった瓦礫の多い道路にゆっくりと出るとふらふらと走り出した。


「まって…」


それを見た勇気は夕姫を追った。

そして触れられるほど近くまでいくと念の為にと夕姫の背中にバックから出して持っていたそれをとっさにつけようとした。

しかしうまくくっつかないので一か八か夕姫のもっていたビニール袋にそれを放り込んだ。

そしてすぐにその腕を掴もうとした。


しかし、その瞬間…


―びゅぅぅううう!!!!!



いきなりの突風が勇気の後ろの方から吹き荒れ勇気はその風にはじかれて転げた。

ゴロゴロと転がった先で、勢いをつけて立ち上がった勇気は再び夕姫を追おうとそちらの方を見た。


「あ…れ…?」


勇気は呆気に取られた。



そこに人の気配はなく、遠くまで走っていった感じもしなかった。

それは忽然とそこから姿を消したように思えた。

勇気は突然の出来事で驚いてあたりを見渡した。

向こうの方に何か小さな白い点が動いているのが見えた。

しかし、それはあまりに不自然で夢を見ているのではないかという光景だった。

 今までそんなおかしい状況にいたはずだったが、勇気はその事態に混乱した。


その遠くで動いているものは夕姫だ。


夕姫の着ていた白い服が町の明かりを反射してその姿を明らかにしている。


そして、それはミクロの世界で見れそうな白い点がバッタのようにピョンピョンと浮き上がり、遠ざかっていく、そんな光景であった。


「なんで…?」



後ろの方でそれを見ていた梨奈や柴田、吉原は絶句して、その方向をずっと眺めていた。


そのさらに後ろでは炎が延々と立ち上り4人の影を揺らしていた。




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