烈風の町 2
「何してんだ!?」
柴田は夕姫が起こしたであろう事態に怒鳴り声をあげた。
先ほど燃えていた車は燃料が無くなってきたのか消火活動が効いたのかかなり鎮火していた。
しかし、ニヤニヤと笑いながら夕姫が腕を緩やかに振るとそれにあわせるように火の粉が飛び、その右側にあった車がグシャグシャに潰れていった。
そして、その一つの車からガソリンらしき液体が流れ出しまた車が爆発した。
「火、好きなの。」
柴田はそう言った夕姫を見て頭が真っ白になり固まった。
夕姫はそのままふっと空を見上げるように火を眺めながら腕を持ち上げた。
すると炎が立ち上った。
まるで生き物のように蠢いた。
その炎は風に煽られて大きくなるとすぐにまた頭を擡げた。
その先は消防をしている人やそこに集まる野次馬の方向だった。
火は見る見るうちに人々の上空に迫っていく。
「きゃぁぁ!!!!」
その叫び声と共に赤黒い炎は人々のいる地上まで降りた。
「だれかぁ!!!!!!」
その一部の人の服に少しずつ火が燃え移るとそこに居た人々が彼らに駆け寄り必死で火を消そうとした。
そこにいた消防士がおもわずその上空に水を放ちほとんどの人に燃え移った炎は消えた。
『逃げた方がいいんじゃないか?』
『ここにいたらあぶない。』
その事態に人々はどよめくと多くの人が後ろを振り返りながらも走って逃げ出した。
『早く消せ!』
消防士達は消化剤を車に向けながら大声で叫んでいた。
「…しぶといのね。」
そう言ったのは夕姫だった。
その場に居合わせた多くの刑事がその場で立ち尽くすか物陰に隠れていた。
誰もがどうすればいいのかわからないようだ。
「フフフ…まぁ、いっかぁ…」
夕姫は軽い口調でそう呟くと両手を胸の辺りまで持ってきて目を閉じしばらくジッとした。
―キーン…
そのあたりにいた人々の耳が異常な気配を察知した。
まるで新幹線に乗ったときのような耳鳴りの強い物に誰もが苛まれ一部の人が耳を抑えた。
そして夕姫は一気に腕を広げ瞳を見開いた。
「さよなら」
そう言いながら夕姫は妖しい微笑を浮かべた。
―ブワァァァーーー!!!!!ヒュン!!ヒュン!!…ヒュン!!!…
耳鳴りを感じた人々の耳に今度は猛烈な突風の吹き荒れる音がなり世界が音で満ちると何かが飛んでくるような気配と音を感じた。
『あぁあぁぁぁ!!!!!!』
『キャァァ!!!』
『うわぁぁぁ!!!
そこにいた数十人が同時に声を上げている。
―ズシャ…ドサ…ドサッ…
その鈍い音が風の音に紛れて聞こえてくる。
テレビカメラは炎が向かってくる映像の後にすぐそれを映し出した。
それは炎を巻き込んだ竜巻のような物だった。
その直径は50メートルほどのようでその高さは警察署の上空10メートルほどまで上がっているようだ。
そして、その竜巻のような物の周辺を見ているとグルグル回っている何かが段々とボロボロになっていく様子もわかる。
そして時々その一部が吹き飛んでいく。
―ガシャーン!!!
その音と共に警察署と向かいにある本屋に車だと思われるボロボロの固まりが飛び込んですごい音を鳴らした。
本屋はそれなりの大きさだったが、建物の角がえぐれてしまっている。
本屋の中から沢山の人が出てくると、そのまま走ってその場から離れる者が続出した。
中には車に乗り込んで大通りをすごいスピードで走って行く人もいた。
―ドサ!…グシャ!!…ガシャーン!!!
その何かがぶつかる音は様々だった。
車や木や看板だけでなく人間も飛んできた。
取材していたスタッフもそこにいたら危険だとわかりカメラに振り向いたりして色々と映しながらその場を離れいった。
彼らはしばらく走りそこに近かったテレビ局に入っていった。
そして、局の最上階あたりまで登り窓からその様子を撮った。
それはまるで炎と瓦礫の塔の様に立ち上っていた。
そして炎は町を赤く照らした。




