烈風の町 1
梨奈は家に帰り、また母親に遅くなるなら連絡をよこせと釘をさされながら食事をした。
さっきパンを食べたばかりだからそれほどおなかはすいていなかったが、しっかりとごはんを食べきった。
梨奈は自分の部屋に戻ると夕姫を思いながら、ベッドに寝転がった。
まだ寝る気はなかったが身体を投げ出すと1日使った筋肉が緊張を緩めるように一気に眠気がやってきた。
一方勇気は梨奈がうとうとし始めた頃にはぐっすり眠ってしまっていた。
望はリビングでソファーに腰掛けのんびりとテレビを見ていた。
テレビでは夜のニュースをやっていて、政治家の献金がどうのこうのという報道をしていた。
望はぼけーっとそれを眺めてうとうとしていた。
その時だった。
突然そのテレビの中の人があわただしい動きをすると新しい原稿を読み上げた。
『………市の連続怪奇死傷事件の周辺地域の警察署でなんらかの原因で爆発が起きました。現在取材班がそちらへ着いた模様です。神林さんそちらの様子はどうですか?』
『…はい!こちら中警察署です。先ほど私どものテレビ局の近くのこの中警察署からものすごい爆発音が聞こえ、すぐに駆けつけました。…まだ赤黒い炎が立ち上っています…。』
アナウンサーからリポーターの男に画面が切り替わると壁伝いに道路を駆け足でその炎に近づいているようであった。
壁の向こう側に赤黒い炎が立ち上って空が明るく照らされている。
―ドドーン!!!!!!!
『うわぁ!?』
その時突如視聴者をびっくりさせるような音が鳴り響いてそのリポーターは身体を竦めた。
何かがまた爆発したようだ。
リポーターや取材陣は慌てながらもさらに炎へ近づいていく。
その様子を見た望は思わずテレビについていたHDDの録画ボタンをおしてそのまま二階へ駆け上がり勇気の部屋をノックもせずに開けた。
―バン!!
その音は勇気の目を覚まさせ、勇気は一気に跳び上がった。
「…な…なんだよ。びっくりした…。」
勇気は季節的に涼しいはずなのにぐっしょりと汗をかいていた。
嫌な夢を見ていたようだ。
それは梨奈や自分が殺される夢だった。
「ゆ…勇気、今なんかテレビで中警察署が燃えていて…なんかあんた達の追ってる子が関係あったりするんじゃないかって思ったんだけど…。」
望は至極真面目な顔で言った。
「え?」
勇気はその望の言葉を聞いて部屋を出て一気に階段を駆け下りた。
望はそれに遅れてリビングの前まで来た。
リビングに入り始めに見た画像には消防車と人だかりに警察官や消防士など、群がっているのが見えた。
勇気はそれを見て慌ててまた二階に駆け上がると荷物をまとめた。
今日持ち歩いていたお気に入りのバックに望のくれたモニターと発信機を無造作に詰め込んだ。
それはほんの数分で、また勇気は階段を駆け下り、リビングの前にいた望を見ながら玄関へ向かった。
望はそれを見て勇気の後を追って玄関まで来た。
「姉ちゃん、なんか変化あったら携帯に連絡してくれない?」
勇気はそう言いながら携帯を取り出し、昨日入れたばっかの梨奈の番号を表示してかけた。
「わ…わかった。」
望がそう言い終ると、その電話に梨奈が出た。
「梨奈ちゃん!テレビ見てた?……そっか……中警察署で爆発だって…取り越し苦労かもしれないけど、とにかく行ってみようかと思う。俺先に行っているから…後でまた連絡する…。」
勇気はそれからすぐに携帯をバックにしまい靴を履いて玄関のドアを開けた。
「姉ちゃん、頼むね。じゃ、行ってきます。」
勇気は望を少し見るとすぐに飛び出していってしまった。
一人取り残された望は玄関でしばらく立ちすくんだ。
嫌な感覚に押しつぶされそうになって駆け足で二階に上がり、携帯電話とノートパソコンをリビングに運んだ。
そしてまた二階に上がるとその他諸々の機械をリビングに運んだ。
それらの機械の配線を繋ぎながらテレビの画面を時々見た。
勇気が持っていったのはあの盗聴器の入ったままのバックだった。
そして発信機まで忍ばせている。
発信機から発せられる電波を捉えられる機械は勇気が持って行った以外にもう一つあった。
それは望と勇気を繋いでいるものだった。
望はそれらのスイッチを入れると祈るような気持ちで様子を伺った。




