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血の影

 梨奈が夕姫を捜す途中でサイレンを鳴らしながら走るパトカーを見かけた。

方向は大山公園の方だった。

大山公園はその地域では大きな方の自然豊かな公園だが夜になると木が鬱蒼としていてかなり怖い所だ。

何か嫌な予感がした梨奈はそのパトカーの向かう方向へ走った。


公園の入り口に着くとパトカーが止まっているのがわかった。

さっきまで日が沈みかけていたが、もう空には白い月がぼんやり浮かんでいた。

暗闇を照らすものは月と公園の電灯だけでなにがあったかは近くに行かないとわからなかった。

「夕姫…。」

 心配しながら近づくと警察の張ったばかりのバリケードの向こうに夕姫がいた。

夕姫は体中血まみれでその体を救急隊がはこんでいく、どうやら生きてはいるみたいだがその血の量は半端ではなく重症なのではないかと思われた。

そして警察のテントのようなもので覆われている奥の方の一部が少し見えてそれを垣間見た。

夕姫はその中から運ばれてきたようだ。


その中はシャッターが切られるたびにテントの内側を真っ赤に照らすような血の海になっているようだ。

その入り口が警察が入るたびにチラチラと見えて、その足元一面に水溜りのような血だまりがある。

「ゆ…夕姫!夕姫!」

梨奈はバリケードの外に出てきた夕姫の姿を見て駆けつけた。

「知り合いの方ですか?」

「はい!」

救急隊員は一旦そこで止まった。

「夕姫!夕姫は無事なんですか?!」

救急隊員は互いに顔を見合わせると付き添っていた一人がその口を開いた。

「彼女には打撲のあとはありましたが他に外傷は一つもありません。

これは他の人の血です。

そのショックで気絶しているのかもしれませんが、頭を打っている可能性があるのでこれから救急病院の方に輸送します。

一緒に来ますか?」

その坦々とした口調に梨奈はただ呆然として、その問いに頷くことしかできなかった。


 夕姫は病院に着く前に意識を取り戻した。

しかし、夕姫はしきりに頭が痛いと呟くので脳の検査をするために入院することになった。

梨奈は後で来た夕姫の母親に親が心配するから帰れと言われ、眠っている夕姫を一目見て家路についた。

家に着いたときにはもう夜の10時を回っており、梨奈の母に連絡の一本でもよこせと叱られた。



 『……この度はこんなことになってしまい、残念です。お亡くなりになられた安部優さん、三木妙子さん、間中亜矢さんの三人に黙祷を捧げます。…では…黙祷!!』

翌日の朝礼で校長は昨夜夕姫をいじめていた三人が、公園で亡くなったということを濁して全校生徒に告げた。

そこいらですすり泣く声が聞こえてくる。

 今朝、夕姫の家に電話をしたが、誰も出る気配がなく、どうやら、あの後夕姫の母は家に帰っていないようだ。

夕姫は大丈夫だったのだろうか。

ニュースでは3人が身体に裂けた様な傷が無数に残されており、謎の事件であるという報道がされていた。

あたりには地面が3人の血を吸い尽くすように血の海が広がり、その中に夕姫は気を失って倒れていたらしい。

明らかに夕姫と3人は一緒にいたのであろうと思われたが、掃除を終えてそこに向かい梨奈がくるまでの30分から1時間ほどの間に何が起こったのかということが梨奈には皆目検討もつかなかった。

梨奈は夕姫が無事であったことに胸をなでおろしていた。

しかし、3人が亡くなったことに対して何かもやもやと雲がかかったようで気持ちが悪かった。


梨奈はその日の授業が終るとその足で夕姫が入院している病院に向かった。

病室は色々な理由があり一人部屋らしい。


―コンコンコン…


「はい。」

中から夕姫の母の声が聞こえた。


―ガラガラ…


梨奈はドアを開けると夕姫の雰囲気に安心して短いため息をもらした。

「よかった。元気そうじゃない。」

梨奈は夕姫の母に会釈をすると夕姫の座っているベットの横に来た。

夕姫の母が気を使ってくれたのか買物に行って来るといって部屋を出て行った。


「梨奈ちゃん、心配させちゃったね。ごめんね。」

夕姫は苦笑いをして言った。

「何言ってるの!そういうの言いっこなしだってば!」

梨奈は普段より明るく振舞った。

それを見て夕姫は静かに微笑むとしばらく沈黙した。

二人とも心のどこかでやるせない気持ちを隠していた。

夕姫はふと太陽がいっぱいの窓の外を見た。

外はポカポカ陽気でもうすぐ冬も近づいてくるこの秋にこれほど暖かい気持ちいい日があったか。

昨日、あんなことがあったというのに。

「ねぇ、梨奈ちゃん。3人はどうして死んでしまったの?誰に聞いても詳しく教えてくれなくて…。」

夕姫は窓の外を見たまま言った。

それに対して梨奈は言葉に詰まった。

夕姫はその様子を見ると布団を掴んだ拳を見下ろしながら呟くように話し始めた。

「なんかカウンセラーみたいな人が来て、色々聞いていったのだけど、結局忘れてしまった方がいいと言っていたの。…私、ショックで忘れているんじゃないかって…」

梨奈は夕姫がボソボソと呟く声を静かにジッと聞いていた。

「…でも…怖いの…私が阿部さん達に何かしたんじゃないかって…だって…私、きっと…憎んでいた。」

夕姫の握った拳が小刻みに震えていた。

梨奈はそっとその手に自分の手を重ねた。

「夕姫、大丈夫だよ。」

梨奈は夕姫の顔を覗きこんで微笑んだ。

「梨奈ちゃん…。」

夕姫は梨奈を求めて梨奈はそれに答えた。

二人はしばらく親子のように抱きしめあって、夕姫の気がすむまでそうしていた。


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