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望 2

 望はただ興味本位に勇気が気に入っていたバックに作ったその盗聴器を試しに入れていたのだという。

それは昨日のことで、勇気が長い時間家にいなかったときに部屋に置いてあったバックに忍ばせてあった。

そしてちょうど勇気は今日そのバックを持って出かけていった。

それを見た望は朝からその盗聴器から流れてくる音声を部屋で聞いていたそうだ。

それを聞いた勇気は脱力した。

「マジ、ごめん…。」

「…もういいよ。でも、こんなこと他人にやったら明らかに犯罪だからそれは止めとけよ…。」

「はーい。」

勇気は呆れてしまった。

望は非常に機械に強くロボット系やらパソコン系やら色々と詳しかった。

勇気はそんな望にその実験の手伝いを頼まれることや強引に参加させられることも多く色々と気苦労が絶えなかった。

そんな勇気の方は機械オタクの姉とは逆でオカルトなものに興味があった。

心霊とか超能力とかUFOとか不思議なことが好きだった。

この二人だけでも変だと言える家系なのに父親はもっと変だった。

この兄弟の父親は発明家でありロボット工学者だった。

そして母は元心理学の助教授だった。

 望はその父の血を強く引いたのか色々機械に強かった。

「で、大抵のことはこれで聞いちゃったと思うんだけど…私に手伝いが出来ると思うのよね…。」

望はそう言うと机の上に置いてあるまた小さな物体を持ってくると勇気に渡した。

そしてもう一つ携帯電話より2回りほど大きなカーナビのようなモニターのような機械も渡された。

小さいものの方は1センチほどの正方形の平べったい箱のようなもので裏に両面テープが施されていた。

 「これ…」

「えっと、発信機ってやつ?でこっちのがそのモニター。地図は出ないけど方向と大体の距離はわかると思う。」

「…で、これをどうやって使えと…」

勇気はそう言うと望を見つめた。

「…ん…まぁ、それ彼女に着けるまでは自力で捜せってこと…。もしその後また見失ってもそれを着けられればすぐにわかるっしょ?」

「……役に立つのかね…。」

勇気はぼそっとそれを言うと望は少し勇気を睨んだ。

「と、とにかくありがと。まぁ、使えそうなら使うよ」

「うん、何かあったらまた姉ちゃんにいいな!」

望は元気にそう言うと勇気は肩を落としたまま自分の部屋へ帰っていった。


 望にもらったその機械を机に置いた。

そして勇気は本棚に置かれている本を手に取った。

その本は母の影響で持っていた心理学の本だった。

そこに答えが書いてあるわけではないとはわかっていた。

しかし、落ちつかずに思わず手にとってしまった。

臨床心理学のあたりに解離性同一性障害の記述があった。

夕姫の変化はまるで多重人格のようであったが、明らかに状況を考えるとそれだけではない。

その本をぱらぱらと眺め、そして閉じて本を戻した。

そして今度は心霊現象についての本を手に取った。

エクソシストだとか悪魔祓いだとかという記述を読むと多重人格のそれよりも当てはまるように感じた。

しかしだからと言って解決方法が見つかったわけじゃない。

エクソシストのような能力を持っていても悪魔をはらうことは容易ではないといわれている。

日本古来のものでは陰陽師とか霊媒師とかがあるが、そんな人の伝手はないし、何より夕姫の行方がわからない限りどうしようもない。

 とにかく捜すしかないのだろうか。

望のくれた発信機はもし出会えてつけることが出来たらその後は捕まえるのは容易ではあるだろう。

問題はその後で、夕姫をどうすれば昔のような優しい少女に戻すことが出来るかであった。

勇気はため息をついてそれをもとの場所に戻すとベッドに身体を預けた。

お手上げだった。

まだ夜の10時だったが、探し回ったせいかついうとうととしてしまった。


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