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七話 誓約の魔眼

J('ー`)し 初感想を頂きました。嬉しいです。今後も頑張ります。

「そろそろ落ち着いたか?」


 俺は地面に転がっていた面接用の鞄の中に、予備で持っていた着替えのYシャツが入っていた事を思い出しそれを彼女に充てった後、彼女が着替えて落ち着くまでの間に、軽く鞄の中身を確認していた。


 基本的に彼女が説明してくれたように、現在身につけているスーツを始めとした衣料品の類はそのままこの世界持ち込めているようだ。

 元々かけていた眼鏡やコンタクトレンズの予備、筆記用具の類も無事だった。この程度の物ならこの世界にも似たような物が存在しているという事だろうか。


 変化に気付いたのは二点、一つは財布の中身の金銭が見た事もない紙幣と硬貨にすり替わっていた事。

 恐らくこの世界の貨幣なのであろう、異世界転移特典なのか知らないが着いて早々お金に困らないのは正直助かる。

 母から渡されていた生活費の大半は銀行に振り込んでしまっていたのが心残りだが、それでも無いよりはマシといえる。


 そして二つ目が先程懸念していたスマートフォンだ。

 科学世界の電気や機械等が使われた物は持ち込むが出来ないと言われた時点で予想が付いていたが、案の定こちらは綺麗さっぱり消失していた。

 

 替わりといっては何だが見覚えの無い物が一つ。中心に黒く光り輝く宝石と歯車が埋め込まれた謎の装置と思われる物体が鞄の中から出てきた。

元いた世界でかつて一大ブームを巻き起こした、タマゴを孵化させて育成する小型携帯ゲーム機を彷彿とさせる形状だ。

 貨幣と同じでこの物体もスマホの代替えとして変質したのだろうか、コレに関してはもう少しカー子が落ち着いた時にでも聞く事にして保留とした。


「その……先程は、取り乱してしまいスミマセンでした」


「それはいいよもう。それで、精霊じゃ無くなったっていうのは?」


 俺は頬をさすりながら、Yシャツに肌を通したカー子に質問する。

 先程「取り敢えず何か着てくれ」とYシャツを手渡した際に、自分が何も着ていない事に気付いたカー子に本日何度目になるか判らないビンタをお見舞いされたのだ。流石にこれは理不尽である。


「……恐らくタカシがこの魔法世界の『世界の意志』から授かった加護の力は魔眼の力だったのでしょう。仮に【誓約の魔眼】としましょうか……」


「誓約の……魔眼? それは魔法とは別モノなのか?」


「はい、細かい説明は割愛しますが、この世界における人間の魔力とは生命の源、体中を巡る血液そのものです。魔法とは己の中を流れる血液を媒介に捧げて『世界の意志』に干渉して一定の力を借り受けて行使する術式。血を代償にする以上使える力には限度がありますし、限度を超えて酷使すれば最悪体内の血液が足りなくなって死に至ります」


 魔法怖ぇー、この世界は魔法により発展してきたなんていうから、もっと自然回復するマナとかMPといった便利でファンタジーな力を想像していたのだが、なんだか思っていたよりも使い勝手悪そうだし、少しばかり怖くなってきた。


「魔法が血液を使う以上誰にでも使える力なのに対して、魔眼はこの世界でもほぼ存在が確認されておらず、異世界適合者でも稀にしか発現しない極めて特殊な力です」


 そんなレアな能力がこの俺に……あれ? そこで気が付いてしまう。これってもしかして精霊が見定めると言っていた危険度高めなのでは?


「魔眼には同じ物は二つとして存在しないとされていて、その瞳はそれぞれが『世界の意志』の根源に繋がっており、魔眼が定める秩序に基づき発動すれば『世界の意志』から無尽蔵に力を借りて奇跡とも呼べる程の力を行使する事が出来るといわれています」


「条件と制約さえクリアすれば使える無敵の力みたいなものか」


「まあ、必ずしも無敵という訳ではありませんし、魔眼が定めた秩序を自ら破るとその瞬間に命が断たれるなどといった、恐ろしいリスクも存在しますが……」


「ちょっと待てぇ! 何? 俺、死んじゃうかもしれないの?」


「魔眼を使用した際に、自分からその魔眼の根源である秩序を破らなければ大丈夫かと」


「それで? 俺の魔眼の秩序って何なのさ? さっき【誓約の魔眼】とか名付けていたけど」


 そんな命のリスクを背負うような力なら欲しくなかった。加護の力だというのに地雷要素付きなんて『世界の意志』は俺に恨みでもあるのだろうか。


「はい、そこで先程私が精霊では無くなったと話した事に繋がります。先程タカシが私に対してお願いした内容を覚えていますか?」


「えーと友人として接してくれると助かる。かな?」


「もう少し前からでお願いします」


 はて、何と言っただろうか? その場のノリで会話していた気がするので思い出すのに少し時間が掛かる。


「えーと、大精霊カーバンクルじゃなくて、一人の人間の友人、カー子として接して欲しい。だったか?」


「それですね、そして私はこう答えました。――今後は()()()()()()()()()、あくまで()()()()()()()()()()()タカシの支えとなる事を()()()()()()()――と」


 なるほど、確かにそんな内容だった気がする。


「この時タカシの願いに対して、私が合意した事によって誓約がなされてしまい、直後私の中から精霊としての霊格が『世界の意志』を通じて吸い上げられていくのを感じました。そして今に至る訳です。」


「つまり俺の魔眼の秩序は誓約――約束事を守らせる力で、俺が精霊ではなく人間の友人として接してくれという、心の在り方についてお願いしてカー子が合意した約束事を【誓約の魔眼】がその字面だけ受け取って、本当に精霊では無く人間にしてしまったと……」


「恐らくですが、そうとしか説明が付きません……」


 大精霊としての霊格を失い、人間に成り下がってしまったカー子。美少女である事には変わりないのだが、先程まで漂わせていた神秘的な雰囲気は消え失せ、今はただ絶望と戸惑いから来ているのであろう不のオーラを漂わせるばかりの彼女の姿は見ていて痛々しい。


 何か、励ますべきだろうか――

 

「その、何ていうか……」


 こういう時、人はどんな言葉をかけて、どういう顔をすれば良いのだろうか?

 無職で引きこもりだった俺には当然そんな引き出しは無いわけで……

 俺は紫色の汎用人型決戦兵器に乗った少年の言葉を思い出すと優しく微笑んだ。


「言葉って難しいよね」


「笑って誤魔化さないで下さい!!」


 駄目だった――



 ◇



 あれから暫くして、俺とカー子は今後の方針について話し合った。

 まず、カー子を精霊に戻す方法として、俺が社会不適合者の烙印を返上して科学世界の加護を取り戻せば、自然とこの魔法世界での加護は失われるので、その過程で【誓約の魔眼】の効力も消えるのではないか? という事。

 これに関しては前例が無いのでやってみなくては分からないそうだが、戻れるのであればどんな小さな可能性でもすがりたいとはカー子の弁。


 そして、それに伴い俺は当初の目的通り現実世界への帰還を目指す――つまりはこの世界で引きこもりを克服、そして最終的には就職を目標に活動して、カー子はそのサポートをする事に。


 俺の【誓約の魔眼】は何が起こるか分からない上に危険性を伴う為、今後就活をするにあたって人と接する機会が増える事になるが、決して使用しない事を約束した。


 【誓約の魔眼】についてだが、いくつか分かった事がある。

 過去に確認された魔眼の特徴から俺の魔眼のタイプ使用には術者が対象と視線を合わせて約束事をする必要性があるという事。


 カー子は確認出来なかったらしいが、本来使用中――俺の場合は約束事を提示し出した段階から瞳に魔眼毎に異なる模様が浮かび上がる仕様があるらしい。

 無自覚の初回発動だった為だろうか? とカー子も首を傾げていた。


 また、カー子曰く魔眼の力は術者の力を抑える道具が存在するらしく、近々俺の掛けている眼鏡を”魔眼封じ”にすると言っていた。

 今すぐやってくれと言ったのだが、条件を揃える必要があるとの事で、どうせすぐに機会は巡ってくると言うので大人しくその時を待つ事にした。


 そして最後に俺の荷物についてだが、俺のすり替わっていた財布の中身はこの世界で利用されている貨幣で間違い無いとの事。

 なにやら秘匿されている魔法的な加工が施されているらしく偽造は不可能らしい。

 スマホと入れ替わったと思われる謎の装置はこの世界の通信魔法具を小型化した物で、登録した通信魔法具同士で歯車の魔力波数を合わせると短時間の通話が可能になるという代物だった。


 あの多機能なスマホがただの通信機能のみ、それも短時間とは、と愚痴を溢したのだが、この世界に置ける通信魔法具は非常に高価で、一般家庭用の大型の物でも給料一ヶ月相当の購入費が掛かるらしい。


 それならばもういっそ逆に売ってしまえばいいと提案したのだが、このサイズの小型通信魔法具はこの世界の魔法技術では生産不可能なレベルらしく、値を付けられないどころか下手に人前に出すと命を狙われる可能性がある、と注意されて鞄の奥底で眠る事となった。


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