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三十話 凄い魔法使いさんのデートのお誘い

 数日後、俺は仕事終わりにこっそりとキキーリアの部屋へと赴き、彼女を既にカー子が待機している俺の部屋へと呼び寄せた。


「タカシさん、その……用事があるとの……事でしたが、一体お部屋で何を……されるのでしょうか?」


 心なしかキキーリアの顔が赤くなっている気がする。

 何やらおませさんな妄想に駆られている様子のキキーリアだったが、俺は気付かないフリをして部屋の扉を開いて中へと彼女を招待した。


「あ……カー子さん……そうですよね、当然いらっしゃいますよね……」


 こら、露骨に残念そうな顔をするんじゃない。

 悪気が無いのは分かっているのだが、子供というのはこういう時、反応がストレートに出てしまいがちで大人側は結構傷付くのだ。

 ほら見ろ、カー子のほうまでちょっと微妙そうな顔になっているじゃないか。


「いやね、先日俺達給料日だったんだよ。だから初任給を祝ってキキーリアと一緒に遊びに出掛けようかなと思ってね」


 俺の言葉に最初こそパァっと明るい笑顔を見せたキキーリアだったが、直ぐ様その笑顔が曇りだす。


「えーと……その、お気持ちは……嬉しいのですが、私はその、外に出ちゃいけなくて……」


 そう、キキーリアは黒髪黒目の珍しい人種で、彼女を狙って故郷の村が襲われたとレーカスさんから教えられているのだ。

 しかし、彼女の外見が珍しいのも、狙われやすい程見た目が美少女であるという事も実際間違いないのだが、本当の理由は別にあるであろう事を知っている。

 そして何より、今回こちらには俺の魔力適正Aランク魔道士という肩書きと、カー子という最強の秘密兵器がある。


「俺が()()()()使()()()()だという事は、キキーリアも知っているよね?」


「はい、でも……本当は他のお手伝いさん達が噂しているような……怖い人じゃなくて、とっても優しい人だっていう事も……知っています」


 キキーリアの返事に力強い気持ちが篭もる。

 噂というのは恐らく『炎獄の魔道士』の二つ名の事だろう。

 その悪評、屋敷の使用人を伝ってキキーリアの耳にまで入っていたとは、いやはや人の噂とは恐ろしいものだ。


「ああ、ありがとう。それで今からキキーリアに特別な魔法を掛けるから、俺の事を信用して少しの間だけ目を瞑ってもらってもいいかな?」


「は、はい……! タカシさんの事は……信用しています」


 こうして俺を信じて目を瞑ってくれたキキーリアには悪いのだが、俺は最強の秘密兵器(カー子)に向かって目配せをする。

 すると、カー子はいつもの姿のままキキーリアに近付くと、彼女に向かって手をかざし魔法陣を構築しだした。

 

 そう、カー子は今、既に”限定解除”をして精霊化をしているのである。

 俺がキキーリアを部屋まで迎えに行く前に、精霊化の儀式を済ませて《魔力創造構築(クリエイション)》を使って精霊の姿を隠して、普段通りの姿に見えるように変装してもらっていたのだ。


 そして、目を瞑るキキーリアの前に鏡を用意して声を掛ける。


「もう目を開けてもいいよ」


「……はい、え……? えっ!? これ……私……?」


 目を開けたキキーリアが鏡を見て驚愕している。

 今、彼女は以前カー子から聞いていた《魔力創造構築(クリエイション)》を応用した使い方で、見た目も背丈もカー子と同い年程度の姿まで成長したような外見になっている。

 ついでに念の為にと、髪の色と目の色も目立たないように両方茶色に変えてもらってあるのだが、そこには年の頃十八前後といったところの見事な美女が立っていた。


「そう、魔法を使ってキキーリアの見た目を変えたんだ。眼と髪の色を変えて、将来成長したらこんな感じかなって具合にね」


「これが……私……」


 キキーリアは自分の成長した姿、正確には成長を予測した姿ではあるのだが、そこは大精霊カー子様の魔法だ。

 かなり未来の姿を忠実に再現してあるのだろう、俺から見ても照れてしまうほどの絶世の美女が鏡を見ながら言葉を失っていた。


「キキーリアちゃん、とっても綺麗ですよ。ね、タカシ?」


「あ、ああ……凄く……うん、なんだ、良いと思うよ」


 カー子からの変化球に思わず言い淀んでしまう。

 照れる俺の反応が満更でも無かったのかキキーリアも若干顔を赤くしている。


「いや、そうじゃなくてだな。今日はこの姿でキキーリアの夢だった外の世界を見に行こうと思ってね」


 俺のその言葉にキキーリアが固まる。


「え……でも、私には……その……」


 キキーリアの戸惑う理由は分かっている。『吸魔の加護』の存在を危惧しているのだろう……しかし――


「言っただろう? ()()()()使()()()()だって。短時間な上に数日に一回程度しか使えないけれど、今キキーリアの『吸魔の加護』は押さえつけられているから大丈夫だよ」


 凄いのは俺じゃなくて実際にはカー子なのだが、基本的には嘘はついてない。

 これは以前に俺の眼鏡に”魔眼封じ”の効果を付与した《幻想効果付与(ファンタズム)》をキキーリアに掛けることで実現した、云わば”呪い封じ”の祝福である。

 当然”魔眼封じ”と同様に持続効果も短時間な上にカー子の”限定解除”は数日に一度という縛りがある為、一概に嘘ばかりという訳ではないのだ。


「え、そんな……お医者様もまだ時間が掛かるって……それで……もう八年も、この……ままで……う、ううぅ…………」


 キキーリアがボロボロと泣き出してしまった。

 俺はオロオロとしながらカー子に助け舟を求めたのだが、当のカー子はやれやれといった具合に肩を窄めてそっぽを向いている。


 なんて奴だ、この薄情者め!

 俺は泣きながら抱きついて来たキキーリアをそのまま受け止めると、暫く泣き止むまで終始オロオロと慌てふためきながら時が流れるのを待つのだった。


「ほら、キキーリアちゃん。もう大丈夫?」


 暫くして見兼ねたカー子がようやく助け舟を出してくれる。


「は、はい……お見苦しいところを、お見せしました……」


 カー子に肩を抱かれたキキーリアは、眼と顔を真っ赤にしながら慌てた様子で俺から離れていく。


「いや、その……泣いてもらったところ悪いんだが、治療した訳では無くて押さえつけているだけなんだ……それも永続的な効果じゃないから根本的な解決にはなってないんだけどね? そこのところ理解した上でもう一度いいかな?」


 カー子になだめられてようやく落ち着きを取り戻したキキーリア。

 そんな彼女の顔を正面から見据えて、俺は改めて()()()()()()を口にした。


「実は丁度先日初任給を貰ったんだ。だから今日は何かプレゼントするから、一緒に買い物にでも出かけないかい?」


「はい……喜んで……」


 真っ赤になった眼を擦りながら、キキーリアは無邪気に笑って了解の返事をくれたのだった。


J('ー`)し 以前キキーリア(ロリキャラ)の喋り方に試行錯誤した結果彼女にはなのです口調を会得してもらおうとしたのですが、現状の自分の技量ではキャラに専用語尾を用意しても違和感と気持ち悪さを感じてしまい感情移入が出来ないという事に気が付いて、全編に渡って修正しております。よしなに

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