赤い鎖:むらさき創作小説賞応募
村崎沙月さんの「むらさき創作小説賞」という企画への応募作です。
元の歌詞はこちらです『赤い鎖』https://ncode.syosetu.com/n8431ec/
てらいのない歌詞が好きです。皆さんもよかったらぜひどうぞ。
西向くが解釈した姉弟の話です。原作とはおおいに違うかもしれませんが。ご覧ください!
両親の仲が悪い。理由はわからない。
離婚したから、仲が悪かったのはわかる。
好きあってたら別れないもんじゃないの。
いや、わかんないけど。
好きあってるから結婚したんじゃないの。
幼い僕がわからないと思って、頭の上で飛び交う両親のコトバは僕の心を削った。
僕よりもコトバがわかる姉さんは泣いていた。
険悪な空気と、姉ちゃんのしょっぱい涙が僕の首を締め上げる。いっそねじ切れてしまえばいいんだけど、案外頑丈なようで僕の首はまだつながった。
両親は人生をリセットしようとした。
僕たちが邪魔らしい。
リセットした家族に僕たちの居場所はないみたい。
僕は父さんも母さんも好きだったから、これからどうなるのか。
姉ちゃんとよく話し合った。
話し合うって程じゃないかも。
僕はロクに話さなかったし、姉さんが一方的に喋るのを聞いていた。
最後には目を涙でいっぱいにして、僕を抱きしめてわんわん泣いて終わってた。
姉さんは形見(母さん死んでないけど)のようにして、母さんのネックレスをくすねてた。
姉さんは手癖が悪い。僕はそれを欲しがった。姉はいつも断った。
いろんなところを転々としたらしいけど、最終的にはおじいちゃんとおばあちゃんの家に引き取られた。二人が住む町は県庁所在地でビルがたくさんある町だった。
小さいころだったから、ここら辺は結構あいまい。
二人はお父さんとお母さんの苗字とも違った。
僕が好きな場所はおじいちゃんやおばあちゃんの膝の上だった。なんでもお願いをしたら、聞いてくれる二人が僕は大好きだった。
不満は僕がお父さんとお母さんの話をすると、二人は急に耳が遠くなったようになったこと。
もう幼くない僕はその時の態度というのはすごい賢いやり方だっていうのがわかる。
僕にとっては大成功だった。ゆるやかに両親のことを忘れていった。
だけど、姉ちゃんにとってはあんまりよくなかった。
姉ちゃんはお家でいつも荒れてた。障子は破くし、扉を蹴飛ばした。
おばあちゃんはせっせと障子を張りなおした。
おじいちゃんは面倒くさそうに扉をなおした。
「姉ちゃんはいつも暴れてるね」
僕を抱きしめて、わんわん泣いてた姉ちゃんに訊いた。
鼻水とか涙でぐずぐずになった姉ちゃんの顔は見られたものじゃない。
「だって! だって! あたしが暴れてたらおじいちゃんとおばあちゃんは愛想をつかしてくれるかもしれないじゃん! そしたら、お父さんとお母さんが迎えに来てくれるんじゃないかって思うの……」
僕を見下ろしながら姉ちゃんはわんわん泣くし、鼻水を垂らすしで僕の顔もさんざんだった。顔でも洗おうと思って、姉ちゃんの膝から降りようとすると降りさせてくれない。
仕方ないからお母さんやおばあちゃんが歌う子守歌を歌うんだ。
「弟の癖に生意気よ」
姉ちゃんには言われるけど、だからといって、歌うのをやめたらせがまれるから歌った。
いつからか歌うと姉ちゃんは喜ぶから歌うようになった。
見上げると姉ちゃんの顔とネックレスがセットだった。
それが欲しくてせがんだ。
やっぱり、姉ちゃんはくれなかった。ずるい。
おじいちゃんとおばあちゃんは豆腐もびっくりの柔らかさを発揮して、やんちゃな姉ちゃんをすくすくと育てた。もちろん、僕も一緒に育った。僕は品行方正だったと思う。自分で言ってちゃ仕方ないけど。
当たりまえの話なのかもしれないけど。僕と姉ちゃんが若くて、おじいちゃんやおばあちゃんが年寄りなのだから二人が死ぬ方が早かった。すごく順当。
僕は高校の学生服を着て、姉ちゃんはスーツだった。昔はいつもぐずぐずに泣いてた姉ちゃんはこのころになるとあまり泣かなくなっていた。僕と二人きりなら、泣くんだけど、他人がいたら泣かなくなった。
葬式には両親が来てたのかもしれないけど、僕はよくわからなかった。
先におばあちゃんが肺を悪くして死ぬと、抜け殻みたいになったおじいちゃんが逝った。
立て続けの葬式にも姉ちゃんは泣くようなことはなくて、喪主を毅然と務めた。
遺骨を納骨堂に納めるころには僕と姉ちゃんはぐったりしていた。
「あたしとあんただけになったように思うでしょ?」
こたつの中ではお互いの足を乗せあったり、潜らせたりという遊びをしている最中だ。
姉さんは僕に疑問を投げた。
「うん。僕と姉ちゃんだけになっちゃったよ」
突然の質問だった。何の気はなしに答えた。適当過ぎたかな。
姉ちゃんの声はこたつ布団の向こう側から聞こえてくる。どんな顔かわからない。
「それは勘違いよ。あたしとあんたしかいなかったの。最初からね」
「……なんか、難しいこと言ってる?」
「難しいこと言ってないよ。あんたが生まれたときから、あたしとあんたしかこの世界にはいないのよ。愛によって結ばれたお父さんとお母さんは次の愛のために、あたしたちを捨てたから」
間違っちゃいないけど。とげがあるな。
「おじいちゃんやおばあちゃんは? 愛してくれなかった?」
「お金と家は残してくれたわね――」
姉ちゃんは薄情である。僕は二人の態度に「愛」っていうものを感じてたけど。姉ちゃんはそういうものを解しなかった。
「――あたしは大きくなりすぎてた。あんたはまだこれくらいのちっちゃな子供だったもの。それはそれは珠のような愛らしい子供だったわよ。馴染めたんでしょうね。あたしは無理だったのよ……悪いとは思ってたし、それを……それを伝えたかったよ」
声が震え始める。あ、これ。泣くな。
姉ちゃんはこたつから飛び出して、僕の頭を抱えてわんわん泣きだした。鼻水なのか涙なのかが僕の顔に降りかかった。僕はもうずいぶんと泣いていたから、泣かなかった。
しょっぱいそれをいっぱいに受け止めながら、いつものリクエストがある。
姉にせがまれるから僕は歌った。寝そべって歌うのは力が入らないけど。子守歌なんてのはそんなもんだと思うよ。やかましかったらダメだろうさ。
ひとしきり泣いて、喪が明けた後に姉さんは嫁に行った。
「あたしもあんたと同じように子守歌をうたうお母さんになるよ!」
姉さんの襟元はいつものネックレス。
そうして姉さんは出ていった。
四人で暮らした家は淋かった。今は一人だからだ。
あくる日姉さんから手紙が届く。
新婚生活は楽しくない。たまには遊びに来るように。とのことだった。
そのころの僕は高校を卒業してからは、毎日を適当に暮らしていたし、あんまり真面目に物事を続けていなかった。何をしたらいいんだろうか。だけど、若さを消費するのも嫌だ。
どうしようか。なにかしないといけない。追い立てられるような気持ちがある。姉さんみたいに結婚でもして、だれか好きな人がいれば違うのかな。
冬だった。義兄さんから姉の訃報が届いた。首吊りだった。
「突然のことで分からない。どうして!」とさめざめと泣いている義兄を慰めた。
姉さんはやはり一人だった。理解者足りえると信じた義兄でさえこうなのだ。
姉さんには死に化粧が施されている。首には内出血の色は目立たなかった。だけど、耳の裏あたりを見たら色がついていた。ネックレスはついてなかった。仕方ないので、姉の遺骨を少々くすねた。
ポケットに遺骨を忍ばせて、帰るときにはちょっとした背徳感を持った。姉を知らぬ男に弔われるのも無念だろうから。僕がもらい受けてもいいだろう。
そんな開き直りもあった。葬儀の関係もあって、しばらく家に戻っていなかった。
ポストには姉からの手紙があった。
時間差だったのか。死ぬことを決めた際に投げ込んだのかはわからない。
『あんたは暇してるようだし、何したいのかよくわかんないけど。歌いになりなさいな。あんたの子守歌は好きだったよ。先にいってごめんね。ネックレスあげるから。許してね』
便箋には小ぶりなネックレスが入っていた。
姉ちゃんの残り香がするような気がする。勘違いかも。
僕が何をしたいか。
何をするべきか。
他の人にとっては些末な問題も、姉さんからは見抜かれていたらしい。
僕の歌が好きだったというのはわかる。
あれがお世辞だってんなら、なにも信じられない。それは怖いことだと思う。
だから、僕は歌いになった。たまに気持ちが盛り下がるとネックレスをつけて、歌う。女物のそれだけど、だれも指さして笑うやつはいない。
いつか彼女のように笑ってくれる人がいたらな。と思う。
人様の歌詞を元に小説を書く。というのは初めてのことでしたが。楽しんで書くことができました。
影響を与え合うことができる作品というのは素敵ですよね。
最後まで読んでいただきありがとうございました。