第2章 Aランクの異世界転生冒険者 ★16★
スラム街に来てみると俺が普段居る町並みとは全然違った。道の脇で座り込んでいる女性や、マリファナみたいなものを吸っている者、言い争いの喧嘩をしている者など俺が元の世界でテレビなどでしかみたことのない風景がそこにはあった。余り長居はしたくないと思い俺は気配感知を使う。サリーちゃんは勿論、ギルは何度か会っているので感知でわかるかと思ったのだ。
「この優しい感じの気配と、嫌な気配は覚えがある。あそこか」
俺が気配感知で感じた場所へ向かって歩いているとスラムの女性達は話しかけようと寄っては来るが、俺が放つ気に圧倒されてたじろいでいる。俺が怒っているのを本能的に感じ取っているようだ。目的の一軒家に着いた。スラム街の中でもまだマトモな家だ。気配感知を使いながら俺は扉をノックする。ギルと思われる気配が扉の前に来たとき俺は扉をおもいっきり蹴破りギルを吹き飛ばす。
「言わなくてもわかってるよなギル!」
「ちっ、糞ガキが!ことごとく俺の計画をぶち壊しやがって!」
「知るかよそんな事。とにかくサリーちゃんは連れて帰らせてもらうからな!」
「そんな簡単に帰すかよ!」
ギルは2本の短剣で俺に向かってくるがライルさんとは比較にならないほど遅い。俺は何度も振るわれる短剣をかわし、みぞおちを蹴り飛ばしギルは吹き飛ばされた。
「ほんとにAランクか?〔絶影〕なんて大層な2つ名をもらってる割には弱すぎだろ?」
「くそ!まだこれからだ!」
ギルは懐からナイフを取りだし俺の影に向かって投げるが俺は風魔法のウインドカッターでナイフを弾く。〔影縫い〕のスキルを知った時、真っ先にナイフ等を影に刺し動きを封じるのだろうと考えた。何かの漫画で見たことがあったからだ。
「影にも攻撃をくらわないようにすれば問題はないぞ、そのスキルは」
「なっ、俺のスキルを知ってやがるのか‥‥なら、これはどうだ」
ギルは家の中にある影の中に消えていきギルの姿は無くなった。俺はすぐに〔影渡り〕だと思い気配感知を使うがギルの気配は感知されない。しかし俺はある確信を得ていた。俺は手を床につけアースメイデンを何時でも発動できるようにする。勿論殺すのは不味いので込める魔力は減らしている。そして俺は自分の背後に影がくるように体勢を変える。その時だった。俺の背後にある影から急にギルが現れる。俺はそれを感知しアースメイデンを発動させる。魔力を抑えたので針は二本しか出なかったが、そのどちらもギルの両肩を貫いていた。
「うぐぁ!なんでわかったんだ!」
「お前が影に消えたとき、違う影から出てくるのは分かっていた。どうせ俺の影が背後に来た時を見計らって攻撃することもな。正面からやり合う実力もないからなお前は」
「ち、ちくしょー」
ギルはどうにか動こうとするがその度に両肩に刺さった針が食い込み激痛に唸っている。俺は動けないのを確認してから別の部屋でサリーちゃんを見つけた。眠っているだけで怪我はないようだ。まぁ俺があげた精霊の涙の効果もあるから大丈夫だろうとは思っていた。
「サリーちゃんが無傷で幸運だったな。もし傷物にでもしたら今頃この百倍の数の針がお前を串刺しにしていたからな!」
ギルの顔は急に青ざめて命乞いをしてくる。
「俺も頼まれただけなんだ。クレンスフォード家のソリティア嬢が、お前を欲しがっているからと依頼を受けただけなんだ」
「こんな小細工しなければ痛い思いをしなくて済んだのにな。まぁ貴族の小飼になんかなるつもりはないから何をしても無駄だけどな。後、クレンスフォード家の奴に言っとけ。貴族としてこの国で生きて行きたいなら俺に構うなと」
俺はサリーちゃんを抱き抱えスラム街を後にする。ギルが「このままにしておく気か、助けてくれよ」等と言っていたが聞こえない振りをしてそのままにしてきた。腐ってもAランクの冒険者だ。あれぐらいで死ぬことはないだろう。しばらくするとサリーちゃんが目を覚ました。
「んっ‥‥あれっ?ユウキお兄ちゃん‥‥‥えっ!」
サリーちゃんは自分がお姫様抱っこされてるのに気付き頭から湯気が上がりそうな程真っ赤になり、急に慌てたため俺は落としそうになりとっさにおさえた。
「★%☆§*※♯」
手のひらに収まりきらないほどのマシュマロを鷲掴みしてしまった。16年生きてきて、これほど幸せな感触は味わったことがなかった。俺はすぐさま離せば良かったものの、余りの感触に揉んでしまった。しかしそのすぐ後、ライルさんの攻撃にも劣らない平手打ちがきたのは言うまでもなかった。




