夜の練習なんかしていたら、彼氏なんてできやしない。
「ふへぇー疲れたー。…にしても、凛花のウチでお泊まりなんて、初めてかも」
「実際呼んだのは初めてだしね。…夜ご飯作ってくるから待ってて」
「じゃあお言葉に甘えて」
◆
「ん…? なんか、頭がぼーっとする…。ふわふわして、熱もあるっぽい…」
「あら、それは大変。今日はもう寝た方がいいわね。ベッドまで運んであげる」
「え?」
不意に体を持ち上げられ、お姫様抱っこのような姿勢で寝かせられる。凛花って、こんなに力あったっけ? もっと華奢だったイメージが…。
「…っ!」
突然、キスされた。お遊びのようなものじゃなく、もっとねっとりした、いやらしいやつ。
「なに、するの…?」
熱のせいか上手く力が入らなくて、語気も弱い。いつもの私の調子じゃない。
凛花は唇を離し、顔を至近距離で近づけたまま答えた。
「何って、恋人ができた時のキスの練習よ」
「練習…?」
「まさかとは思うけど、恋人ってデートして一緒にご飯食べてまったりする関係だとか、そんな生易しいものだと思っていないわよね?」
「そんなこと…ない」
「本当に? なら、キスのあとにやったりすることもわかるでしょう?」
「…」
「答えられない? それとも、さっきは知らないのにわかってるフリしていたのかしら?」
「…わかるし。知ってるもん…」
「じゃあ言えるでしょ?」
「…っち」
「よく聞こえなかったわ。もう一度」
「…えっち」
「よく言えたわね、偉いわ。だったら、その練習もしておかないと、いざというとき困るわよね?」
私の頭を優しく撫でながら、聞いてくる。その顔は、艶かしくもどこか底知れない闇を感じるような。
「そうよね?」
「…」
「そうよね?」
口ではそう言っておきながら、私に拒否権が無いのは明白だった。
まともに動かせなくなった手。震えが止まらない足。
そして…脱がされていく服。