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ある夏の日、図書館にて

作者: 川上青葉

夏の午後の暑さに耐えかねて、私は涼を求めて図書館に来た。

図書館はやはり涼しい。それに静かだ。

私と同じことを考える人って、案外多いのかな?

普段はそれ程込んでいないのに、今日はほとんどの席が埋まっている。

お金をかけずに涼めて落ち着ける場所なんて限られてるもんね。

私も特に読みたい本がある訳じゃないし、とりあえず書架の間を適当にぶらつこうかな。


本を手に取ってはパラパラとめくり、また戻してはぶらぶらと歩いて。

そんなことを何度か繰り返しながら、ぼんやりと児童文学のコーナーを通った時、屈んだり、一生懸命背伸びしたりして、本を出したり入れたりしている小さな女の子の姿が目に入った。


「何か探してるの?」


思わず私はその女の子に声をかけていた。


「うん、ご本を探してるの!」


屈託のない笑顔でそう答える女の子。眩しい。


「何て本?」


これは母性本能? 保護欲? ロリコンじゃないよ? 私、女だし。


「うーんとね、うーんと、丘の上に家がドーンってあって、子供たちがわーって駆け回ってて、そこに怪獣ががおーってくるんだけど、子供たちが全然怖がってくれなくって、困った怪獣が子供たちと一緒にかくれんぼするお話!」


聞いた途端、私の頭の中でクエスチョンマークが躍った。盆踊りのように。夏祭りか。

でも、その盆踊りを楽しむクエスチョンマークの皆様の向こうに、答えはあった。


「その本なら確かこっちに・・・あった! はい、どーぞ。」


少し古い、でも大切に読まれてきたことがよく分かる一冊の本を書架から取り出し、私は女の子に手渡した。


「わー! ありがとう、お姉ちゃん!」


眩しい。夏の太陽よりもずっと眩しい。もう溶けてしまいそう!

本を大切そうに抱え、貸出しカウンターに歩いていく女の子の後ろ姿を見ながら、私は少しだけ、本当に少しだけ昔のことを思い出していた。


〜 回想 少しだけ昔 〜


「何にするか決められないの?」


夏休みの宿題に読書感想文がある。読書感想文だから、本を読まないといけない。でも読みたい本がない。

明日から夏休みだというのにまだ決められずにいた私に、先生はそう声をかけてきた。


「あ、はい。みんな漱石だ太宰だって借りてってますけど、あんなのわかんないし、男子みたいにラノベで済ませようって気にもならないし。」


あの年齢で純文学とか、みんな背伸びしすぎ。結局読んでなかったみたいだし。

今だったら、漱石も太宰も、むしろ大衆向け作品の方が多くない?と思えるくらいには読めてると思うけど。


「その男子、後で教えてちょうだいね?」

「あ、はい。・・・って、いえ、すいません! 聞かなかったことに!」


その時、私はきっと油断していたのだろう。先生、その微笑みは怖いです。


「まあ、いいわ。休みが明ければわかることだし。」

「うぅ・・・」

「ところで、この本を読んでみない?」


先生が一冊の本を手渡してくれた。

それは出版されたばかりなのか、まだ綺麗な本。そんなに厚くもない。


「この本を、ですか? どんなお話なんですか?」


表紙とタイトルだけでは内容は当然わからない。

本を読む習慣のない私は、パラパラとめくることもせずに先生にそう尋ねた。


「丘の上に家がドーンとあって、子供たちがわーっと駆け回ってて、そこに怪獣ががおーってくるんだけど、子供たちが全然怖がってくれなくて、困った怪獣が子供たちと一緒にかくれんぼするお話よ。」


あ、頭の中でクエスチョンマークがやっぱり盆踊りしてる。

でも、不思議と惹かれたんだよね。


「なんですかそれ、全然わかりませんよ。でも、ちょっと興味あります。その本、読んでみます!」


私は先生に笑いながら答え、その本を受け取った。

そして、その本がきっかけで、私は少しだけ本を読むのが好きになった。

読書感想文の校内発表会で、クラス代表に選ばれたのはものすごく恥ずかしかったけど。

暑ければ図書館に来ればいいじゃない?なんてことも覚えた。


先生、元気かなあ。

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