表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

その4

 十数年ぶりの再会だった。ひと嗅ぎで分かった、あの子なのだと。

 昔、とある公園に現れた女の子。僕は、その香りの虜になった。

 しかし、その時の僕らの求愛行動が原因で、あの子はそれ以来公園から姿を消してしまったのだ。

 後悔したが、幼い日の梢が、求愛行動したくなるような匂いを放っていたので仕方がない。


「それにしても許せないな。女の子を山道に捨てるだなんて」


 その上、梢と付き合っているなんて……

 まあ、梢が誰かと付き合っていることに異論はない。

 彼女を大事にしている相手ならば、僕は文句を言わなかっただろう。

 けれど、梢の彼氏は僕が大事に思っていた彼女を、山道に捨てた。


『みゃう、みゃう』


 膝の上に乗った縞猫が、僕に情報を運んでくれる。

 同族である彼らは、こうして上位種である僕に様々な情報を伝えに来るのだ。


「そう。そんなことがあったの……」


 僕は、縞猫を撫でながら、昨晩の彼女の状態に思いを馳せた。


「これは、放っておけないよね?」


 さっそく僕は、仲間の猫達と協力して、その彼氏とやらの素性を調べ上げる。

 梢の彼氏は、酷い男だった。奴には、梢の他に本命の女がいたのだ。

 それを知った僕は、梢とデート中の男に、本命の女をけしかけた。

 僕は酷い――

 けれど、これであの傲慢な人でなしから梢は解放される。

 ……ちなみに、僕は人でなしじゃない。猫だから。


 タイミングよく現れた僕は、ここぞとばかりに泣いた梢を慰めた。

 他の猫がいるのは気に食わなかったけれど、僕みたいに人型になれるのはいなかったから、我慢した。梢も、猫に励まされているみたいだったし。


「ねえ、梢ちゃん。また、うちに遊びに来ない?」


 泣き止んだ梢に、僕はとびきり優しく声をかける。


「え、でも……」

「ここで会ったのも、何かの縁だし」

「マオさん!?」


 梢は、不安そうに僕を見上げた。


「今度は、逃がさないよ?」

「え、ええっ、あの、マオさん!?」


 僕は、梢の手を強く握りしめる。

 そんな僕の行動に驚いた梢は、パニックを起こして体を硬直させた。


「ど……して?」

「僕は、梢ちゃんが好き――一目惚れなんだ」


 梢は、猫にとってのマタタビに近いような。好きにならずにはいられないような、不思議な匂いを纏っている。

 それで、十数年前の僕は、彼女に一目惚れをしたのだ。彼女に他の猫が寄ってくるのも、そういう理由だった。


 僕の場合は、その他に彼女の可愛らしい見た目や、遠慮がちで好ましい性格なども含まれているけれど――

 知れば知るほど、僕は梢に惹かれていく。


 そんなこんなで、強引に梢に言い寄った僕は、彼女を家に連れ帰ることに成功した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ