その4
十数年ぶりの再会だった。ひと嗅ぎで分かった、あの子なのだと。
昔、とある公園に現れた女の子。僕は、その香りの虜になった。
しかし、その時の僕らの求愛行動が原因で、あの子はそれ以来公園から姿を消してしまったのだ。
後悔したが、幼い日の梢が、求愛行動したくなるような匂いを放っていたので仕方がない。
「それにしても許せないな。女の子を山道に捨てるだなんて」
その上、梢と付き合っているなんて……
まあ、梢が誰かと付き合っていることに異論はない。
彼女を大事にしている相手ならば、僕は文句を言わなかっただろう。
けれど、梢の彼氏は僕が大事に思っていた彼女を、山道に捨てた。
『みゃう、みゃう』
膝の上に乗った縞猫が、僕に情報を運んでくれる。
同族である彼らは、こうして上位種である僕に様々な情報を伝えに来るのだ。
「そう。そんなことがあったの……」
僕は、縞猫を撫でながら、昨晩の彼女の状態に思いを馳せた。
「これは、放っておけないよね?」
さっそく僕は、仲間の猫達と協力して、その彼氏とやらの素性を調べ上げる。
梢の彼氏は、酷い男だった。奴には、梢の他に本命の女がいたのだ。
それを知った僕は、梢とデート中の男に、本命の女をけしかけた。
僕は酷い――
けれど、これであの傲慢な人でなしから梢は解放される。
……ちなみに、僕は人でなしじゃない。猫だから。
タイミングよく現れた僕は、ここぞとばかりに泣いた梢を慰めた。
他の猫がいるのは気に食わなかったけれど、僕みたいに人型になれるのはいなかったから、我慢した。梢も、猫に励まされているみたいだったし。
「ねえ、梢ちゃん。また、うちに遊びに来ない?」
泣き止んだ梢に、僕はとびきり優しく声をかける。
「え、でも……」
「ここで会ったのも、何かの縁だし」
「マオさん!?」
梢は、不安そうに僕を見上げた。
「今度は、逃がさないよ?」
「え、ええっ、あの、マオさん!?」
僕は、梢の手を強く握りしめる。
そんな僕の行動に驚いた梢は、パニックを起こして体を硬直させた。
「ど……して?」
「僕は、梢ちゃんが好き――一目惚れなんだ」
梢は、猫にとってのマタタビに近いような。好きにならずにはいられないような、不思議な匂いを纏っている。
それで、十数年前の僕は、彼女に一目惚れをしたのだ。彼女に他の猫が寄ってくるのも、そういう理由だった。
僕の場合は、その他に彼女の可愛らしい見た目や、遠慮がちで好ましい性格なども含まれているけれど――
知れば知るほど、僕は梢に惹かれていく。
そんなこんなで、強引に梢に言い寄った僕は、彼女を家に連れ帰ることに成功した。