5
日が昇るころに目が覚める。
これは習慣で、いつごろからかずっとそうだ。
隣のベッドを見れば、ネメシアが眠っている。
起こさないように気を付け、ベッドから出る。
昨日のが残っているのだろうか。
少し体が痛む。
軽く体を伸ばし、窓へ向かう。
窓から空を見れば、ある方が赤くなってきている。
多分あちらが東だろうな。
外を見るのをやめ、部屋から出る。
所々で音がする。
こんな時間からいろいろな準備をしているのだろうか。
城の人たちも大変だ。
少し城の中をふらついてみよう。
まずは顔を洗う水が欲しいな……。
*
ここは多分城の中庭。
城の裏に井戸でもあるんじゃないかと推測して歩き回っている。
が、城は城。
周りの庭だけでどれだけの面積があるのやら。
歩き回るだけで疲れそうだ。
赤かったはずの空も、大地に光が差す朝になっている。
どちらにしても、綺麗に澄んだ空なのは変わりない。
もうネメシアも起きているだろうか。
部屋に戻ろう。
不思議と、筋肉痛のような痛みのことなどもう頭にはなかった。
*
部屋に戻ろうと正面扉をくぐると、誰かにぶつかってしまった。
結構思いっきり走っていたのか。
かなりの衝撃が伝わってきた。
相手方なんて尻餅をつくほどだ。
「すみません。大丈夫ですか」
立ち上がる手伝いにと、手を差し出す。
「あ、いえ、こちらこそ…………って、トワ?」
俺の手を取ったのはネメシアだった。
「そんな急いでどうしたんだ、ネメシア」
「だって、朝起きたらあなたがいないから。
探さなくちゃって思って」
「探してくれるのは嬉しいんだが、そんな慌てられても困るぞ?」
「この生活が嫌になって逃げだしたのかと思って」
「俺信用無いなぁ。ハハ」
嫌になったどころか、逆なんだがな。
前の、生きることにすら意味を求める世界よりも、
生きることそのものを意味とするような世界の方が、好きだ。
「とりあえず、朝ご飯食べに行きましょう」
「あー俺は……」
「しっかりご飯食べるって昨日約束したでしょう?」
「……そうだな。たまには食べようか」
「たまには、じゃなくて、これからは基本毎日よ」
「わかったよ」
誰かと囲む食卓なら、毎日でも悪くない。
いや、それを望んでいたのかもしれない。
*
食事をとり終え、今日はどこに行くのかをネメシアと話していると、侍女が部屋に来た。
どうも、王に謁見しろとのこと。
この後の俺の立場についてでも決めるのかもしれないな。
案内するそうなので、ついて行く。
*
ところで、この国の王は陸軍の総帥、または将軍を務めることが習わしとなっている。
いざというときにすぐに、また意志を曲解されないようにするためらしい。
また、二つの役職があるのは、戦いが得意な者か得意でない者かによって分けているらしい。
今の国の王は……総帥だ。
とてつもない勇将だという話だ。
最前線で自ら指揮を執っているとか。
死んだらどうするのだろうか……?
一つ言えるとしたら、とてつもない偉丈夫だということだ。
そんな王が、オルドノア三世が、今、そこに立っている。
*
「よく来てくれた、トワ」
今俺の前に立っている偉丈夫が、この国の王だ。
この国は戦争により代替わりが激しかったらしいが、今の王になってからは安定しているとのことだ。
「ただ今、参りました」
「うむ。それで、傭兵として依頼する」
「何でしょうか」
王がこちらに一歩近づいてくる。
かなり大きいものだから、圧迫感すらする。
「一か月後。ある男と戦ってほしい」
「わかりましたが、殺し合いですか?」
「模擬戦だ。双方殺してはならない」
「わかりました」
「あとは、ネメシアに伝えておく」
俺は、静かに退室した。
*
あー、怖かった。
よくわからないけど威圧感とでもいうモノを感じた。
王なのだから、威光というモノか?
なんにせよ、歴戦の古兵の風格だった。
部屋に戻ろう。
変な汗をかいてしまった。
今日はまだまだこれからなのにな。
*
部屋に戻ると、ネメシアが武器を点検していた。
それもネメシアの武器ではなく、俺のをだ。
ありがたいと思いながら見ていると、こちらに気づいたようだ。
「おかえり、トワ」
「ただいま。武器見てくれてるのか。ありがとうな」
「貴方は強くなる義務があるもの。このくらいは、ね?」
「恐ろしい義務だ。逃れられそうもない」
軽く冗談を交わしあう。
やっぱり、礼を尽くさなきゃいけない場というのは、好きではない。
身体が固まってしまいそうだ。
「そういえば王様に、後はネメシアに聞けって言われたんだが」
「ああ、あの事ね。わかってるわ」
「何のために俺は呼ばれたんだか」
「ただの慣習よ。面倒なものよね。とりあえず説明するわよ」
ネメシア曰く、俺のことはもうすでに有名になっているらしい。
なんでも、王が直接勧誘するほどの男だとか。
勇者にだって引けを取らない剣士だとか。
驚くほど話に尾ひれがついている。
いつかはそう語られる可能性も0ではないが、今の俺は……。
とてもじゃないが、似ても似つかないだろうに。
まあそれで、他の貴族が腕を確かめたいとか何とかで。
あれよあれよという間に、模擬戦がセッティングされた。
試合は一か月後の今日。
相手は貴族の子飼いの傭兵。
新進気鋭の、最近名をあげている傭兵らしい。
勝てるかどうか聞いてみたところ、今は無理だとさ。
もっと強くなる必要があるらしい。
「強くなる義務があるってのは冗談じゃなかったわけか」
「なにも、私は冗談を言っていたつもりはなかったもの」
「困ったなぁ。じゃあ、今日はどうしようか?」
「戦うしかないわね。」
「まあ、そうなるだろうとは思っていた」
作者は遅筆故、次の投稿はまた今度になります。
お楽しみ頂けているのであれば、幸いです。