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「あいよ」
言われたとおりにうつ伏せで横になる。
それにしてもなかなか悪くないベッドだ。
「ちょっと失礼するわよ」
「ぐえ」
ネメシアに背中の上に乗られてしまった。
重いとは思わないが、いきなりだったから変な声が出てしまった。
「そこまで重くないでしょう?」
「むしろ軽いくらいだけど、一体何をするんだ?」
「とりあえず服を脱いでくれるかしら?」
「寝かせる前にそう言ってくれたらよかったのに」
「忘れてただけよ」
ぱぱっと服を脱ぐ。
細かい傷が多い、汚い体だ。
すぐに横になる。
「そういや、下も脱いだ方がいいのか?」
「あ、いえ、そういうのはいいわ」
もう一度、寝っころがると、また背中に乗られる。
程々な重さで腰にいい。
「それじゃ、始めるわよ」
「結局何するのか説明してもらってないぞ?」
「ちょっとしたマッサージよ」
指で背中を押される。
気持ちいいな。
だが少し違和感が……。
「そうだ、ネメシアの手が温かいんだな」
「そうだ、っていわれても何のことかわかんないわ」
「いや、特に何も。そもそもこの行為の方がわかんねえ」
「魔力回路を少し直しているだけよ」
「本当にわかんねえ」
この世界に来て何度わけのわからない言葉を聞いたか。
名前で想像がつくだけいいものかもしれない。
「直ったら俺もちゃんとした『浄化』が使えるようになるか?」
「直ったらね。ただ貴方、酷い回路してるわね」
「何が酷いんだ?」
「回路が穴だらけよ。これじゃ、本来の半分の魔力も使えないわね」
「それで、直るのか?」
「正直……完全には無理ね。貴方一体どういう生活してきたのよ。
浮浪者よりはまだいいというほどでしかないわ」
「普通の、高校生としての生活を」
一日一食は取っていたし、たまに間食もしていた。
ベッドで毎日寝ていたし、毎日着る服だってあった。
「高校生がどんな職業かはわからないけど、もう少しご飯を食べるべきね」
「ごもっともで」
何も言えない。
貧しかったことはわかっていたからな。
「もう少し大人しくしててね。もうちょっとで終わるから」
「りょーかい」
気持ちいいから、このまま続けてくれても構わんのだが。
「ん。これで終わり。お疲れ様」
「サンキュー」
背中の重みが消える。
心なしか、少し体が軽いような気もする。
筋肉痛で、まだ痛むが。
「使ってみてもいいか?」
「どうぞ。少しはよくになっているはずよ」
「おーけー。『浄化』」
先ほどとは違って、汗臭さは一切臭わなくなった。
それに、すぐにイメージもできる。
「これは、確かに綺麗になったみたいだ」
「うーん……。まあ、こんなものね」
なにか納得のいかないような顔をする。
された側の俺としては、何か失敗でもしたのかと心配になるのだが。
「なにか御不満でも?」
「いえ。ただ、貴方の虚飾が強化されるのかと思っただけよ」
「ああ、そういえば魔力が関係しているんだったか?」
「見た限りはね。だから、早いところ完全に直してしまった方がいいわ」
「それはいいんだが。どこで、どうやって直すのかも知らんぞ?」
「まあ、この国にそこまでの腕の人はいないわね。
王国に行ったときにでも直してもらいましょう」
近いらしい王国に思いを馳せつつ、首肯しておく。
その後、この国の環境などについて軽く話をした。
この国は魔族の国と国境が接している。
が、間に大山脈があり、すぐさま攻められるというわけでもないらしい。
守るには最適だとか。
あと、山のおかげか、水も豊富な方だ。
その気になれば、風呂に入ることもできなくはないか。
なんにせよ、少し言葉を交わして今日は寝た。
少し涼しい、でも、温かい夜だった。