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都に帰り、城へ向かう。
王に部屋を一室貸してもらっている。
想像より、いい部屋だった。
「こんないい部屋を貸してくれるとはな。
そこまでして抱え込みたい人材なのか?俺は」
「それはもう。異世界人、それも勇者と呼ばれるような人は凄いらしいのよ。
一騎当千どころか、一万、十万もの軍勢を打ち破れるのだとか。
まあ、私は見たことないんだけれどね」
「でも、よく知ってるじゃないか」
「それは、御伽噺の題材としてよく使われるからかしら。
でも、もしかしたら、見れるかもしれないわ」
「そいつはなんで?」
「召喚されたのよ、勇者が。それも、かなりの人数が」
「そうなのか?凱旋も何もないが」
「そうでしょうね。昨日召喚されたばかりらしいの」
「昨日?」
「ええ。貴方が都に現れた、昨日よ」
「そうだな……。まあ、思い当たりはある」
昨日の事、それも普段はあり得ない事だったから、よく覚えている。
帰り、HR中の教室で。
教室中が光りだした。
そこから先は……曖昧だが。
「それで、どこの誰が勇者を召喚したんだ?」
「それがね、今回は四大国で同時に行われたの」
「すまんが、そもそも四大国ってどこの事だ?」
ネメシアはため息を一つ、そして続ける。
「王国、帝国、教皇領、そして皇国の事ね。この国から一番近いのは王国よ。
基本的な知識だから、覚えておかないと恥かくわよ?」
「おう、覚えておく」
「それで、四大国で召喚されたんだけど、今回は一国につき41人。
総勢164人もの勇者が召喚されたっていうのよ」
「それは……勇者御一行召喚の間違いじゃないか?」
「さあ、そうなんじゃない?」
「えぇ……」
「まあ、これまでに例に見ないほど規模が大きいらしいわ。
たいていは十数人程度で、百人を超えることも無かったらしいわ」
「へぇ、それほど、相手が強力なのか?」
「いえ……もし、それほど強力なら、この国が存続しているかどうかすら怪しいわ」
「理由がわからないな」
「わからないというよりかは、理由がないのかしら」
「偶然、か」
ネメシアとだべっていたら、侍女が食事を運んできてくれた。
城で数十人単位で雇われているらしい。
貴族が宮廷儀礼を学ぶためにここで働いていることもあるとか。
と言っても、この国には貴族は僅かしかいないのだが。
かなり中央に権力が集中していそうだ。
それはいいとして、食事はパン、スープ、肉、ビール。豪華だな。
「これは、豪華な食事ね」
「本当に豪華なんだな……」
少し皮肉めいて言ってみたのだが。
まあ、日本での俺の食事に比べて、決して見劣りはしない。
強いて言えば、温かい米が欲しいくらいか。
「ところで、これは何の肉なんだ?」
「イノシシの肉じゃないかしら。少し臭みはあるけど、美味しいわよ」
俺の知らない病気とかがあるかもしれないから怖いんだが……。
腹は減っているし、病気については、なってから考えよう。
*
「あぁ、うまかった。御馳走様」
「私もお肉久しぶりにたくさん食べたわ。美味しかったわね」
侍女が皿を下げてくれる。
なかなか食べる機会がないらしいし、少しくらい食べさせてあげてもよかったかもしれない。
また今度、覚えていたらそうしよう。
「そういや、一緒にこの部屋に来たけど、まさか同室するのか?」
「ええ。気にしないでしょう?」
「いや、結構気にする。それに、自分の部屋があるんじゃないのか?」
「ここよ」
「へ?」
ここが部屋だとかいうカミングアウトをされたが。
それにしては私物が少なくないか?
さっぱりとした、きれいな部屋だ。
「つまり、俺がネメシアの部屋にお邪魔するわけか」
「そうなるわね」
「嫌じゃないのか?」
「別に?」
王様はわかってやっているのか?
俺だっていい年なんだぞ?
自制くらいはできるが、あまり心地よいものでもない。
「何はともあれ、よろしく」
「ええ、よろしく」
考えても状況は改善しそうにない。
なら、妥協するのが一番だ。
「それで。ネメシア。この世界、風呂はあるのか?さっぱりしたいんだが」
「お風呂は……そうねぇ。湯船につかるようなものは基本ないわ。
代わりに、簡単な魔法があるのよ」
「魔法か。俺にも使えるのか?」
「簡単よ。少なくとも、使えない人を見た事ないわ。
それに、貴方も魔力を使っていたじゃない」
「いつのことだ?」
「今日戦っていた時に、使っていたじゃない。
どちらかと言えば、魔力を使う能力と言ったところだったけど」
「虚飾の事か?」
「そうよ。だから……『浄化』」
「・・・何か変わったのか?」
「ええ。今これで、体の表面は綺麗になったわ」
「そうなのか?」
ネメシアに近づいて、匂いを……!?
「匂いが、無い!?」
「あ、な、た、ねぇ……!」
「あ、すまんすまん。つい」
そりゃ、女の子は匂いを気にするもんな。
考えが足りなかった。
これから暮らしていくのに、こんなことで大丈夫か?
「で、俺も使えるのか?」
「使えるはずよ。ただ、少しコツをつかむ必要はあるわね」
「ふむふむ。で、どうすればいいんだ?」
「そんなにせっつかなくても教えるわよ。
まずは、体に流れる魔力の流れを感じて」
「いきなり難しいことを言うな。まあやるけど」
身体に流れる魔力の流れだという。
血の流れと同じようなものだろうか。
そんな風にイメージすると、何かを掴めたような気がする。
「これが、魔力か?」
「掴めた?なら次は、それを体のどこか一点に集めていくイメージを持って」
この魔力が、俺の血管を通って、胸のあたりに集まるようにイメージする。
「大体、イメージはできた」
「じゃあ、あとはその魔力に浄化を命じればいいわ」
「了解、『浄化』」
魔法を唱えると、俺の体がきれいに……なったか?
「魔法、しっかり発動したのか?」
自分の匂いを嗅いでみるが、正直よくわからん。
ただ、風呂入った後のほうがさっぱりしてる気がしただけだ。
「何というか……微妙ね」
「何だそれは。使えるんじゃなかったのか?」
「あーそうね。たまにそういう人もいるわ」
「えらく適当だな」
便利なものが使えるようになると、ひそかに期待していたのだが。
「まあどうにかする方法がないわけではないわ」
「なんかあるのか?早く言ってくれればいいのに」
「じゃあ、ちょっとそこのベッドに寝転がってくれる?うつ伏せで」