19
コボルド狩りに戻る。
ネメシア曰く、多分このあたりにいるはず。だそうだ。
少し歩いていると、服の袖を引っ張られる。
「いるわ」
「コボルドか?」
「ええ」
「何匹?」
「数えたくなくなるほど、かしら」
「それは、使ったほうがいいか?」
「とりあえず、隠れましょう?」
まったくもってその通りだ。
近くのちょうどよさそうな木に身を隠す。
「それで、コボルドなんだけど」
「何か問題でもあったか?」
「それはもう。コボルドの巣があるのよ」
「つまり?」
「恐ろしいほどいるはずよ」
「具体的な数で頼む」
「百匹前後ね」
おいおい。
とてもじゃないが、倒せるのか、それ?
「逃げたほうがいいんじゃないか?」
「でも、倒せたらレベルアップは間違いないわね」
「いや、それはそうかもしれないけど……」
どうも好戦的だ。
まあ、それに流される俺も俺か。
「じゃあ、襲うってことで、いいわね?」
「まあ、それでいいか」
この戦いが終わったら、帰ってうまい飯を食おう。
*
「巣の周りに、警備が数匹いるわ。これを倒しましょう」
「わかった」
「できるだけ静かに、ね」
隠れつつ、巣のある方向に近づく。
「いたわ。二匹並んで歩いてる」
「わかった。一人一匹でいこう。他にはいないか?」
「まだ遠いわ。叫ばれなければ、気づかれないはずよ」
「よし、行こう」
相手の後ろに回り込むように、近づく。
できるだけ音をたてないように、そして姿勢を低く。
気づかれてはいけない。
敵のすぐ近くの、木の裏に隠れる。
ネメシアが小声で話しかけてくる。
「ここで、やっちゃいましょう」
「タイミングは任せる」
「わかったわ。3,2,1――」
0は言わない。
既に二人とも飛び出しているからだ。
駆け出した音は大きかったようで、コボルドはこちらに振り向こうとしている。
距離はだいぶ詰めている。
大きく前に出て、コボルドの頭をつかみ、こちら側に引き倒す!
何が起こったのかわかっていない様子で、あっさりコボルドは倒れた。
腰からナイフを取り出し、喉を搔っ切る。
これで声を出せないはずだ。
鞘に納めていた剣で、止めを刺す。
どうにかやれた。
周囲の警戒はネメシアがしてくれているだろうし、ぱぱっと魔石を剥いでおこう。
しかし、コボルドの魔石もゴブリンの物とそう変わらない。
*
また別の警備を追っている。
知能があるのかわからないが、どいつもこいつも二人一組で歩いている。
こちらも二人だからいいが。
今回は静かに後ろから殺すことにする。
すぐ近くまで行っても気づかない。
それにしても勘の鈍い奴らで助かる。
近づき、頭をホールドして、喉を搔っ切る。
ほっといても死ぬだろうが、しっかり止めは刺す。
「今ので何体目だ?」
「二人合わせて十六かしら」
「八組もやったのか」
「あと二組くらいね。早くやらないと気づかれるかもしれないわ」
「わかった。早くやっちまおう」
*
暗殺者まがいのことをして、これで十匹目。
二人合わせて二十匹殺した。
「これで大体全部か?」
「外にいたのは、ね」
「じゃあ、本格的に巣を潰すか」
と言うのはいいのだが、どうやって潰したものか?
話を聞くと、どうも地下に迷宮状の巣を張り巡らせているとか。
多分出入り口も多数あるはず、とのこと。
「入って倒すしか、無いか?」
「経験値無視していいなら、地盤の一つや二つ落としてみせるのだけど」
荒唐無稽だ、と言う所かもしれないが、あの姿になれば、簡単にできそうだ。
「でもそういうわけには、な」
「わかってるわよ」
でも、どうしようか。
出入り口の近くには、今は敵がいないらしいから、向かう。
「それで、これが入口か?」
「そうね。中に大量のコボルドがいるみたい」
入口はちょっとした坂道になっている。
それは問題ないのだが。
「この大きさ、俺、立てなくないか?」
「通路だけみたいだわ。部屋は2~3メートルくらいの高さはあるわ」
「ふむ。ネメシアが入って釣る、とかどうだ?」
「うーん……。良いと言えば良いのだけれども」
どうも一匹も逃したくないらしい。
全ての出入り口を封鎖することはできないし。
「なかに女王の役割をしているコボルドがいるはずなのよ」
「その、まあ、クイーンコボルドとでも言うべきなのがどうしたんだ?」
「魔物はその女王を守ろうと動くはずなの」
「つまり、中に入れば、女王を襲いに来たと思い、全員出てくると?」
「そのはずなのだけれども……。嫌なら、やめるわよ?」
「嫌というわけではないが」
やはり立てないのは、戦いにくいだろう。
でも、経験値がなぁ。
欲しいよなぁ。
「じゃあ、行くか」