18
今日も飯がうまい。
*
飯を食い終わり、皿を下げてもらった。
もちろん美味しかった、の一言も添えて。
「さて、今日こそはしっかりコボルドを狩らなきゃね」
「そういや、そうだったな」
昨日は、結局見つからずに帰ってきたんだったか。
「行きましょう」
「おう」
*
都を出て、森の中を進む。
獣道があるくらいで、村がどこかにあるなんて信じられない。
しかし、ネメシアは慣れたように進んでいく。
歩幅は俺のほうが大きいはずなのに。
ついて行くのが精いっぱいだ。
唐突に止まり、木の裏に隠れる。
俺も隠れる。
「ゴブリンがいるわ」
「何匹だ?」
「えっと、三匹いるわ」
「目的の相手じゃないし、一匹は頼む」
「わかったわ」
少し頭を出し、相手の位置を確認する。
近くに二匹。
少し奥にもう一匹。
「近くにいる奴を、一匹頼む」
「ん。じゃあ、行くわよ」
「了解!」
俺の叫びを合図に、飛び出す。
ただ、それで気づかれたか。
だが、関係ない。
すぐに間合いを詰め、剣を横に振る。
途中で抵抗が強くなったかと思えば、すぐに軽くなる。
吹っ飛んでいったか。
死んだかどうかはわからんが、動けるとは思えないし放置する。
奥にいたゴブリンは、俺を見定めると、怒ったように走ってくる。
が、途中で地表に出ていた木の根っこに引っかかり転ぶ。
知能が低いなーと思いつつ、近づき、片足を切る。
もう立ち上がれなくなったところで、首を落とし、殺す。
ずいぶん作業になったものだ。
最初の緊張感はもう無いに等しいな。
腰からナイフを取り出し、魔石を剥ぐ。
本当に、慣れたものだ。
まだ、ネメシアほどきれいには剥げないにしても。
ネメシアがいるだろう所に戻る。
「お疲れ様。魔石、剥いでおいたわ」
「サンキュー」
そう言うネメシアの手には二つの魔石。
さっき吹っ飛ばした奴のか。
「他、敵はいないか?」
「わかる範囲にはいないわ」
わかる範囲がどこまでかはわからないが。
まあ、きっと大丈夫だろう。
*
まだまだ奥に進む。
少し日が傾いてきたくらいで、まだまだ時間はあるだろう。
また、ネメシアが唐突に止まる。
魔物かと思い、すぐに身を隠す。
が、ネメシアはその場から動かない。
「どうした、ネメシア?」
とりあえず、魔物じゃなさそうだから、隠れるのをやめる。
どうにも思い悩んだ顔をしている。
「ねえ、トワ。あなたのことを信じてもいいのよね?」
「?もちろんだ」
「じゃあ、私の竜としての姿を見ても、そう言ってくれるのかしら?」
ああ、そういうことか。
これまで嫌われてきたんだ。
そりゃ、疑っちまうのもしょうがない。
だから、答える。
「ああ、もちろんだ」
「……そう。じゃあ、見て」
少し悲しそうな表情をする。
が、すぐに覚悟を決めたようで、腕まくりをする。
「今は完全には竜になれないけど、それでも、気持ち悪いと思うわよ」
「そうでもないかもしれんぞ」
俺の言葉を聞いても、それでも顔が晴れない。
ただ、集中し始める。
腕の肘から先が、膨張し始める。
俺でも、魔力が渦巻いているのがわかる。
一瞬、強く光ったと思うと、そこには体に似つかない大きさの腕が。
色は青白く、爬虫類特有の肌の感じ。
「ねぇ、これ、どう思う?」
なんて、自嘲気味に聞いてくる。
多分、否定的な言葉でも予想しているのだろうか?
だが、
「ああ、かっこいいな!」
感性が違うのだ。
「触ってみてもいいか?」
少し興奮気味になってしまう。
しょうがないじゃないか。
変身シーンとか、かっこよくない?
「え、ええ。別にいいわよ」
むしろネメシアが引いているような気さえする。
触感は、蛇とかと同じようで、それでいて硬い。
指もしっかり五本ある。
「ところで、この腕、重くないのか?」
「別に、普通の腕と変わらないわ」
「へぇ~。完全に竜になることはできないのか?」
「今は、私には、無理ね」
「ほうほう。それでそれで――」
二人でいろいろしているうちに、ネメシアの顔も晴れた。
やっぱり、笑顔のほうがいい。
*
「ねぇ、トワ」
「なんだ?」
「疑って、ごめんね」
「別にかまわんさ」
「……ありがと、ね」
「……どういたしまして」