17
「お疲れ、トワ」
「ありがと」
応接室のような所に通されると、ネメシアが手持ち無沙汰に髪の毛をいじって待っていた。
ネメシアの隣に座る。
対面にレジーナが座る。
「それで、今回の寄付はいつ出してくれるのかしら?」
「現物で用意してあるから安心していいわ」
雑談も何も一切はさまずに、いきなり金の話を始める。
そして俺が口をはさむ余地がない。
「確か、銀貨十枚くらいよね?」
そう言って、懐から十枚の銀色の硬貨を出す。
机の上に置くとすぐに、レジーナが懐に収めた。
「銀貨十枚、しっかりもらったわ。それで、用件はこれだけ?
私これでも忙しいのだけれど」
「いえ、もう一つ」
そういうと、ネメシアは懐からさらに銀貨を取り出した。
「トワの魔法適性も出してくれないかしら?」
「ああ、魔法ね。いいわよ、銀貨五枚でしてあげるわ」
「じゃあ、それでお願いね」
レジーナが少し席を外す。
それはいいのだが、一切話に割り込めなかった。
まあ、ネメシアのことだから任せて大丈夫だと思うが。
「ネメシアは、レジーナの知り合いなのか?」
「そうよ。といっても、レジーナは否定するかもしれないけどね」
「仲悪いのか?」
「そうなのかしらね?」
「俺に聞かれても困る」
疑問を疑問で返されちゃかなわん。
「私は一時期、ここら辺で遊んでて、その時に会ったのよ」
「こんな裏通りをか」
「表通りは、目があるもの」
確かに、ネメシアが竜だということを知っている人が多くいるだろうからな。
周囲の目が痛いだろうよ。
それに比べて、裏通りはそんなこと知らない人が多いんだろう。
「ただ、レジーナには途中でばれちゃってね。
結局、城のあまり使われていない部屋に逃げ込んだわ」
「そうか……」
何か声をかけようとしたが、足音がしたので口を閉ざした。
扉が開けられると、やはりレジーナがいた。
「おまたせ、探すのに手間取ったわ」
「そんなに誰も来てないの?」
「それはもう、まったく。あんたみたいな好きものくらいよ」
「それはどうも、ありがとう」
皮肉がどうか知らないが、笑っている。
正直少し怖い。
そんなことを考えている間にも、準備が進む。
といっても、この水晶?に俺が手を置くだけなのだが。
「いつでも始めてくださって大丈夫ですよ?」
「はい、わかりました」
見守られつつ、左手を水晶に置く。
すぐに、水晶の中に光が生まれる。
白色。
黒色。
土色。
そして、水色。
その四色が水晶の中で光っている。
「これは……光と闇の同時持ちですか」
「なにか、まずいことなんでしょうか?」
そんな風にもったいぶって言われると、何かあるんじゃないかと思ってしまう。
「いえ、特にそういうわけではないのですが」
「ならいいのですが」
「トワの属性は、光と闇と土と水。いっぱいあるわね」
「普通はどのあるもんなんだ?」
「二つあればいいほうよ」
そう考えると、俺はかなり恵まれているらしい。
使いこなせるかどうかは別だが。
「これ、普通の光だけじゃなく、結界魔法も含まれてるわ」
「本当?レジーナ」
「わざわざこんなことで嘘つかないわよ」
話を聞く限りだと、俺には五つの属性があるのか?
贅沢なもんだ。
「もう、魔法使いにでもなってみる?」
「いや、それは遠慮しとく」
支援とかどうも俺の性に合いそうにない。
「それで、その魔法について説明してくれないか?」
「レジーナ、お願い」
「わかったわ。まず、トワさんの属性は光、闇、土、水の四つです」
そもそも属性が何個あるのかもわからんのだが。
そこはネメシアがフォローしてくれるようだ。
「基本の属性は全部で六つ。火、土、水、風、光、そして闇。
大抵はこの内の一つか二つを持っているわ」
「なるほど」
「話を続けさせてもらいますが、トワさんはこれに加え、結界の適性があります」
「結界とは、この街を覆っているのと同じ?」
「そうですね、そのように捉えて頂いて問題ないです」
それは便利だ。
使いこなせれば、魔物から身を守れるわけだ。
「本来だったら、もう教会に勧誘されてるわね」
なにか少し引っかかる言い方をされる。
「結界ってのは、珍しいもんなのか?」
「結界の力は、神の祝福だと言われたりしますので。
あまり珍しいというわけではないのですが」
「なるほど」
確かに、魔物から身を守るには適している。
神の祝福だといわれるのも納得がいく。
魔道具はどうなのかと思ったが、気にしないことにする。
「それより、問題は闇属性よね」
「そうよ、それよ」
珍しいのはそっちのほうだったらしい。
「闇属性を持っているのが、そんなに問題になるんですか?」
「困ったことにね」
「持っている人が少ないわけじゃないのですが、魔物の属性として、基本的には忌み嫌われることが多いのです」
「なるほど」
「ないとは思うけど、他の人に教えちゃだめよ?知っているのは私と、トワと、レジーナだけ。いいわね?」
「わかった」
「まあ、私もわざわざばらそうとはしないわ」
了承の意だと受け取る。
「それにしても、二人ともそんな敬語で堅苦しくないの?」
「いや、礼儀かなーって思って」
「まあ、私もそんな感じよ」
「じゃあ、敬語無しでいいですかね?」
「それでいいなら。よろしくね、トワさん」
「こちらこそ、レジーナさん」
ただ、敬称は抜けそうにない。
「それでトワさんは、ネメシアとはどういう関係なの?」
「トワとは同棲してるわ」
場が静まり返る。
なんというか、間違ってないからあまり否定できない。
「いや、ほら、傭兵仲間なんだ」
「あら、あんなに私をベッドの上で泣かせておいて」
「凄い誤解されそうなんでその辺で勘弁してください」
それに、最初は俺が泣かせたわけじゃないし。
いや、結局泣かせたんだけどさ。
「お、お二人は、仲睦まじいんですね」
さっき近づいた距離が、一瞬で遠のいた気さえする。
話を変えようとすると、ちょうど誰かが小走りで来る音が聞こえる。
ドアがノックされ、開かれる。
そこにいたのは、これまた小さな、それでいて少しぼろい服を着た女の子だった。
「せんせー。もうおひるのじかんだよー?」
「もうそんな時間なの?わかったわ。すぐ行くから、ちょっと待っててね」
どうにも舌足らずな声で、レジーナを先生と呼んでいた。
先生?
小さな女の子は、わかったと言うと、これまた少し小走りで帰って行った。
「……いまじゃ、レジーナが先生なのね」
「そうよ。もうお昼だから、この辺で」
「ええ。それじゃあ、また」
「あんたにそんなに来られても困るわ」
少し毒を吐きあって、別れた。
俺らも戻って飯でも食おう。