15
結局1時間ほど後に、ようやく満足してくれたらしい。
ずいぶん人のぬくもりに飢えているんだな。
そう考えると、ついネメシアの頭に手が伸びてしまう。
浄化のおかげか。
髪の毛がサラサラで、触り心地がいい。
ずっと撫でていたくなってしまうような。
ハッ、危ない危ない。
また一時間コースになるところだった。
「それで、今日はどうするんだ?昼飯も近いけど」
「今から狩りに行く時間は、ないわね」
「だよなぁ」
とはいえ、他にすることも特に無い。
「何しようか?」
「そうねぇ………あっ、考え付いたわ」
「お、何かあるのか?」
「ええ、行きましょう」
手を引かれる。
こんな強引なネメシアは初めてだ。
*
ネメシアに連れられて町へ。
城へ続く一本道は今日も賑やかだ。
しかし、そんなものは見えないとばかりに、町の奥へと進んでいく。
周りにろくに人も見えない。
「ネメシア、どこに行くんだ?」
「行けばわかるわ」
一体全体、どこに行くってんだか。
退屈になるよりはいいか。
「ほら、見えてきたわ」
「どれのことだ?」
この辺りは、どうもぼろい家ばかりだが。
「こっちよ、こっち」
「ん?これか?」
前には、周りの家とそう変わらない建物が建っているだけだ。
強いて違う点を挙げるとすると、入口に十字架がついてるくらいか。
ん?十字架?
「ここ、教会か何かか?」
「そうよ、よくわかったわね」
「まあ、な」
しかし、なぜ十字架なんだ?
この国の宗教はキリスト教だったなんて聞いたことはない。
それとも、この世界でも神の子が罪の十字架でも背負ったのか?
「でも、こんなところに何しに?」
少し笑って、しかし何も言わずドアを叩く。
「はーい、少し待って下さーい」
少し高めの、女性の声が響く。
そこまで待つこともなく、ドアが開かれる。
「教会へようこそ……って」
「こんにちは、レジーナ」
「こんにちは、ネメシア」
ネメシアは笑顔で、しかし相手は実に不機嫌そうな顔で挨拶をする。
相手、レジーナというのか。
想像通りのシスター服を着た、金髪碧眼の女の子だ。
あ、服が少しだけほつれている。
「それで、何しに来たのネメシア」
「用があるのは私じゃないわ」
「あんたが、他の、人を……?」
もの凄く怪訝な顔をしている。
この町の人の反応としては、そっちの方が正しいのか。
いや、挨拶する分マシなのか?
「この人よ」
「どうも、トワといいます。一介の傭兵をやっています」
「これはどうも。レジーナといいます。ここでシスターをやっています」
二人で頭を下げあう。
礼儀正しい人だ。
「それでネメシア。私に何をしてほしいのかしら」
「トワに、神託してくれないかしら?」
「この年になって神託を受けてないの……?」
「ええ、そのはずよ」
まったくわからん話ばかりだ。
神託ってのは、何のことだ?
「ああ、あんた、“見える”のよね」
「そうよ。だから、お願いね」
「まぁ、いいわよ。もちろん寄付はもらうけど」
「わかってるわよ」
「じゃあ、そこの、トワさん、でしたか?」
「え、ええ」
「ついてきて下さい」