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異世界で傭兵はまったり生きたい  作者: 永久不変
第一章 始まり、小国にて。
13/122

13

朝早くに、今日も起きる。

隣のベッドのネメシアは。


泣いていた。


枕に顔を押し付け。

声を押し殺し。

静かに起き上がり、近づく。

何をしてやれるだろうか。

何も俺は知らない。

彼女に何があったのか。

そして今、どうして泣いているのか。

わからない。

それでも。

ネメシアが、こちらに気づく。

自分の顔が涙で崩れていることに気付いたのか、隠そうとする。


「お、おはよう。トワ」

「おはよう」


挨拶こそしっかりしてみせるが、声は明らかに涙混じりだ。

普段の俺だったらきっと知らないふりをするのだろうが、何故だろうか。

ほおっておくことなど、できない気がした。


「ね、ねぇ、トワ?私、今ちょ――」

「かまわん」


ネメシアの手をとり、仰向けにしたネメシアの上に俺が乗るようにして、顔をどうにか隠そうとするネメシアの抵抗を押さえつけた。

そんなネメシアの顔は、涙で濡れて、――不謹慎と言われるかもしれないが、きれいだった。


「何があった」

「な、何も!......ない、わ」

「これが、なにもない訳がないだろう」


目元を赤く泣き腫らしている。

俺が起きるどれだけ前から泣いていたんだ?


「話してくれ」

「……聞いたら、きっと、あなたも......私を嫌うわ」

「それはない」

「どうしてそういえるの!?」


目を見て直球で問うが、声を荒げられる。

だが俺は、話される内容がどんなに衝撃的でも、受け入れる。

たとえカニバリストでも、サイコパスでも構わない。

だから、目を離さずにネメシアに本当の気持ちを伝える。


「お前がお前である限り、嫌うことはない」

「わけ、わかんないわよ……!なによ......、私のこと......全然、ぜんっぜん知らないのに......!」


もっと泣かせてしまった。

美しいけれども、女の涙は見るに堪えんものがある。

だから少し体勢を変え、ベッドで横になるような形で、ネメシアを抱きしめた。


「それでもだ。......話してくれるか?」


腕の中で、小さく頷いた。

今はただ、背中をさする。



腕の中からやっと泣き声が聞こえなくなり、たまに鼻をすする音が聞こえるだけになった。

かなり時間はたったが、だいぶ落ち着いたみたいだ。


「…………もう、大丈夫よ」

「無理はするな。ゆっくり、ゆっくりだ」

「ええ、わかってるわ」


言った通り一度深呼吸をしてから、ゆっくり、ゆっくりと話し出す。


「えっとね......、私の二つ名はね、“忌み子”なのよ」

「……すまんが、二つ名ってのはなんだ?」


ネメシアを抱き締めていた片方の手で頬を掻きながら尋ねる。

申し訳なく思うが、ネメシアはこんな状況下にもかかわらず、きっちり説明してくれる。


「二つ名というのは、あまりにも強い……いえ、強すぎる人に対しての通称よ。

 みんな、畏敬の念を込めてそう言うのよ」

「なるほど。説明ありがとう」

「どういたしまして。じゃあ、話を戻すけど、なんでそう呼ばれてるのか、わかる?」

「すまんが、まったくわからん」


正直に答える。

想像がつかないわけではないが。


「私はね、人でありながら、竜なのよ

「……それが、畏れられる理由か」

「そう、そうよ。私は竜。生まれたときから、私の身体を流れる血潮は、異常なまでに高い魔力をたたえた、竜の血だった。私は、普通に生きられればそれでよかったのに......!」


行き場のない怒りが、ネメシアの中で広がり、涙となって出てくる。

そんなネメシアに感じてだろうか、肩を強く抱き寄せた。


「……大丈夫よ」

「ああ」

「……私は、竜になって、たくさんの人を殺したわ」

「ああ」

「その人たちの、家や、畑も壊したわ」

「ああ」

「……私は、大罪人よね」

「…………」

「ほら、私を嫌いになったでしょう!そうよね、こんな大量殺人鬼信じられるわけないわよね!わかってたわよそんなこと!期待しちゃダメだって、知ってたわよ......!」


泣きながらネメシアが怒号を上げる。

酷い、話だ。

自分の意志でやったのでもないのに、こんなに苦しんで。

人を信じることもできないのは。


「別に、嫌いになってねぇよ」

「だったら!......だったら、何で......何も、言ってくれないの……!?」


腕の中でネメシアが泣き崩れる。

でもそれも仕方ないと思う。

どうにかしてやりたいとも思う。

だから、こう言う。


「......言葉を、探していた。でも、ダメみたいだ」

「え……?」

「俺はどうも、口下手みたいで。すまんな」


行動で伝えると。


ネメシアを抱き締めていた腕をとき、片足を軸に一度立ち上がる。

後ろのベッドへ振り返り、ネメシアの手を引く勢いで、ネメシアを抱き寄せ、その耳に囁いた。


「信じてくれ、俺はお前を嫌いになんかならない」


そう言って、柔らかいほっぺたにキスを落とした。


「自分の意思の介在しなかったことについて責任なんて気にすんな」

「……そんなの、私にはできないわ」

「それも、仕方ないかもしれないけど。でも、俺がその罪を許すから。

 だからもう......、一人で泣かないでくれよ」


ネメシアは、何も言うことなく、顔を俺の胸に押し付けてくる。

ただ俺は、ネメシアを、少し強く、抱きしめた。


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