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城の正門からわずかに残っていた使用人が続続と出ていく。
これで今城に居るのは俺とマトッシュ、レジーナ、ウティーゴと王様か。
城の大きさに対して、随分人が少ない。
守りきれるとは思えないな。
特に、相手方に勇者様ご一行なんて来ようもんなら。
勝機のなさに軽く絶望してため息をつきつつ敵軍を眺める。
「トワさまー?お黄昏中ですですかー?」
トテトテと短いテンポで足音が聞こえてきていたから気づいていたが、だからこそ何用かと、後ろを振り返ってトロオに問う。
「えっとー、そのー、ですー。これから戦いにいく人に言うことではないと思うんですですけどー、そのー......」
珍しく態度がはっきりしない。
何なのかハッキリしろと急かすと、ようやっと口を開く。
「そのー、じゅ、じゅーすが欲しいんですですけどー......」
「......んだけ?」
「そ、そうですです.....。ご迷惑でした......です?」
顔に手をあて上を向き、ひとつ大きくため息をついた。
「なーんだ、そんだけか」
「そ、そんだけとはひどいですですよ!これでも覚悟を決めてきたんですですー!」
「はいはい」
両腕を振り回して怒るトロオを頭を押さえていなしながら思い出した。
そういやこんな、大したことないことをやけに大きく語るような奴だった。
「ほれ、くれてやっからそんなに怒んなって」
冷蔵庫から取り出したばかりのように冷たいオレンジジュースをほっぺたに当ててやると、体をわざわざ震わせて腕を回すのを止めた。
そして直ぐに俺の手からそれを引ったくると、キャップを開け飲み始めた。
半分ほど一気に飲んで、そして
「これをトワさんの形見にするですです!」
「勝手に殺すなよっ!」
思わず突っ込まずにはいられなかった。
が、もしかしたら緊張を解してくれたのかもしれない。
心のなかで感謝しつつ、早く城を出るよう促した。
*
暫くして、またトテトテと足音が聞こえる。
......いや、これは違う――トロオの足音ではない。
この足音はどちらかと言えばレジーナなどのタッタッみたいなのに似ている。
トロオに比べて少し重い音なのだ。
しかし同時に、レジーナの......人の走り方にしてはおかしい。
地面に足がついて、そして次に足がついて鳴る音までの間隔。
それが、三秒以上ある。
剣を構え、何が来るのかを見守る。
すぐ近くの階段に警戒していると、まるで飛ぶようにして――いや、実際に飛んで少女がきた。
頭に山羊の二本の角を生やし、背中にこれまたご立派なコウモリの羽を生やした少女が。
またです。正子に投稿したほうがいいですかね……。