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少し遅れました。申し訳ありません。
人の声が、それも怒鳴り声が遠くから聞こえる。
一人でもなく複数から、しかしデモが起こる場所としてはおかしい。
王城の門の前というわけではない、いやむしろ遠いのに、だ。
嫌な予感がする。
不吉なそれに押されるように、人気の少ない路地裏を走っていく。
*
出ていけ、という声が広い路地にこだまする。
何十人の人が言っているのだろう。
いや、もしかしたしたら百を数えるかも、なんて益体もないことを考えている。
少し、時間でもないと頭の中を整理できないからかもしれない。
……人々の中心には勇者らしい男達と、俯いたネメシアがいる。
双方の態度から、どちらが出ていけなどと言われているのかは確かだ。
ああ、クソだな。
無意識に、群衆の間を駆け抜けた。
*
「これだけ言われてんのに、まだだんまり決め込んでんのか?」
「……」
近づいて分かった、ネメシアの対面で暴言を飛ばしている三人組はうちのクラスの奴じゃなかったようだ。
「流石にこんだけ言われてるからわかると思うんだけど、誰にも望まれてないってことはわかるよな」
「……」
だが、辺りを見回せばいる、群衆の陰に隠れて。
うちのクラスの、勇者っていうウソツキが。
「初対面の俺らですらそう思うんだから、この町の人なんてそうとうだろうな。そうだろ!?」
呼応するように、誰かがネメシアに石を投げた。
それが連鎖して、誰も彼もが石を投げ始める。
ユウシャは、にやにや笑っているか、だんまりか。
確かなのは、どちらも傍観者だってこった。
インティファーダとも言えない行為なんだが、その最中に一つの石がネメシアの顔に当たる軌道を、取った。
*
いつも通りの柔らかい感じを腕の中に抱えて、背中に軽い衝撃を受ける。
何発か俺が受けて止まった後になって、結界を張ればよかったと気づいた。
ネメシアを背中に隠すようにして、男三人組に立ちはだかる。
「――久しぶりだな」
「トワ……、お前今までどこに」
「そんなことはどうでもいい。何をしていたのか俺に分かるように説明してくれ」
相手の目つきが変わる。
今までの古い友人へのものでは無く、敵愾心をむき出しにしたものだ。
一触即発、最悪殺すか。
「ただ、そこの敵を排除しようとしただけだけど?なんか文句あるんだったら、いくらお前でも――」
「おっとー、そこまでそこまでー」
軋むような音がしたと思ったら、パルクールもびっくりな要領で近くの家の屋根から飛び降りて俺らの間に落ちてくる。
「喧嘩かー?殺りたいなら俺がお相手するぜー?」
「おースーさん。こいつらの相手頼むわ」
「任されたー」
顔の見えないネメシアをお姫様抱っこし、群衆を避けるため結界を足場にスーさんが来た方の家の屋根へと駆け上る。
家々の屋根を飛び回って、逃げるように王城に戻った。