116
今日は誰も厳戒態勢だ。
町中に張り詰めた空気が漂う。
暴徒鎮圧のためか、俺とネメシアは城の外でデモ隊の観察をすることになっている。
のだが、いつになってもデモは始まらない。
昼飯もとり、監視をつづけてもまだ。
人々の流れを監視してみるが、うむ、怪しい人間がいすぎてわからない。
誰が一番の扇動者なのかわかればなにか手が打てるのだが。
御生憎様、市中の兵士は市民の味方の様でとても派手な動きなどできない。
深夜になって、ほとんどみなが寝静まったころに城に戻った。
勇者は明日来る。
*
今日は朝から外が騒がしい。
しかし、いつもの騒がしさとは少し違う。
勇者に対する歓喜の声。
到着するのは今日の午後のはずなのだが、この時間から騒いでいるようだ。
近所迷惑な奴らだ。
今日も市民に紛れはするが、ネメシアはその綺麗な黒髪が災いして、すぐに露見してしまいそうになる。
仕方がないので屋根の上から人を眺めることにする。
人の熱気は、じりじりと増していった。
*
「いた」
ネメシアがいつぞや渡した双眼鏡を覗き込みながら言う。
俺自身は望遠鏡を覗き込み確認する。
望遠鏡でも顔はわからない距離だが、間違いないだろう。
ネメシアに見てもらうと、予想より少し早いらしい。
昼飯の時間前後に来るとのことだ。
一時間ほどして、町中がにわかにうるさくなる。
確認できたのだろう。
これから面倒なことが起きそうな予感がする。
*
まるで凱旋のような面持ちで勇者様御一行が門を通る。
街の様子は――、あー、こんなことを前にも描写した気がするからいいか。
一つ、予想と違うことを上げるとしたら。
「我々は、悪しき為政者を倒すことに協力しよう」
などと、騎士団長様サマが言っていたことか。
どうやら、見放されたというのは嘘だったらしい。
正しく言葉を直すとすれば、裏切られたがあってるだろうよ。
今日から、俺らが悪か。
*
翌日から、もはやデモ隊とも呼べない彼奴らの活動が激しくなる。
早く逃げろと思うのだが、用事が済まぬと言うばかり。
今日も街を見回る。
*
そう、ネメシアと俺は町中を別々に見回っている。
何故こんなことを言っているか、というとだ。
酷いことがあった。