111 回想
また、まただった。
彼らの狙いは、おそらく……いえ、間違いなく私。
誰か、私のことを知っている人がいる。
それ以外に狙う理由なんてない。
あいつですら知らないことを、いまさら誰が――?
……わからないけど、迷惑はかけられない。
一時的に子供たちを預かるのをやめるべきだろうか。
そうしましょう。あまりにも危なすぎるから。
神へ信仰の言葉を捧げ、死体を浄化してから墓場に埋めておく。
ちょっとしたことだけれども、アンデットを生み出さない最良の方法。
教会に戻ってみると、庭でマトッシュが体を洗っている。
尋問はどうだったかと聞いてみると、苦い顔をして一言――教会関係者だった、とだけ言った。
こちらではなく、大通りの第一教会の方だろうとは思うけれど、意外だった。
いや、でも、先生のことを考えれば当然なのかもしれない。
先生ももともとは第一教会にいたのだから、もしかしたら気ごころの許す人に話していた可能性もあるかもしれない。
彼に他の情報はなかったかとせかすが、ダメだったみたい。
傷をほどほどに治して衛兵に突き出すように提案され、同意した。
拷問に関する知識なんてのは持ち合わせてないし。
……どうしようか。……どうしようも、ないか。
ため息が漏れる。
でも、彼が言ってくれる。
守る、と。
どんな裏があるのかもわからない。
こっちにどんな事情があるのかも、きっと知らない。
それにもしかしたらただ、宿飯の恩を返そうとしているだけなのかもしれない。
それでも、嬉しかった。
――でも、一人になるべきかな。
いや、でも、まだ、まだ……。
私は……ワタ、シ?
*
子供たちを家に帰した後、窓からのぞく景色に雨粒が混じっていた。
窓をたたく音がだんだんと大きくなってきて、教会を包み込む。
外に干していた服は急いで取り込んだが、この天気だ。
長く続けば、湿った服を着ることになるかもしれない。
……雨は、過去を思い出させる。
早く、止んでくれることを祈るばかりだ。
――雨が降り始めてから、レジーナを見ていない。
あんなことがあった後だ、話しておこうと探していたのだが。
先ほど二三言葉を交わしただけなままだ。
そうして教会内を歩いていると、礼拝堂の扉が開いていた。
そっと近づいて中を覗き込むと、レジーナが祈っていた。
荘厳にも、敬虔にも見えるその姿は、どこか冒瀆的でもあった。
――いや、俺は今、何を考えた……?
神に祈るその姿は、神聖以外の何物でもないだろうに。
いかんな、これは。
久々に人を殺して、少し興奮が残っているのかもしれない。
休もう、戦場の睡眠になるが。
*
雨は断続的に降り続いた。
数日の間に、襲撃が二回。
一度目は深夜に、二度目は逆に昼間に。
雨のことを含めても、いったん子供たちを預かるのをやめたのいい判断だったと思ってる。
最近はあまり眠れてない。
前とは違って、和やかにお茶を飲むなんてこともできない。
できることと言えば、警戒を続けることくらい。
マトッシュは積極的に協力してくれくれるけど、やっぱり悪いと思う。
それに、いつか限界が来る。
肉体的にも、精神的にも。
*
日曜日。今日は晴れた。
やっとこの日が来たかと、ついひとりごちた。
が、レジーナも同じだったようで、朝顔を合わせた時普段より生気があるように見て取れた。
詰め所の衛兵は全然話を聞いてくれなかったが、今日来る衛兵は別だ。
もともと城に詰めていた衛兵であるから、軍人畑。
互いにいがみ合っている分、良く動いてくれるはずだ。
「残念ですが、前任者は諸事情でやめてしまわれました」
午後から、雨が降った。
回想が長くなりそうです。