110 回想
今日も今日とて子供たちに戦技を教えていると、それは唐突に来た。
怪しい動きをしている人間の気配を感じ取った。
それも二人で、一人は戦闘経験の深いことを容易に読み取れる足さばきをしている。
そしてもう一人は、なんというか、武器ではなさそうな何かを持っているのか?
よくはわからないが、安全のため子供たちには大きな声を上げながら教会の中に入りレジーナに誰も出さないように伝言してくれとだけ言い、訓練用ではないしっかりと刃のついた槍を取り出して足音を消しつつ気配の方へとゆっくり歩いていく。
言った通りに大きな声を上げてくれるおかげで足音を聞かれることもなく近づくことができたのだろう。
身体を建物の影に隠しつつ庭の裏側に回っていくと、確かに先ほど気配を感じた二人組がいた。
一人は帯刀していて、もう一人は藁や小枝と小型の器械か何かを持っているようだ。
何の機械かはわからない、が、あんなものをもっていることから察するに、教会を燃やそうとしているのは確かだろう。
素人の方は簡単に捕まえられるだろうが、手練れの方はまず無理だろう。
それに近づく途中にこちらに感づくのは間違いない。
しょうがない、一撃で殺す。
魔力を練り上げ、ゆっくりと地面に伝えていく。
ゆっくり、ゆっくり……。
「――っ!?なんだ!」
相手の足を一瞬で土で拘束し締め上げたところで、懐に飛び込んで頭、具体的には目を貫き脳みそをかき回す。
「う、うわあっ!」
呻き声一つ上げず死んだであろうことを確信し槍から手を放し、もう一人の何が起きたか理解していなさそうな方の腹に蹴りを叩き込む。
何か汚らしいものを吐き出し倒れていったそいつには目もくれず、辺りに他の敵がいないか気配を探る。
・・・・・・・・・。
いない。
死体は近くの墓にでも埋めるとして、この汚れた方はどうしようか。
「……レジーナ!安全は確保した」
ゆっくりと扉が開かれ、レジーナが恐る恐るといったように出てくる。
そしてマトッシュの顔を見、倒れている二人の男を見てほっと息をついた。
「ありがとうマトッシュ。あなたがいなければ……きっと」
「――それより、誰かわかるか?」
問いかけに対して首を横に振られる。
しかし、ただ、と前置きしてから語りだす。
「前、一度武器を持った三人組が子供の誘拐という名目で来たことが。その時はたまたまトワが助けてくれたけれど」
「……そうか」
考えてみる。
この教会には、金銭的な価値のあるものはほとんどない。
あっても神の十字架だけで、それを盗もうなんていう背信者はまずいない。
その上、燃やそうとしていたのは確かであり、盗みなどの可能性は排除していいだろう。
だとしたら、殺しが目的か?
しかし、殺しに放火などという確実性の低い方法を選ぶだろうか。
殺される理由がある人間もおそらくいない。
まだ盗みよりは可能性がある程度だ。
他になにか可能性があるだろうか。
「マトッシュ、マトッシュ!」
「あ、ああ。どうした」
「上の空だったけど大丈夫?」
「問題はない」
「そう。それで、そこの人生きてるのね?尋問してくれない?方法の如何は問わないから」
「ああ」
肯定の意を返して生きている方を引きずって教会内に連れ込む。
色々考えてはいたが、本人から聞くのが一番早いだろう。
そう結論付け、部屋の一室に投げ入れ、尋問を始めた。