109 回想
レジーナとマトッシュのお話。興味が無い方は飛ばしてくださって結構です。
朝、今日も日が昇り暗い裏通りにも光が差す。
その日の出とともに、一人の男が周りより少し大きい建物――教会から出てきた。
彼はマトッシュ。かつて貴族に雇われトワと戦い敗北し、今はここに居候している。
彼は広場に出ると、舞うように槍をふるい始めた。
その動きは、前トワと戦った時よりも疾く鋭く、どこか吹っ切れたようにも見えるものだった。
舞いが終わるころになって、教会からシスター服を着た女性が一人出てくる。
舞いが終わった彼がレジーナと呼んだ彼女は、この教会のシスターでありマザーであり、先生である。
そして何を隠そう彼女こそが、戦いに負け路頭に迷っていたマトッシュに教会の部屋を貸している張本人である。
そんな彼女は彼の修行に特に目もくれず、朝食ができたと告げて戻っていった。
彼もその態度には慣れているようで適当に返事を返し、汗を流すのだろうか、服を脱いで水をかぶった。
彼らの朝は、こうして始まる。
*
彼らが朝食をとった後、教会は学校としての役割を果たし始める。
十数人の子供たちが教会に集まってきて、揃った時点で授業が行われる。
彼らが今やっているのは小学生レベルの算数ではあるが、こちらの世界では高等教育に等しい。
それに、筆算を導入して以来効率も上昇している。
この子供たちは、役人の卵なのである。
しかし、それが身に合わないのか、それともただ嫌いなのかわからないが、マトッシュに訓練を申し込む子供もいる。
レジーナとしては周囲の集中力を欠くような行動をする子ばかりだったので、相手をしてくれるのならありがたいと言うことで、マトッシュによる戦闘訓練も行わている。
もちろん、体が悲鳴を上げるほどつらいものではあるが、文句をいう子はまずいない。
そうこうして数時間たち、昼食をとってさらに二三時間ほどした後に子供たちは帰る時間となる。
子供たちを家に帰した後、茶でも飲みつつ子供たちの様子について語らいあうのが、彼らの日課となっていたのだった。
ある時までは。