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あまりない俺の私物は既に荷造りが終わっているようで、あとはウティーゴを待つだけになった。
今日も今日とてネメシアとブラックジャックでもしつつ待っていると、ウティーゴもすぐに来て準備ができたという。
心残りになることは、ない。
帰ろう、国へ。
*
帰りの道は一度通った道、慣れた道であり、すでに勇者一行が通った後がありありとわかる。
少人数のこちらは勇者達より移動が速く、二日目にして道を変えることにした。
*
「そういえば、なんで帰りを急いているんだ?」
三日目になって、初めてウティーゴに聞いた。
きっとあまり伝わっていないと思うのだが、ペースが速い。
馬をつぶさないぎりぎりのペースだ。
「……国へ向かうその日に、書簡が届きました。国の情勢が悪いと。最悪の場合、クーデターも」
「ふむ……起こるとしたら、いつだ?」
「一か月以内には」
「急ぐか。馬じゃ遅い」
俺の知らないうちに国の危機らしい。
車を出すか、と考えたがこの世界の道路が舗装されているわけがない。
装甲兵員輸送車、ならばどうか。
あれは荒地でも不整地でも走破できる。
馬を道端にとめ、ウティーゴの馬は逃がしてしまう。
世界でも代表的な装甲兵員輸送車を出し、乗り込む。
ネメシアとウティーには後ろのハッチから乗ってもらう。
運転は、もちろん俺。
精々時速六十キロが限界だ、どうにかなるだろう。
*
結局、それから二日ほどして無事、事故らずに国に帰ってきた。
青い顔をしたウティーゴがこれに乗ったままでは警戒されるということで、都の壁がみえるあたりで一度降車して馬を出し、到着したのは夕方になった。
顔パスで門を抜け、懐かしき城に向かうのだが、しかし、人々がピリピリしている気がする。
何があったのかは知らないが、気を付けよう。
城の門番もパスして、城内へ。
「あら……レジーナ?」
城内でウティーゴと別れ、昔の部屋に向かう途中で出会ったのは、意外なことにレジーナとマトッシュだった。
「そういうあんたは、ネメシア?帰ってくるの早かったわね」
「ええ、私としては別に帰ってきたかったわけでもないのだけれど」
「そ。……ま、無事で何よりね」
ネメシアが目を見開いて驚いている。
心配するのがそんな変なことになる関係って何があったんだか。
「で、マトッシュ。なぜ王城に?」
「……いろいろあった。長くなる」
「じゃあ、荷物を置いてきてから聞く。いいか?」
「ああ」
あまりの衝撃に『あ』とか『う』しか喋れなくなっているネメシアを引っ張って部屋に連れていき、荷物を置いてからホールの様な場所で合流する。
さ、話を聞こうか。
次はおそらく回想になります。