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翌日。
ネメシアには荷物をまとめてもらって、俺は王城へと向かった。
初めての時とは違い、もはや顔パスの状態となっている門番に少し時の流れを感じる。
これで少しお別れになる。
スーさんにしばしのお別れを告げに行こう。
*
「おー、お疲れさんなー、トワ」
「お疲れさん。疲れてそうだな」
約束をするでもなく今日も門――といっても、これは王城の敷地内に入る門ではなく、城そのものに入る門なのだが、そこにもたれかかっているスーさんに出会う。
今日のスーさんは実際に目にくまができており、言動にも力がない。
「はははー、まあなー。くそみたいにつまらんことばっかでなー。戦闘ならいいんだけどー、礼儀やらなんやらでなー。はー・・・」
「それはなんとも、ご愁傷様。まあどうせ、こっから先は戦闘ばっかだろーからの」
「せやのー。……そういや、そうはなんのご用事でー?」
「んー、となー」
きっかけを作ってくれるのは嬉しいが、しかし。
……何と切り出せばいいか。
そう悩んでいると、しかし、ああ、本当に聡い。
「――次の戦争のお誘いか?」
片口の端に笑みを浮かべ、右目だけを細めた。
狂ったようなその顔は、知性も何もないように見えて、酷く冷徹な知性――何かを殺すことを快楽と知り、そのために動くことをそう呼ぶのならではあるが、それがたたえられていた。
*
午後になると、正門から大通りを抜けて王城まで、人がごった返していた。
誰も彼もが勇者を――魔族を殺してくれる勇者を歓迎し、壮途に就く彼らを歓送するように歓声をあげ、歓んでいる。
王城の敷地に入る大きな門がゆっくりと開き、絢爛とした鎧を纏った騎士団が先頭を歩く。
自然と道を開け、人々は大きな、しかし小さい歓声をあげる。
というのも、その次にあがった歓声。
後に続いて整然と歩いてくる勇者達、多くは立派な鎧を着、値千金の武器を身にしている彼ら彼女らを見てあがった歓声は、先ほどのものよりも遥かに大きく共鳴して響いているかのようであったのだ。
スーさんが面倒だと言っていたのはこのことだったのだろう、軍隊のように統率された行進は人々にその勇猛さを想像させるのに十分だったろう。
後にもさらに軍隊が続き、大通りの中心、広場のようになった場所で一度立ち止まると一斉に魔法が放たれ、花火のように爆発する。
大通りは極限の熱狂に包まれ、爆音に劣らぬ声が響き渡る。
熱狂が冷めやらぬままにさらに行進し、堂々と門の外へと歩いて行った。
ああ、打つ手なし!と、いうべきかどうか。
まだ……。まだ、まともかもしれない。
判断は先に送ろう。時間はまだあるのだ。
街道の向こうまで行った勇者達が見えなくなって、やっと熱気が収まった。
戦争とは、まことに人を狂わせるか。