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その後、ちょっと話をして決まったことがある。
パヴェールが新生エルフ国に引き取られることになった。
というのも、パヴェールの姉――かつて貴族のお宅から盗ってきた彼女が強く望んだらしい。
このことを一番惜しんだのはネメシアだった。
まるで妹のようにかわいがっていたからか、別れる際には目尻に涙が浮かんでいた。
次点を上げるならウティーゴなのだが……。
パヴェールに仕えていたと聞いていたが、如何せん表情が変わらないので雰囲気で察するほかなく、ある程度しかわからない。
個人的にはちょっと賑やかしが減った程度なのだが。
しかしパヴェールには気に入られていたのか、今も服の裾を引っ張られて帰路に発てない状態だ。
「で、パヴェールさん?自分で残るって言ったんだから離してくりゃれよ」
「や。のこる」
「そうは言うがな、やることもあるわけで。それに、安全だしここの方がいいって、な?」
「……イル」
呟きとともにパヴェールの体を飛び出した輝きが、ウティーゴとネメシアの体を通り抜けて俺の左胸に吸い込まれる。
不思議な温かさが俺の体を巡り、右胸から輝きが飛び出しパヴェールの下へと戻っていった。
「パヴェール、今のは?」
「みんなが、ぶじで、いられますようにって……おねがい、したの」
この言葉に心揺り動かされたのか、ネメシアが飛び出してパヴェールを抱きしめた。
ああ、よきかな。
「絶対に、みんなで帰ってくるわ」
「まってる、ね。……おねえ、ちゃん」
パヴェールも抱きしめかえす。
感動的なところ申し訳ないが、そろそろ帰らねばならんだろう。
後ろ髪をひかれる思いで出発する。
やることも多いのだ。
戦争のためにも。
*
二度目は簡単に森を抜けて王都に帰った。
魔物すらいない簡単な帰り道だった。
それで、王都に帰ってきて時間は昼過ぎほどか。
明日勇者が出発するらしい。
それで町はお祭り騒ぎ、うるさいったらありゃしない。
スーさんあたりは銃声のほうがいいとか言い出すんだろうな。
まあ、でも今日は何もすることもないし寝よう。
……すこし、部屋が広かった。