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次の日。
朝早くから、寝ているパヴェールを背中に負ぶりつつ森の中を歩く。
うっそうとした森の中は、あの小国の森とは違って本格的に道がなかった。
けもの道とも言えないような道をサバイバルナイフでかき分けながら進むのはなかなかに骨が折れる。
のだが、ウティーゴはまるで平原を歩くかのごとくすいすい歩いていく。
まるで森がウティーゴのために道を開けているかのようだ。
「なあウティーゴ。それどうやってんの?」
「それ、とはどれのことでしょうか?」
「その、森をすいすい歩く方法」
こんなこと話している間も、簡単に森を進んでいく。
もう火炎放射器用意しようかな?
「これのことでしたか。これは森の精霊の祝福を受けた者、つまりエルフに許されたものでございますので、トワ様といえどもどうしようもないかと」
「そういうもんか……」
精霊といえば一匹心当たりがあるが、やはりダメなのだろうかね。
そう思っていると、自分の周りを輝きが舞っているのが見え、不思議なことに森に道ができた。
狸に化かされたんじゃないかと思ったが、道があるのは確かだ。
「……不思議なものだな。ネメシアは俺の後ろにピッタリつくといい」
「あら本当、道ができたわ」
「末恐ろしいものです」
魔法とかもそうだが、いったいどういう原理何だろうな。
暇があったら解明してみたいもんだ。
*
森は深い。
今は一時間ほど歩いたところで見つけた小川の近くで、休憩をとっているところだ。
木を背に座ってもたれかかりつつ、抱きしめたネメシアの髪の毛をいじってじゃれていると、ウティーゴから話があると言われた。
最近多いね、そういうの。
ネメシアにパヴェールを任せて、少し離れたところで話が始まった、
「トワ様、今回の交渉は私たちの未来に関わるものです」
やけに真剣な面持ちでそんなことを言う。
思わず軽口で返そうとするが、その前に言葉が続いた。
「私、パヴェール様、そしてネメシア様にも。そして、その場合において、トワ様は敵となるでしょう」
「……どういうことだ」
一呼吸おいて、ウティーゴが重々しく話し出す。
その内容は、その表情以上に真剣な話だった。
「我々は、人間に対して戦争を仕掛けます」
*
休憩も終わり、また歩き出す。
さらに一時間たったか経たないかくらいの時。
森はまだ開けないが、ウティーゴが手で歩みを制した。
なにかあるのか、と言うとパヴェールを起こせと言う。
「パヴェール?」
「……?ふわぁ……。おは、よう?」
「ああうん、おはようおはよう」
適当に返しつつウティーゴに話の続きを促すが、黙して待つのみだった。
「……懐かし、い。イル?」
辺りの森を見回してそう言うと、風景がぐにゃりと変わった。
先ほどまでの森の景色は一瞬にして消え失せ、数件の家屋が出てきたのだ。
その中に、まばらにエルフが見える。
こちらに気づいた一人が叫んだことで、大騒ぎに発展した。