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次の日。
朝食ののちに、ウティーゴに連れられネメシアとパーヴェルも一緒に街の外へ出た。
俺らは護衛というわけだが、何が出るんでしょうね。
予想はついてるけど。
数分雑談しながら待っていると、森の奥から人……何かが出てきた。
一見人だが、身体的な特徴を鑑みるにエルフだ。
予想通りといったところの彼らは、深くローブのフードを被ったパヴェールに熱い目線を注いでいる。
ネメシアとアイコンタクトを取り、二人でパヴェールを隠すように前に立った。
相手の代表者らしきエルフ――おそらく前の貴族宅襲撃の時に会った奴だろう、そいつが前に出てきた。
ウティーゴが対応するように、少し前に出た。
何か白熱の話し合いをしているようだが、他のエルフは一切パヴェールから目を離そうとしない。
少々気色悪い。
そんなこんなで話し合いはまとまったようで、こちらにウティーゴとそれと話していたエルフがやってくる。
「王女様、我々と一緒に行きましょう。王子も、貴方様のお姉様のお一人もいます。ご両親の、王様と妃様のことは残念でしたが、もう一度我々で立て直しましょう。さあ」
中性的かつよく響く声でそうまくしたて、パヴェールに手を伸ばす。
甘い笑顔で、大抵の人ならその手を取るだろうが、パヴェールは俺の後ろに隠れ服の裾を引っ張るだけだ。
それに業を燃やしたのかもっと強い口調で誘うが、動く気配はない。
「さあ、行きましょう!はやく!我々の国を再建させましょう!さあ!」
「・・・や」
「……今、なんと?」
「や!」
俺を盾にして敵愾心たっぷりで言う。
こんなに強い口調なのは初めてか。
相手もそうなのか、驚いた顔をして、しかしさらに憤慨した様子で無理やりパヴェールの手を取ろうとする。
流石に見逃すわけにもいかないので、手を叩き落した。
「貴様、人間の分際で……!」
「……醜い」
パヴェールが、冷たくそう発した。
気づけば、ネメシアもウティーゴも、ごみを見るような目でこのエルフを見ていた。
「……交渉は、決裂したということでよろしいでしょうか」
「チッ」
ウティーゴがそう言うと露骨に舌打ちをして後ろを向き、待機していたエルフに指示を出している。
もう一度こちらに振り返ると、上げた手を振り下ろした。
それと同時に、後ろで待っていたエルフたちが弓をこちらに向けた。
「トワ!」
「トワ様!」
「……っ!」
ネメシアとウティーゴの声が響き、パヴェールが俺の服の裾をより一層強く掴んだ瞬間、放たれた矢を結界で止めた。
「殺してくださって構いません!」
「りょう、かい!」
ウティーゴの許可とともに結界を消し、パヴェールが裾をつかむ力を弱めた瞬間にネメシアとともに吶喊する。
後ろで矢を撃ってきた六人の内、俺が二人、ネメシアが四人瞬く間に殺した。
「おのれ人間風情が……!」
「それが、醜いの……」
パヴェールが一瞬で味方のエルフを全て殺されたエルフに歩いて近づいていく。
よく見ると、その近くにはきらきらと光るあの精霊が舞っている。
「……消えて」
風に乗って聞こえてきたその呟きに応えるように、風がエルフをバラバラに引き裂いた。
「汚い……」
そう言って戦いは終わった。
何だったのかはわからないが、変に選民思想を持った妙な奴だったな。
*
「パヴェール様もトワ様も、お手数をおかけして申し訳ありません」
「いや、いいけど。帰っても?」
「はい、そういたしましょう」
そう言うと何の未練もないように踵を返した。
ふむ。
*
ウティーゴは自分自身のことハーフエルフだと言っていた。
昔読んだ話では、エルフは混じり物を人間と同じくらい嫌っているという感じだったはずだ。
となると、おそらく王女のパヴェールを手に入れるために仕方なくハーフエルフのウティーゴと手を組んだ、というとこか。
しかし、なぜパヴェールはエルフ達についていかなかったのだろうか。
純血の、王家に連なるエルフのはずなのにエルフを汚いと言ってのけるのだし、なにか理由があるのか。
今度聞いてみるか。
次回はもしかしたら再来週になるかもしれませんが、どうかご了承ください。